
発売日:1971年11月20日
ジャンル:Funk / Psychedelic Soul / Soul
概要
There’s a Riot Goin’ OnはSly & The Family Stoneが1971年に発表した5作目のスタジオ・アルバムである。『Stand!』で人種や性別を越えたバンド編成と高揚感のあるファンクを広く浸透させた彼らが、その明るさを大きく反転させた作品だ。公民権運動後の失望、ベトナム戦争、都市の緊張などを抱えた米国社会の空気と重なりながら、歌詞もサウンドも疲労、疑念、孤立を強めている。ただし社会状況を直接説明する抗議アルバムではなく、個人的な倦怠と時代の閉塞感が区別できないほど混ざっている点が重要である。
制作の中心はSly Stoneで、従来のバンドによる一体感のある録音から離れ、リズム・ボックスを使ったビートや多重録音を多用した。テープへ音を重ねる過程から生じる濁りも含め、各楽器は明瞭に分離せず、ベース、ギター、オルガン、声が薄暗い塊として聞こえる場面が多い。Larry Graham、Freddie Stone、Rose Stoneらの演奏や歌声は残っているが、「バンドが部屋で演奏している」感覚よりSlyのスタジオそのものが楽器になった作品に近い。
その変化は後世のファンクに大きな意味を持った。派手なホーンや速い演奏ではなく、反復する低音とドラムのわずかなずれだけで長時間グルーヴを維持し、さらに録音のざらつきまで音楽の一部にする。華やかな成功の頂点で作られながら、勝利を祝うどころか、その後に残った疲労を記録したようなアルバムである。
全曲レビュー
1. 「Luv N’ Haight」
タイトルはサンフランシスコのHaight-Ashburyと「love and hate」を重ねた言葉遊び。粘るベースと乾いたビートの上で複数の声が絡み、Slyは外へ出ることより自分のベッドにいることを選ぶような倦怠を歌う。かつて共同体や連帯を高らかに歌ったバンドが、ここでは社会から引きこもる感覚をファンクへ変えている。演奏は緩いのに低音の反復が強く、アルバムの重力を一曲目から決めてしまう。
2. 「Just Like a Baby」
リズム・ボックスの単調な脈動と柔らかな鍵盤が作る、眠りかけのようなスロー・ファンク。Slyの歌声も輪郭を意図的にぼかしたように聞こえ、題名にある赤ん坊の無防備さと、大人の依存や弱さが重なっていく。大きなサビへ向かわず、ほぼ同じ温度のまま漂い続ける構成が特徴だ。通常なら欠点になり得る音の濁りが、ここでは意識が霞んでいく感覚そのものになっている。
3. 「Poet」
ギター、ベース、電子的なビートが短いパターンを繰り返し、歌もその隙間へ断片的に入ってくる。自分を語る言葉には自信と皮肉が同居しており、Slyがステージ上のカリスマと私的な人物の境界をわざと曖昧にしているように聞こえる。曲を明快な起承転結へ進めるより、一つのリフの周囲で声や楽器を出入りさせる制作方法が中心で、本作のスタジオ志向がよく表れている。
4. 「Family Affair」
本作最大のヒット曲でありながら、従来のSly & The Family Stoneの祝祭感とは正反対に位置する。リズム・ボックスの乾いたビートとBilly Prestonのエレクトリック・ピアノを中心に、SlyとRose Stoneが家族という逃れにくい関係を冷静に歌う。愛情があっても家族は幸福だけを保証しないという視点があり、歌声にも諦めと親密さが同居する。極端に抑制された音で強いフックを作った点でも画期的なシングルだった。
5. 「Africa Talks to You “The Asphalt Jungle”」
9分近い長さを使い、ベースとパーカッションの反復を延々と持続させる。都市を「アスファルトのジャングル」として捉える題名通り、演奏には蒸し暑く閉ざされたような圧迫感があり、声も明快な物語を語るよりグルーヴの一部として現れる。各楽器が少しずつ異なる場所へアクセントを置くため、同じパターンでも完全な機械反復にはならない。後のファンクやヒップホップにつながる、反復そのものを主役にした曲である。
6. 「There’s a Riot Goin’ On」
タイトル曲として記載されながら、演奏時間は0分00秒。Marvin GayeのWhat’s Going Onへの応答を思わせるタイトルだが、実際の音楽を置かないことで、「暴動」がどこにあるのかという問いだけを残す。アルバムの暗いグルーヴや断片的な歌詞そのものが答えだと考えることもできる。無音を一曲として扱う、短いながら作品全体の不穏さを象徴する仕掛けである。
7. 「Brave & Strong」
前半よりやや輪郭のはっきりしたファンクで、ギターとベースが互いに短いフレーズを返しながら前進する。「勇敢で強く」という題名は励ましのようだが、演奏には晴れやかな勝利感がなく、その言葉を自分自身へ言い聞かせているような緊張が残る。ホーンやコーラスも入ることでFamily Stoneらしい集団性が一時的に戻り、沈んだ作品の中で異なる運動感を作っている。
8. 「(You Caught Me) Smilin’」
柔らかなコーラスとゆったりしたリズムによって、アルバムの中では比較的温かい表情を見せる。誰かに笑顔を見つけられたという小さな瞬間を中心にしており、社会や家族の大きな問題から一度離れる。しかし録音は相変わらず曇っていて、明るさが完全に開放されることはない。喜びさえ少し遠くから聞こえるところに、本作独特の疲れた美しさがある。
9. 「Time」
時計のように規則的というより、少し後ろへ引っ張られるビートが時間の流れを鈍く感じさせる。歌詞では時間という避けられない存在へ意識が向き、Slyの声も力強く結論を出すのではなく、思考の途中をそのまま録音したように揺れる。ベースと鍵盤の間には大きな余白があり、音数の少なさがむしろ緊張を生む。本作のスローなグルーヴを最も深く味わえる曲の一つだ。
10. 「Spaced Cowboy」
カントリーを思わせるヨーデル風の声と、濁ったファンクのリズムを組み合わせた異色曲。ジャンルの境界を冗談のように飛び越えながら、演奏自体はアルバム特有の重く緩いビートから離れない。そのため明るいパロディになるのではなく、奇妙な幻覚の一場面のように聞こえる。Sly Stoneの雑食的な音楽感覚と、作品後半の崩れたユーモアが同時に表れた曲である。
11. 「Runnin’ Away」
ホーンと軽やかなコーラスが前へ出るため、本作では珍しく明るいポップ・ソウルに聞こえる。しかし歌詞は逃避を扱い、楽しげな旋律がその不安を覆い隠している。Rose Stoneらの明るい声とSlyの低い声の組み合わせも効果的で、表面と内側で感情が食い違う。短く覚えやすい曲だからこそ、その笑顔のようなアレンジに潜む皮肉が強く残る。
12. 「Thank You for Talkin’ to Me Africa」
『Stand!』収録の「Thank You (Falettinme Be Mice Elf Agin)」を、極端に遅く重いファンクとして作り直した終曲。元曲の弾むベースと祝祭的な勢いは解体され、低音が地面を這うようなテンポへ変わる。同じ言葉と素材が、わずか数年でここまで暗く聞こえること自体が本作の核心である。過去の成功曲を懐かしく再演するのではなく、その楽観性を疲労した現在から見直してアルバムを閉じる。
総評
There’s a Riot Goin’ Onの革新性は、ファンクをより速く、より派手にしたことではない。逆にテンポを落とし、音を濁らせ、短いリズムを執拗に反復することで、グルーヴだけを曲の中心へ残した。リズム・ボックスも人間のドラマーを単純に置き換える機械としてではなく、その無表情な反復へ生演奏を絡ませるために使われる。この組み合わせによって、演奏には正確さとだるさが奇妙に共存している。
『Stand!』との落差も大きい。以前のSly & The Family Stoneは、多様な人々が一緒に歌い演奏すること自体を理想の社会像として見せる力を持っていた。本作ではその集団の輪郭が崩れ、Sly Stoneの多重録音と個人的なスタジオ作業が前面へ出る。だからといって政治的な理想を単純に撤回した作品ではない。むしろ理想を掲げた後にも残る疲労や矛盾を、明快なスローガンにせず音として記録している。
その濁った録音は現代的な基準なら決して「きれい」ではないが、作品から切り離せない魅力になった。声や楽器が重なって輪郭を失うことで、聴き手は個々の演奏より低音と反復へ耳を向けることになる。この感覚は後のP-Funkをはじめとするファンクだけでなく、反復する短い素材から曲を構築するヒップホップにも通じる。とりわけ「Family Affair」の抑制された機械的ビートは、70年代初頭として非常に先鋭的だった。
一方で、全編に漂う停滞感は聴きやすさと引き換えになっている。明快な展開を求めると長い曲は捉えにくく、以前のバンドの華やかな演奏を期待すれば意図的な粗さが壁になる。しかし、その居心地の悪さを取り除けば作品の意味まで薄くなる。There’s a Riot Goin’ Onは、60年代末の希望に満ちたサイケデリック・ソウルを70年代の疲れたファンクへ変換し、Sly & The Family Stone自身の転換だけでなく、ブラック・ミュージックのその後へ長い影響を残した作品である。
おすすめアルバム
Stand! by Sly & The Family Stone
1969年作。力強いファンクと男女混成のボーカルによって連帯や自己肯定を明るく打ち出している。わずか2年後のThere’s a Riot Goin’ Onと比べると、同じバンドのグルーヴがどれほど暗く変質したかが鮮明になる。
Fresh by Sly & The Family Stone
1973年作。本作の隙間の多いファンクを引き継ぎながら、リズムとアレンジをさらに研ぎ澄ませている。沈んだ質感は残るものの、曲の輪郭は比較的明瞭で、Slyの70年代型ファンクの次段階を確認できる。
What’s Going On by Marvin Gaye
1971年の同時代作。社会の混乱を滑らかなソウルと連続した曲構成で描いており、題名の面でも本作と対照をなす。Gayeが共感と問いかけへ向かったのに対し、Slyは倦怠と断片化へ向かった違いが興味深い。
Maggot Brain by Funkadelic
同じ1971年に発表され、ファンク、サイケデリア、ロックを暗く荒れた音像の中で融合した作品。方法は異なるが、60年代の理想主義の後に現れた不安や混乱を、ブラック・ロックの強烈なサウンドへ変えた点で響き合う。
Voodoo by D’Angelo
2000年のネオ・ソウルを代表する作品。わずかに後ろへ引きずるリズム、低く混ざり合う楽器、反復を重視した長いグルーヴには、There’s a Riot Goin’ Onが切り開いた感覚の遠い継承が聞き取れる。

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