アルバムレビュー：Crash by The Human League

アルバムレビュー

2025.03.13

発売日: 1986年9月8日
ジャンル: シンセポップ、R&B、ダンスポップ

プロデューサー交代による大胆なR&B路線への転換
全曲レビュー
総評
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プロデューサー交代による大胆なR&B路線への転換

The Human Leagueの5thアルバムCrashは、バンドのキャリアの中でも最も大きなスタイルの変化を遂げた作品だ。前作Hysteria（1984年）での試行錯誤を経たバンドは、アメリカのR&Bプロデューサーデュオ、ジャム＆ルイス（Jimmy Jam & Terry Lewis）を起用し、従来のシンセポップから大きく方向転換。80年代のモダンR&B、ファンク、ダンスミュージックの要素を取り入れたサウンドへと進化した。

このアルバム最大のヒット曲「Human」は、全米シングルチャート（Billboard Hot 100）で1位を獲得し、The Human Leagueにとって初めてのアメリカ市場での成功を確立した。バンドのシンセポップの冷たい機械的なサウンドは、温かみのあるグルーヴィーなプロダクションへと変わり、シンプルでスムーズなアレンジが特徴となっている。

ただし、この制作過程は決して順調ではなく、ジャム＆ルイスがプロダクションの大部分をコントロールし、バンドのクリエイティブな自由が制限されたことにより、内部対立が生まれたという経緯もある。そのため、アルバム全体としてはThe Human Leagueらしさが薄れ、バンド本来のサウンドからやや距離を置いた作品となった。

全曲レビュー

Money
- ファンク色の強いオープニングトラック。タイトなリズムと洗練されたシンセが特徴で、ジャム＆ルイスのプロダクションスタイルが全面に押し出されている。
Swang
- グルーヴィーなベースとシンコペーションの効いたビートが印象的な楽曲。バンドの従来のシンセポップとは一線を画す。
Human
- アルバム最大のヒット曲であり、The Human Leagueの代表曲のひとつ。切ないバラードで、ジャム＆ルイスらしいソウルフルなプロダクションが施されている。フィル・オーキーの感情的なボーカルと女性メンバーのハーモニーが美しく調和している。
Jam
- インストゥルメンタル的な要素を持つトラック。ジャム＆ルイスの影響が強く、シンセサイザーとドラムマシンを駆使したファンクチューン。
Are You Ever Coming Back?
- メロディアスなミッドテンポのポップソング。シンプルなアレンジながら、ソウルフルなボーカルが際立つ。
I Need Your Loving
- 80年代のR&B色が強いダンサブルなナンバー。ファンクとエレクトロポップが融合したアレンジで、The Human Leagueの新しいスタイルを象徴する楽曲。
Party
- タイトル通り、クラブ向けのダンスナンバー。シンプルなビートとキャッチーなメロディが特徴。
Love on the Run
- ポップとR&Bのバランスが取れた楽曲。ジャム＆ルイスのプロダクションが際立ち、メロディの滑らかさが心地よい。
The Real Thing
- エネルギッシュなファンク・ナンバーで、リズムセクションが際立つ。
Love Is All That Matters
- アルバムの最後を飾る感動的なバラード。繊細なシンセとエモーショナルなボーカルが美しい一曲。

総評

Crashは、The Human LeagueがシンセポップからR&B・ダンスミュージックへと大胆にシフトしたアルバムであり、ジャム＆ルイスのプロダクションが強く反映された作品となった。「Human」のヒットは大きな成功を収めたが、バンドのオリジナルの音楽スタイルが薄れたことにより、ファンの間では評価が分かれる作品でもある。

シンセポップの冷たい質感よりも、ウォームなグルーヴとソウルフルなアレンジが前面に出ているため、バンドの従来のサウンドを求めるリスナーにはやや異質に感じられるかもしれない。しかし、80年代のR&Bやダンスミュージックを好むリスナーにとっては、時代を先取りした洗練されたプロダクションが魅力的に響く作品となるだろう。

バンドにとっては商業的に成功したアルバムではあるが、制作過程の混乱や内部の意見対立もあり、次作以降は再びオリジナルのシンセポップ路線へと戻ることになる。本作は、The Human Leagueのキャリアにおける重要な転換点を記録した作品として、再評価される価値があるアルバムだ。