アルバムレビュー：Travelogue by The Human League

アルバムレビュー

2025.03.13

発売日: 1980年5月
ジャンル: シンセポップ、エレクトロニック、ポストパンク

初期ヒューマン・リーグの集大成、エレクトロポップへの進化
全曲レビュー
総評
おすすめアルバム
- 関連記事:

初期ヒューマン・リーグの集大成、エレクトロポップへの進化

The Human Leagueの2ndアルバムTravelogueは、バンドの初期メンバーであるフィル・オーキー、イアン・クレイグ・マーシュ、マーティン・ウェア、フィリップ・エイドリアン・ライトによる最後の作品であり、デビュー作Reproduction（1979年）からの音楽的な進化が顕著に表れたアルバムである。

前作の実験的かつダークなシンセサウンドを継承しながらも、よりメロディアスでリズミカルな楽曲が増え、のちのシンセポップブームへの橋渡し的な役割を果たした作品となった。特に「The Black Hit of Space」や「Only After Dark」など、エレクトロニック・ミュージックの未来を示唆するような楽曲が収録されており、のちのDare（1981年）への布石とも言えるアルバムだ。

また、本作を最後にマーシュとウェアが脱退し、Heaven 17を結成。バンドはフィル・オーキーを中心としたポップ路線へとシフトしていくため、The Human Leagueの”クラシック期”としては最後のアルバムとも言える。

全曲レビュー

The Black Hit of Space
- アルバムの幕開けを飾る異色の楽曲。レコードがブラックホール化し、すべての音楽を飲み込むというSF的なストーリーが展開される。重厚なシンセと機械的なリズムが印象的。
Only After Dark
- ミック・ロンソン（デヴィッド・ボウイのギタリスト）のカバー曲。グラムロックの影響を受けた、ダークでミステリアスなシンセポップチューン。
Life Kills
- 機械的なシンセベースとポップなメロディが融合した楽曲。近未来の都市生活の虚無感をテーマにしている。
Dreams of Leaving
- スローテンポでドラマティックな展開を持つ楽曲。移民や社会の抑圧をテーマにした歌詞が特徴的で、アルバムの中でも最もエモーショナルな楽曲のひとつ。
Toyota City
- 日本のトヨタを題材にしたインストゥルメンタル的な楽曲。工業的なビートとメカニカルなシンセが融合し、無機質な未来都市のイメージを想起させる。
Crow and a Baby
- ポップなメロディが特徴的な楽曲。機械的なシンセとフィル・オーキーのクールなボーカルが融合し、バンドの後の方向性を示唆している。
The Touchables
- アルバムの中では比較的軽快な楽曲で、ユーモアとシニカルな視点が織り交ぜられている。
Gordon’s Gin
- 広告音楽のような実験的なインストゥルメンタル。バンドの遊び心が感じられる一曲。
Being Boiled
- The Human Leagueの初期代表曲であり、1978年にシングルとしてリリースされた楽曲。仏教的なテーマを持つ異色の歌詞と、ミニマルなシンセベースが特徴的。
WXJL Tonight
- ラジオ業界の衰退をテーマにした楽曲。ラストを飾るにふさわしい、ノスタルジックな雰囲気を持つメロディックなシンセポップ。

総評

Travelogueは、The Human Leagueの初期の集大成とも言えるアルバムであり、Reproductionのダークで実験的な要素を維持しながらも、よりキャッチーでリズミカルな楽曲が増え、のちのシンセポップの方向性を示唆する作品となった。

特に「The Black Hit of Space」や「Being Boiled」は、シンセサウンドの持つ冷たさと機械的な美学を強調しており、Dare（1981年）以降のポップなスタイルへ移行する前の重要な作品となっている。また、Travelogueを最後にバンドが分裂し、マーシュとウェアが脱退してHeaven 17を結成することになるため、本作はThe Human Leagueの初期ラインナップの終焉を告げるアルバムでもある。

本作は、シンセポップやポストパンクの歴史を語る上で重要なアルバムであり、機械的で冷たいサウンドの中に漂う独特の哀愁が魅力的な作品となっている。