
発売日:2022年5月6日 ジャンル:Alternative Rock / Electronic Rock / Alternative Pop
概要
My Echo, My Shadow, My Covers and Meは、Aaron Bruno率いるAWOLNATIONが2022年に発表したカバー・アルバムである。2020年のAngel Miners & the Lightning Ridersに続く作品だが、今回はBruno自身の新曲ではなく、ABBA、Midnight Oil、Scorpions、Madonna、The Carsなど幅広いアーティストの楽曲を取り上げている。選曲は特定の年代やジャンルに限定されず、ニューウェーブ、ハードロック、ポップ、オルタナティヴ・ロックまで、Brunoの音楽的な背景をたどるような内容になっている。
大きな特徴は、全曲でゲスト・ボーカリストやミュージシャンを迎えていることだ。Tim McIlrath、Brandon Boyd、Nothing But Thieves、Taylor Hanson、Hyro the Heroら、AWOLNATIONとは異なる個性を持つ参加者が原曲とBrunoの間に入り、一般的なトリビュート盤とは違う共同制作の感触を生んでいる。Brunoは原曲のメロディを壊して別物にするより、電子音、歪んだギター、低音の強いドラムなどAWOLNATIONらしい質感へ置き換える方法を選んだ。
そのため、本作では原曲そのものの強さと、誰に歌わせるかという判断が重要になる。社会的なメッセージを持つ曲ではゲストの声質が切迫感を変え、ポップソングでは原曲の明るさを暗い電子音へ移すことで歌詞の別の面が浮かぶ。AWOLNATIONのオリジナル作品にある極端な音量差や奇抜な構成は控えめだが、Brunoがどのようなポップ/ロックの歴史を自分の音楽へ吸収してきたかが見える作品である。
全曲レビュー
1. 「Beds Are Burning」
Midnight Oilの1987年曲を、Rise AgainstのTim McIlrathとともに取り上げる。原曲が持つ先住民の土地の権利をめぐる社会的なメッセージを残しながら、ギターとドラムをより硬くして現代的なオルタナティヴ・ロックへ寄せている。McIlrathのざらついた声にはパンク由来の切迫感があり、Brunoとの掛け合いによって歌詞が懐古的な1980年代ソングではなく、現在にも向けられた要求として響く。
2. 「Eye in the Sky」
The Alan Parsons Projectの1982年曲を、Nothing But Thievesのメンバーとカバーしている。原曲の滑らかなソフトロック感を保ちながら、電子音の低い脈動と広がりのあるボーカルを加え、監視する「目」という歌詞の不穏さを強調する。美しいメロディと、相手の行動をすべて見通しているという冷たい視点の落差が、AWOLNATIONの暗い音響によってさらに大きく聞こえる。
3. 「Take a Chance on Me」
ABBAの1978年曲にJewelを迎え、原曲の華やかなディスコ・ポップを少し陰影の強いサウンドへ変えている。中心となるのは依然として非常に強いメロディだが、声と電子音の空間を広く取ることで、「私を選んでほしい」という歌詞に原曲とは違う切実さが加わる。ABBAの精密なコーラス・ポップとAWOLNATIONの電子的なプロダクションが意外なほど自然につながる一曲だ。
4. 「Maniac」
Michael Sembelloが映画『Flashdance』のために歌った1983年曲を、Nothing But ThievesのConor Masonとともに再構築する。原曲の高速シンセと強迫的なリズムはAWOLNATIONの音楽とも相性がよく、ここでは低音とロック的な圧力を増している。Masonの高音域まで一気に上昇するボーカルが、何かに取り憑かれたように努力する人物の危うさを強め、単なる80年代懐古にはならない。
5. 「Just a Friend」
Biz Markieの1989年曲をHyro the Heroとカバーした、本作でも特に大胆な選曲である。恋愛相手から「ただの友達」と説明された人物の疑念と情けなさを、原曲はユーモアの強いヒップホップとして描いたが、AWOLNATION版ではロックの重量感が加わる。Hyro the Heroのリズミカルなボーカルによって原曲との接点を残しつつ、Brunoの大げさな歌唱が失恋の滑稽さをさらに拡大している。
6. 「Material Girl」
Madonnaの1984年曲を、HansonのTaylor Hansonと取り上げる。原曲は物質主義的な人物像を鮮やかなポップとして演じていたが、ここでは男性ボーカルへ置き換わることで、歌詞が持つ皮肉や演技性が違った角度から見えてくる。電子ビートとシンセの骨格は残しながら、AWOLNATIONらしい太い音へ調整されており、80年代ポップへの敬意と距離感を同時に感じさせる。
7. 「Wind of Change」
Scorpionsが1990年に発表したロック・バラードを、Portugal. The ManのBrandon Boydとカバーする。原曲が冷戦終結期の変化への希望を背景にしていたのに対し、2020年代に歌われることで「変化」を求める言葉には別の不安も重なる。大きなメロディを無理に崩さず、空間の広いギターと声の重なりを使うことで、スタジアム・ロックの壮大さをAWOLNATION流のオルタナティヴ・ロックへ移している。
8. 「Waiting Room」
Fugaziの1988年曲を、Tim McIlrathとともに演奏する。原曲の魅力であるベース主導の緊張感と急激な動きを尊重しながら、音を厚くしてより重量級のロックとして聞かせる。待ち続けることへの拒否を歌った言葉は、McIlrathのパンク的な歌唱と非常に相性がよい。AWOLNATIONの電子的な側面よりBrunoのハードコア/オルタナティヴ・ロックへの関心が表に出たカバーである。
9. 「Drive」
The Carsの1984年曲を、IncubusのBrandon Boydと取り上げる。原曲自体が抑制されたシンセ・バラードであるため、AWOLNATIONは極端な改造を避け、空間のある電子音と柔らかなボーカルを中心にしている。「誰が君を支えるのか」と問い続ける歌詞は優しさと距離の両方を含み、Boydの滑らかな声がその曖昧さを生かす。アルバム後半で音量を落とし、メロディそのものへ耳を向けさせる曲だ。
10. 「Flagpole Sitta」
Harvey Dangerの1997年曲を、Tim McIlrathとともにカバーする。皮肉、自己嫌悪、社会への苛立ちを高速で並べる原曲の性格を保ちながら、ギターを太くし、ボーカルの攻撃性を増している。サビの有名なフックはそのまま生かされるため即効性があるが、McIlrathの荒い声が加わることで、90年代オルタナティヴ・ロックの神経質なユーモアがより直接的な怒りへ近づいて聞こえる。
11. 「Alone Again」
Dokkenの1984年曲を、MidlandのMatthew Komaと取り上げる。原曲のハードロック・バラードらしい大きな感情を残しながら、ギターだけで押すのではなく電子的な空間を広げ、孤独をより内向的に聞かせる。失った関係を振り返る歌詞は非常に直接的で、複雑な再解釈を必要としない。Brunoはメロディの強さを尊重し、1980年代のパワー・バラードを現代的な音像へ置き換えている。
12. 「Beds Are Burning (Reprise)」
最後は冒頭の「Beds Are Burning」へ戻り、アルバムを円環状に閉じる。単に同じ演奏を繰り返すのではなく、リプライズとして曲のメッセージをもう一度意識させることで、多様なカバーを並べた作品に枠を与えている。恋愛、消費、孤独などさまざまな題材を通過した後で社会的な要求を持つ曲へ帰るため、カバー・アルバムを単なる懐メロ集として終わらせない役割を果たしている。
総評
My Echo, My Shadow, My Covers and Meは、原曲を認識できなくなるほど解体するタイプのカバー・アルバムではない。Brunoは基本的にメロディ、歌詞、代表的なフックを尊重し、その周囲の質感をAWOLNATIONの音へ置き換えている。電子的な低音、強く圧縮されたドラム、歪んだギター、広い空間を使ったボーカルという方法によって、1970年代から1990年代までの曲が2020年代のオルタナティヴ・ロックとして一つの作品に収まる。
選曲の幅広さは、このアルバムの最大の面白さである。ABBAとFugazi、MadonnaとDokken、Biz MarkieとMidnight Oilを同じ作品に置くと、通常なら雑多なコンピレーションになりかねない。しかしBrunoはジャンルより、強いフック、反復するリズム、感情を直接動かすメロディという共通点を見ている。「Take a Chance on Me」と「Waiting Room」は表面的には遠い曲だが、どちらも短いフレーズの反復によって身体的な推進力を作るという点ではつながっている。
ゲストの存在も単なる名前貸しではなく、曲の性格を変える装置として働く。Conor Masonの高音は「Maniac」の強迫性を増し、Tim McIlrathはパンクに近い曲へ切迫感を与える。逆に「Drive」ではBrandon Boydの滑らかな声が、原曲の抑制を壊さずに現代的な距離感を作る。Bruno一人で全曲を歌えば統一感はさらに強くなったはずだが、ここでは声の違いそのものを楽しむことが作品の目的になっている。
一方、原曲の構造を大きく変えないため、カバーとしての驚きが小さい曲もある。それでも本作の価値は、名曲を「AWOLNATION化」する技術だけにあるのではない。どの曲を選び、誰と歌い、どの部分を残すかを通して、Bruno自身の音楽的な系譜を見せているところが重要だ。AWOLNATIONの電子ロックが、ニューウェーブや80年代ポップだけでなく、ハードコア、ヒップホップ、ハードロックまでを材料として成立していることを、オリジナル曲とは逆方向から説明したアルバムである。
おすすめアルバム
Angel Miners & the Lightning Riders by AWOLNATION
2020年の前作。電子音と巨大なロック・サウンドを行き来するBrunoの作曲法がまとまっており、本作のカバーで使われた音響がオリジナル曲ではどのように機能するかを比較できる。
Megalithic Symphony by AWOLNATION
2011年のデビュー作。「Sail」に代表される重い電子ビートとロックの爆発力を組み合わせた作品である。本作の幅広い選曲が、初期AWOLNATIONの雑食的なサウンドへどうつながるかが分かりやすい。
The Cars by The Cars
1978年作。ロック・バンドのギターとシンセサイザーを簡潔なポップソングへまとめた作品で、本作がカバーする「Drive」以前から続くThe Carsの方法と、AWOLNATIONの電子ロックとの接点を確認できる。
The Real Thing by Faith No More
1989年作。ハードロック、ファンク、ヒップホップ、ポップを区別せず一つのバンド・サウンドへ詰め込んでいる。ジャンルの境界より曲の面白さを優先する姿勢が、本作に表れたBrunoの雑食性とよく重なる。
MTV Unplugged in New York by Nirvana
1994年作。カバーを多く取り上げながら、原曲の魅力を壊さず自分たちの暗い音楽性へ引き寄せている。方法はAWOLNATIONと大きく異なるが、選曲そのものによってアーティストのルーツや嗜好を伝える作品として比較できる。

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