アルバムレビュー:This Is All Yours by Alt-J

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:2014年9月22日

ジャンル:Indie Rock / Art Rock / Indietronica

概要

This Is All Yoursは、イングランドのalt-Jが2014年に発表した2作目のスタジオ・アルバムである。Mercury Prizeを受賞したデビュー作An Awesome Waveに続く作品で、Gwil Sainsburyの脱退後、Joe Newman、Gus Unger-Hamilton、Thom Sonny Greenの3人を中心に制作された。プロデューサーは前作に続いてCharlie Andrew。ギター、キーボード、電子音、サンプリング、変則的なリズムを組み合わせる基本的な方法は維持しながら、音を詰め込むだけでなく、静寂や長い余韻までアレンジの一部として扱っている。

全体を緩く結ぶのが「Nara」という言葉である。奈良公園の鹿が自由に歩く光景に着想を得たイメージが複数曲に現れ、自由や欲望について考える入口となっている。ただし、アルバム全体が一つの物語を追うコンセプト作というわけではない。文学や映画を思わせる断片、性的なイメージ、自然の風景などが曲ごとに組み合わされ、Joe Newmanの癖の強い発音によって意味と音の境界も曖昧になる。前作の緻密さを保ちながら、より広い空間と長い曲を使うことで、alt-Jの奇妙なポップ感覚を拡大した作品である。

全曲レビュー

1. 「Intro」

声の断片、電子音、打楽器的な音を積み重ね、通常のロック・バンドらしいギターの開始を避ける。リズムは存在するものの、一定のビートへすぐ固定せず、音が現れては消えることでアルバムの空間を少しずつ組み立てていく。前作でもイントロを独立させていたalt-Jだが、ここではより音響作品に近く、メロディより質感が中心だ。これから聴く作品が、単純な曲の集合ではなく曲間の空気まで意識して作られていることを知らせる。

2. 「Arrival in Nara」

ほとんど囁くようなNewmanの声と静かなギターから始まり、急いで大きなサビへ進まず、奈良という場所へゆっくり到着する感覚を作る。伴奏には広い余白があり、一つひとつの音が消えるまでの時間も聞こえるほどだ。歌詞は旅行案内のように具体的な奈良を描写するのではなく、この場所をアルバム内の象徴的な空間として導入する。前曲の抽象的な音響から最初の歌へ移る橋として、静けさそのものを利用した曲である。

3. 「Nara」

前曲から連続するように始まり、やがてコーラスと鍵盤が広がってアルバム最初の大きな景色を作る。奈良の鹿から連想された「自由」という考えを背景に、同性婚を含む、誰を愛するかという選択の自由へ視点を広げている。説教調の社会的メッセージにするのではなく、Newmanの声を幾重にも重ね、個人的な願いと幻想的な風景を混ぜているのがalt-Jらしい。静かな「Arrival in Nara」と合わせて一つの長い導入部のように機能する。

4. 「Every Other Freckle」

低いベース、乾いた打楽器、アコースティック・ギター、電子音が目まぐるしく入れ替わり、本作でも特に細部の多いアレンジを持つ。歌詞では相手への性的な欲望を、身体や食べ物を思わせる奇妙で時に不穏な比喩へ変換する。滑らかなラブソングとは正反対で、親密さと所有欲が区別しにくいところまで接近するのが特徴だ。曲も一つのグルーヴを維持せず、突然音を抜いたり別の音色を差し込んだりするため、欲望の落ち着かなさが構成そのものに表れている。

5. 「Left Hand Free」

ブルース/ガレージ・ロックを思わせるギター・リフと手拍子的なリズムを使い、アルバムの中では異例なほど直接的に進む。Newmanのボーカルにも普段の細かな重ね方が少なく、サビは短く覚えやすい。alt-J特有の複雑なアレンジを期待すると意図的に単純に聞こえるが、前後の繊細な曲と並ぶことで、この粗いロックンロールが強いアクセントになる。バンドの代表的な音を凝縮した曲というより、普段とは違う簡潔な形式を試した異色のポップ・ナンバーである。

6. 「❦ (Garden of England – Interlude)」

イングランド民謡「The Rakes of Mallow」を下敷きにした短いインタールードで、電子的な質感が強い前半から一時的に別の時間へ移動する。笛を思わせる音色と素朴な旋律が中心となり、歌詞を使って物語を進める役割は持たない。アルバム中盤にこうした小さな器楽曲を置くことで、「Left Hand Free」の明快なロックから次の「Choice Kingdom」へ直接つながず、耳を一度リセットしている。

7. 「Choice Kingdom」

音数を絞った伴奏の中で、Newmanの声とコーラスが静かに重なる。タイトルには選択や支配を思わせる言葉があるが、歌詞は明確な物語を説明するより断片的なイメージを並べ、聴き手が関係を補う余地を残す。リズムも身体を強く動かすものではなく、声の呼吸に合わせて進むため、前半の「Every Other Freckle」とは対照的だ。アルバムの広いダイナミクスを支える、静かな中心部として機能している。

8. 「Hunger of the Pine」

Miley Cyrusの「4×4」から声をサンプリングし、その断片を曲の重要なフックとして使用する。静かな電子音と低いリズムから始まり、後半へ進むにつれて管楽器を含む音が広がるが、典型的なロックの大サビには着地しない。歌詞では離れた相手への欲求や欠落感が強く、タイトルの「飢え」が身体的な欲望と精神的な空白の両方を思わせる。サンプルを装飾ではなくNewmanの声への応答として配置したことで、人間の声同士の奇妙な会話が生まれている。

9. 「Warm Foothills」

複数のゲスト・ボーカルを細かく編集し、一つの歌声が途中で別人の声へ入れ替わっていく独特の作りを持つ。アコースティック・ギターを中心とする伴奏は非常に穏やかで、声の編集技法が複雑でも表面上は自然なフォークソングのように聞こえる。暖かな丘や自然を思わせる歌詞の風景も、前曲の切迫した欲望から距離を取らせる。高度なスタジオ処理を派手な電子音ではなく、人間の声を滑らかにつなぐために使った点が面白い。

10. 「The Gospel of John Hurt」

映画『Alien』でJohn Hurtが演じた人物を連想させる題名を持ち、身体の内部に潜む異物や不安を思わせるイメージを展開する。低く反復するリズムの上に声と電子音が少しずつ加わり、終盤ではコーラスが厚くなるため、曲が内側から膨張していくように聞こえる。映画をそのまま説明する曲ではなく、文化的な参照を身体感覚へ変換するのがポイントだ。アルバム後半で再び音の圧力を高める、構成上の大きな山場になっている。

11. 「Pusher」

アコースティック・ギターを中心に据え、Newmanの声を近い位置で聞かせる。題名が示す「押す者」というイメージを含め、他人との関係や自己破壊を思わせる言葉が静かな演奏の中に置かれるため、激しい曲よりむしろ緊張が目立つ。サビで巨大な音へ変化させることもせず、限られた楽器で最後まで感情を保つ。複雑なプロダクションが注目されやすいalt-Jだが、メロディと声だけでも独特の不安定さを作れることを示す曲である。

12. 「Bloodflood pt.II」

前作An Awesome Waveの「Bloodflood」を受け継ぎ、その音楽的・歌詞的な記憶を別の形で再構成する。序盤では静かな声と鍵盤を中心に進むが、曲が進むほどリズムとコーラスの層が増し、過去の断片が押し寄せるように音が膨らむ。単純な続編というより、以前のモチーフを時間が経った視点から見直す感覚が強い。本作だけで閉じず、デビュー作と2作目をつなぐことで、バンドの作品世界に連続性を与えている。

13. 「Leaving Nara」

「Arrival in Nara」「Nara」で始まった旅を閉じる短い終曲である。序盤の奈良が自由を考えるための想像上の場所として使われていたのに対し、ここではそこから離れることでアルバムに円環的な形を与える。大きなクライマックスをもう一度作るのではなく、限られた音と言葉で静かに退場するため、「Bloodflood pt.II」の膨張した終盤との落差も大きい。物語を解決するのではなく、同じ場所へ戻らず旅を終える余韻を残している。

総評

This Is All Yoursの特徴は、An Awesome Waveで確立したalt-Jの細かなアレンジを、より広い空間へ引き伸ばしたことにある。前作では短いフレーズや変則的なリズムが緊密に噛み合う面白さが強かったが、本作では何も鳴っていない時間や、残響が消えるまでの空間にも大きな役割を与えている。「Arrival in Nara」の静けさと「Every Other Freckle」の情報量が同じアルバムに共存できるのは、この音の密度を自在に変える設計があるからだ。

また、電子音と生楽器の区別をあまり意識させない。アコースティック・ギター、ベース、ドラム、シンセ、サンプル、人間の声が同じ素材として扱われ、「Hunger of the Pine」では既存曲の声が新しいボーカル・パートになり、「Warm Foothills」では複数の歌手が編集によって一人のようにつながる。スタジオ技術を未来的な効果音として見せるのではなく、曲の語り方そのものに利用しているところが本作の大きな強みである。

歌詞はかなり断片的で、文学や映画、身体、自然、性といった参照が次々に現れるため、アルバム全体から一つの意味を取り出すのは難しい。ただし、自由と所有、欲望と距離という対立は複数の曲に形を変えて現れる。「Nara」が他者を愛する自由へ開かれているのに対し、「Every Other Freckle」では親密さが強い所有欲へ接近する。この矛盾を解決せず並べることで、人間関係を単純な肯定や否定へ整理しない作品になっている。

デビュー作ほど一曲ごとのアイデアがコンパクトにまとまっておらず、長い静かな部分やインタールードを含むため、即効性では前作に及ばない場面もある。しかし、その余白こそ2作目で選んだ拡張の方向だった。Gwil Sainsburyの脱退という変化を経験しながら、残った3人は前作の成功を再現するより、フォーク、ロック、電子音響、サンプリングをさらに自由に行き来した。This Is All Yoursはalt-Jの奇妙さを派手に増やした作品ではなく、その奇妙さが存在できる空間そのものを大きくしたアルバムである。

おすすめアルバム

An Awesome Wave by alt-J

2012年のデビュー作。変則的なリズム、重ねた声、フォークと電子音の混合がよりコンパクトに整理されている。本作でバンドがどれだけ余白と長い展開を増やしたかを比較できる。

Relaxer by alt-J

2017年の次作。フォーク、電子音、オーケストラ的な響きまで曲ごとの差をさらに広げている。This Is All Yoursで始まった「一つのバンド像に収まらない」方向を押し進めた作品だ。

Veckatimest by Grizzly Bear

2009年作。複雑なコーラス、生楽器、細かなスタジオ処理を使いながら、静けさもアレンジの重要な要素としている。alt-Jとは異なる方法で緻密なインディー・ロックを作った比較対象である。

James Blake by James Blake

2011年作。声の加工、低音、沈黙を大胆に利用し、電子音楽とシンガーソングライター的な歌を接続した。This Is All Yoursにある余白や声の編集を、さらにミニマルな方向から味わえる。

Radiohead by Amnesiac

2001年作。ロック・バンドの編成を出発点としながら、電子音、ジャズ的なリズム、加工された声を同列の素材として扱う。曲ごとに方法を変えながら不穏な統一感を保つ点で、本作へつながる重要な先例である。

コメント

タイトルとURLをコピーしました