
楽曲の概要
「A Part of Me」は、Dancing Is Depressing名義で2022年に発表された楽曲である。Dancing Is Depressingについては一般的な音楽データベースや大手音楽媒体に残されている情報が非常に少なく、この曲についても作詞・作曲者、プロデューサー、詳細な録音時期などを信頼できる一次資料から確認することは難しい。
音楽はローファイな質感を持つインディー/エモ寄りの作りで、中心になるのはアコースティックギターと近い距離で録られたボーカルである。大きなドラムや厚いシンセサイザーで感情を押し広げるのではなく、音数を抑えた演奏によって、個人的な記憶を一人で振り返っているような空気を作る。
この曲の特徴は、失った関係を劇的な別れとして扱うのではなく、過去の相手が現在の自分の中に残っているという感覚に焦点を合わせているところにある。タイトルの「A Part of Me」は、相手との関係が終わっても、その経験まで完全に切り離すことはできないという曲の中心的なイメージとして受け取れる。
歌詞の概要
「A Part of Me」は、過去の関係を忘れようとしても、その人の記憶が自分から離れていかない状態を描いた曲として読める。語り手はすでに相手と一緒にはいない。それでも別れによってすべてが終わったわけではなく、記憶や感情だけが現在にも残っている。
ここで描かれる未練は、相手を積極的に取り戻そうとするものとは少し違う。語り手は時間が戻らないことをある程度理解しているように聞こえる。しかし、理解したからといって気持ちまで整理できるわけではない。
タイトルが示すのも、この切り離せなさである。誰かと長く関わった後では、その人との時間や、その関係によって変化した自分まで消すことはできない。「相手が自分の一部」という表現は、単なるロマンチックな愛情だけでなく、失ったものを抱えたまま生きる感覚として解釈できる。
そのため曲は、失恋から立ち直る過程をきれいな物語にまとめない。忘れることと前へ進むことを同じものとして扱わず、記憶が残った状態そのものに焦点を置いている。
制作背景・時代背景
「A Part of Me」について、制作過程を詳しく説明した公式インタビューや録音資料は広く公開されていない。そのため、具体的な制作エピソードや作者自身の意図を断定することは避ける必要がある。
一方、Dancing Is Depressingという名前は、インターネット上では別の文脈にも現れる。特にアメリカ・ニューヨーク州ロチェスターのインディーバンドAttic Abasementには『Dancing Is Depressing』という作品があり、後年のインディー/ローファイ系リスナーからも支持されている。ただし、この作品名と2022年のDancing Is Depressing名義を同一のアーティストとして扱える確かな資料は確認できないため、両者は区別して考えるべきである。
「A Part of Me」のような簡素な録音は、2010年代以降に広がったベッドルームポップやローファイ・インディーとも共通する。大規模なスタジオで音を磨き上げるより、声やギターの近さ、録音の粗さを残し、それ自体を曲の雰囲気として使う方法である。
こうした音楽では、演奏の完成度を誇示することより、曲を書いた人物と聞き手の距離を縮めることが重視される場合が多い。「A Part of Me」も、壮大な失恋ソングに仕上げず、小さな空間で鳴っているような音にすることで、個人的な記憶を扱う歌詞を前へ出している。
歌詞の抜粋と和訳
この曲については、正確な歌詞を確認できる信頼性の高い公式資料が限られているため、歌詞の直接引用は避ける。
重要なのはタイトルの「A Part of Me」という言葉である。
和訳:私の一部。
曲の中で描かれる喪失を考えると、このタイトルは「離れた相手が今も自分の中に残っている」という感覚につながる。別れによって関係そのものは終わっても、その人との経験によってできた現在の自分まで元に戻すことはできない。その切り離せなさが、タイトルの短い言葉に集約されている。
サウンドと歌詞の考察
「A Part of Me」で最初に重要なのは、音の少なさである。大きなバンドアレンジで始まるのではなく、アコースティックギターを中心とした小さな音像が続く。演奏が聞き手へ押し寄せるというより、自分から少し近づいて耳を傾けるような距離感がある。
ギターも技巧的な演奏を見せるためのものではない。基本となる響きを反復し、その上にボーカルを置くための土台として働く。同じような動きを繰り返すことで、曲は大きく展開するより、一つの感情の周囲を回り続ける。
この反復は、過去の相手を忘れられないというテーマと相性がいい。人が記憶を振り返るとき、必ずしも新しい結論へ向かって一直線に進むわけではない。同じ場面や言葉を何度も思い出し、そのたびに少し違った気持ちになる。「A Part of Me」の演奏にも、それに近い停滞感がある。
ボーカルは大きく歌い上げない。歌手とマイクの距離が近く感じられ、誰か大勢へ向けて訴えるというより、一人で考えていたことがそのまま声になったように聞こえる。この近さが曲の個人的な性格を強めている。
ここで重要なのは、感情の強さと声量を同じものとして扱っていないことだ。失恋を扱う曲では、サビで声を張り、ドラムやギターを大きくして感情の爆発を表現する方法がある。「A Part of Me」は反対に、声を抑えたままにすることで、長く残っている感情を表現する。
つまり、この曲の悲しみは「別れた瞬間」の悲しみではないように聞こえる。別れた直後なら怒ったり泣いたりできるが、時間が経つと感情はもっと曖昧になる。日常生活は続いているのに、ふとした瞬間だけ過去が戻ってくる。その段階の感覚に、この小さな音像がよく合っている。
ローファイな録音の質感も効果的である。すべての音を明るく鮮明に磨き上げず、少し曇ったような響きを残すことで、録音そのものが記憶のように感じられる。昔の写真や古い録音を見返しているときのように、対象との間にわずかな距離がある。
一方で、曲が完全に暗く沈んでいるわけでもない。アコースティックギターの響きには柔らかさがあり、過去の関係を怒りだけで振り返っている印象にはならない。失ったことは苦しいが、その時間自体を否定しているわけではないようにも聞こえる。
この点が「A Part of Me」というタイトルの意味を深くしている。相手が自分の一部として残ることは、必ずしも悪いことだけではない。忘れられない苦しさであると同時に、その人と過ごした時間が現在の自分を作ったという事実でもある。
曲が大きな解決へ向かわないことも重要だ。ポップソングでは最後のサビを大きくし、語り手が何かを乗り越えた感覚を作ることが多い。しかし、この曲では「もう大丈夫だ」という明確な答えより、残ってしまったものをそのまま見つめる感覚の方が強い。
その意味で「A Part of Me」は、失恋を「忘れる/忘れられない」という二択で考えていない曲として聞くことができる。誰かを失った後も、その人との経験は記憶や考え方の中に残る。それを完全に取り除くのではなく、自分の一部として抱えている状態を、簡素な演奏が支えている。
派手な展開や特徴的な楽器を使わないことは、この曲では弱点ではない。むしろ、アコースティックギター、近いボーカル、反復を中心にしたことで、聞き手の注意が細かな感情へ向かう。何かを大声で説明するのではなく、小さな独白をそのまま残すことが「A Part of Me」のサウンドの核になっている。
この曲が好きな人におすすめの曲 5曲
「Never Meant」 by American Football
エモを代表する楽曲の一つで、終わった関係を振り返りながら、感情を大げさに爆発させないところが共通する。「A Part of Me」より演奏は複雑だが、澄んだギターの反復によって過去を思い返す感覚を作っている。
「Lua」 by Bright Eyes
アコースティックギターとConor Oberstの近いボーカルを中心にした静かな曲。喪失だけを直接描く作品ではないが、小さな音量だからこそ孤独や人間関係の不安が生々しく聞こえる点で「A Part of Me」とつながる。
「For Sure」 by American Football
少ない言葉と反復するギターによって、関係が終わりへ向かっている感覚を描く曲である。劇的なサビを作らず、同じ感情の中に長くとどまる構成が「A Part of Me」の静かな停滞感と近い。
「A Werewolf」 by Attic Abasement
Attic Abasementの『Dancing Is Depressing』収録曲。今回のアーティスト名との直接的な関係は確認できないが、ローファイな録音、フォークを基調とした演奏、悲しさと少し奇妙な感覚を同居させるサウンドには共通点がある。
「No Name No. 5」 by Elliott Smith
小さなアコースティックサウンドの中へ、孤独や人間関係の複雑さを詰め込んだ曲。感情を説明しすぎず、声の弱さやギターの響きそのものに重さを持たせる方法は、ローファイな「A Part of Me」を好む人にもつながりやすい。
まとめ
「A Part of Me」は、失った相手を忘れられないことを大きなドラマとして描くのではなく、過去の経験が現在の自分の中に残っている感覚を静かに扱った曲である。タイトルは、その人との関係を完全に切り離すことができない状態を短い言葉で表している。
サウンドの中心にあるのは、ローファイなアコースティックギターと距離の近いボーカルである。音を大きくして悲しみを強調するのではなく、同じ響きを静かに繰り返す。そのため、別れた瞬間の激しい感情より、時間が経っても日常の中に残る記憶の方が強く感じられる。
一方、この楽曲とDancing Is Depressingについては、制作クレジットや本人の発言など確認できる資料が非常に限られている。したがって、具体的な実体験や制作意図まで決めつけることはできない。確認できる範囲では、「A Part of Me」は小さな音像と反復を使い、過去を消すことではなく、過去が自分の一部になってしまった状態に焦点を合わせた作品として捉えることができる。
参照元
- Tunesight「A Part of Me by Dancing Is Depressing(2022)楽曲解説」
- Autonomous and Loud「Music We Like」
- kid with a vinyl「Interviews」

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