
発売日:1990年8月13日
ジャンル:オルタナティヴ・ロック/インディー・ロック/サーフ・ロック/ノイズ・ポップ/スペース・ロック
概要
Pixiesの3作目『Bossanova』は、バンドのキャリアにおいて「荒々しい地下ロック」から「より色彩的で宇宙的なオルタナティヴ・ロック」へ移行した重要作である。前作『Doolittle』が、轟音と静寂の対比、シュールな歌詞、鋭いポップ感覚を極めて高密度にまとめた作品だったのに対し、『Bossanova』ではサーフ・ギター、宇宙、SF、夢、天体、距離といったイメージがアルバム全体へ広がり、音響もより開放的になった。
Pixiesの音楽的特徴として最も有名なのは、静かなヴァースから突然大音量のコーラスへ移る“quiet-loud-quiet”のダイナミクスである。この方法は後にNirvanaをはじめ多くのオルタナティヴ・バンドへ影響を与えた。しかし『Bossanova』では、その単純な公式だけでは説明できない。
本作ではJoey Santiagoのギターが非常に重要である。
彼の演奏は伝統的なギター・ヒーロー的ソロとは異なり、鋭い単音、不協和音、サーフ・ロック的なトレモロ、奇妙な残響を用いて曲の空間そのものを変形させる。
一方、Black Francisのソングライティングは、それまで以上にSF的な方向へ向かっている。
宇宙人。
惑星。
星。
速度。
遠距離。
不可解な生命体。
こうしたイメージが恋愛や孤独と並んで登場し、人間の小さな感情が巨大な宇宙空間へ放り込まれる。
『Bossanova』というタイトル自体はブラジル音楽のボサノヴァを連想させるが、アルバム全体がボサノヴァ的な作品というわけではない。むしろPixiesらしい言葉のずらし、異文化的な響きへの関心、意味より音感を優先する姿勢を示すタイトルと捉えた方が自然である。
また、本作はKim Dealの作曲・ヴォーカル面での存在感が以前より後退し、Black Francis主導の色彩が強くなった作品でもある。このバランスの変化は、後のバンド内部の緊張とも無関係ではない。
それでも演奏面では、David Loveringの直線的で強いドラム、Kim Dealの簡潔なベース、Santiagoの奇妙なギター、Francisの甲高い叫びが非常に高いレベルで噛み合っている。
『Bossanova』は、『Surfer Rosa』『Doolittle』ほど生々しくはない。
その代わり、より広い空間を持つ。
地下室から夜空へ。
血や聖書のイメージから惑星へ。
Pixiesの音楽が、地上的な異常さから宇宙的な奇妙さへ進んだアルバムなのである。
全曲レビュー
1. Cecilia Ann
アルバムはThe Surftonesのインストゥルメンタル曲「Cecilia Ann」のカバーで始まる。
この選曲は『Bossanova』の方向性を最初の瞬間から明確にする。
ギターには強いサーフ・ロック感があり、リヴァーブとトレモロを使った音色が1960年代初頭のインストゥルメンタル・ロックを思わせる。
しかしPixiesの演奏は単なる復古ではない。
ギターの歪みやドラムの強さによって、サーフ・ミュージックをオルタナティヴ・ロックの音圧へ変換している。
歌詞がないことも重要である。
アルバムの最初に物語ではなく「音の風景」を置く。
これによって、リスナーは海辺とも宇宙とも解釈できる開放的な空間へ入る。
『Bossanova』全体に流れるサーフ/スペース感覚の序章として非常に機能的なオープニングである。
2. Rock Music
「Rock Music」は、タイトル通りロックそのものを極端に圧縮したような短く激しい楽曲である。
曲名は非常に一般的だが、実際のサウンドは混乱に満ちている。
Black Francisのヴォーカルはほとんど叫びで、歌詞は明瞭な物語というより音の一部として機能する。
ギターも巨大なノイズの塊となり、前曲のサーフ的な滑らかさを一気に破壊する。
Pixiesには、知的でシュールな歌詞を書く側面と、言葉の意味そのものを捨てて純粋な音圧へ向かう側面がある。
「Rock Music」は後者の極端な例である。
タイトルをこれ以上なく単純にすることで、「ロックとは何か」という問いへの答えを理屈ではなく騒音で提示している。
3. Velouria
「Velouria」は『Bossanova』を代表する楽曲であり、PixiesのSF的ロマンティシズムが最も美しく現れた一曲である。
タイトルの“Velouria”は架空の女性名として響く。
歌詞では彼女が通常の人間とは異なる、どこか異世界的な存在として描かれる。
恋愛の対象でありながら、地上に完全には属していない。
そのためこの曲はラヴ・ソングであると同時に、SF短編のようにも聞こえる。
音楽は非常にメロディアスで、轟音ギターの中にも明確なポップ・フックがある。
テルミン的な電子音が使われ、50年代SF映画を思わせるレトロ・フューチャー的な空気が加わる。
ここで重要なのは、Pixiesの宇宙趣味が冷たい未来志向ではないことである。
宇宙はむしろ孤独や距離を表現する比喩として使われる。
Velouriaは魅力的である。
しかし完全には触れられない。
恋愛の距離が、宇宙的な距離へ拡大されている。
4. Allison
「Allison」は短く簡潔なポップ・ソングで、タイトルはジャズ/ブルース・ピアニストのMose Allisonを想起させる。
Black Francisはしばしば実在の人物、映画、宗教、SFを曖昧に混ぜて歌詞へ取り込む。
「Allison」も人物への直接的な賛歌というより、名前や音楽的記憶から作られたイメージの曲として機能する。
音楽は非常にコンパクトである。
ギターはジャングリーだが少し歪み、リズムは軽快。
長い展開を避け、メロディの強さだけで曲を成立させている。
『Bossanova』はサウンド面では広がりを持つが、曲そのものは短いものが多い。
この「世界観は広いが、曲は小さい」というアンバランスもPixiesらしい。
5. Is She Weird
「Is She Weird」は、「彼女は変なのか」という問いそのものがテーマになる。
Pixiesの世界では、“weird”であることは必ずしも否定的ではない。
むしろ普通ではない人物への魅力が強く描かれる。
Black Francisの歌詞では、恋愛対象はしばしば理解不能な存在である。
相手を完全に理解できないからこそ興味を持つ。
この曲でも、疑問形のタイトルが重要である。
彼女は変なのか。
それとも、そう見ている自分の方が変なのか。
音楽は不安定なギターと強いコーラスを持ち、ポップでありながら少し落ち着かない。
通常のラヴ・ソングが相手の美しさや魅力を説明するのに対し、Pixiesは「奇妙さ」そのものを魅力として扱う。
6. Ana
「Ana」はアルバム中でも特に短く、幻想的な楽曲である。
タイトルは女性名だが、歌詞には海やサーフ文化を思わせるイメージが入り込み、『Bossanova』のサーフ・ロック的背景と結びつく。
音楽は比較的静かで、ギターの残響が大きな空間を作る。
Pixiesの静かな曲では、単に音量が小さいだけでなく、次に大きな爆発が来るかもしれないという緊張が残る。
「Ana」はその典型である。
短い時間の中で、人物、海、距離、記憶が断片的に現れる。
説明を省くことで、むしろ映像的な余韻を残す。
7. All Over the World
「All Over the World」は、本作の中でも比較的長く、スケールの大きな楽曲である。
タイトルは「世界中」を意味し、個人的な感情が地理的な広がりへ拡張される。
音楽もそのタイトルに対応して、単純な3分間ポップ以上の構成を持つ。
曲が進むにつれて音像が広がり、反復によってトランス的な感覚が生まれる。
Pixiesはしばしば短い曲を得意とするが、この曲では長さそのものを使って空間を作る。
歌詞には遠距離や移動の感覚があり、『Bossanova』全体の「ここではない場所」への関心とつながる。
世界中へ広がるという言葉は一見開放的だが、同時に「一箇所に留まれない」不安も含む。
この両義性が曲を単純な旅の歌から引き離している。
8. Dig for Fire
「Dig for Fire」は、『Bossanova』の中でも特に有名な楽曲の一つである。
タイトルは「火を掘り当てる」という奇妙な表現で、地面の下に存在しないはずのものを探す行為を示す。
歌詞では、人生における意味や情熱を探す人々が寓話的に描かれる。
火は情熱、真実、生命力の象徴として読むことができる。
しかし重要なのは、それが簡単には見つからないことである。
地面を掘る。
探す。
しかし本当にそこにあるのかは分からない。
この曲には、Black Francisの歌詞としては比較的明確な人生観がある。
人は何かを探し続ける。
それが何なのか自分でも完全には分からない。
音楽はミッドテンポで、ギターの質感も比較的抑えめ。
巨大なノイズより歌詞とメロディを前面に出している。
9. Down to the Well
「Down to the Well」は、井戸へ降りていくという原始的で寓話的なイメージを持つ。
井戸は水、生命、深層、秘密を象徴する。
表面では見えないものを求めて地下へ下りる。
この動きは「Dig for Fire」ともつながる。
どちらも「見えないものを探す」曲である。
音楽はブルース的な反復を持ちながら、Pixies独自の歪んだギターで処理される。
井戸という古い民話的イメージと、90年代オルタナティヴの音響が共存する。
Black Francisは、SFと古代的なモチーフを同じアルバムで扱う。
未来と過去が混ざる。
これも『Bossanova』の時間感覚の特徴である。
10. The Happening
「The Happening」は、本作のSF的テーマを最も明確に表現する楽曲の一つである。
歌詞はUFOや地球外生命体を思わせる出来事へ向かい、Black Francisの宇宙趣味が全面に出る。
重要なのは、それが壮大なSF叙事詩ではなく、ごく日常的な語り口で描かれることである。
異星人の到来という巨大な出来事が、個人の目撃談のように語られる。
この縮尺のずれがPixiesらしい。
音楽もサイケデリックで、ギターの残響と反復が異常な空間を作る。
『Bossanova』では宇宙が単なる装飾ではなく、人間の小ささを強調する装置として使われている。
「The Happening」はその思想を最も分かりやすく示す一曲である。
11. Blown Away
「Blown Away」は、タイトルに「吹き飛ばされる」「圧倒される」という二重の意味を持つ。
曲には夢のような浮遊感があり、前曲「The Happening」の宇宙的な感覚を引き継ぐ。
人間が自分より大きな何かに遭遇し、物理的にも心理的にも吹き飛ばされる。
その感覚は、恋愛にもSFにも適用できる。
Pixiesの歌詞では、人間関係と異常現象の境界がしばしば曖昧である。
恋に落ちることも、UFOを見ることも、「自分の理解を超えたものに遭遇する」という点では似ている。
音楽は比較的柔らかいが、その奥には不穏さがある。
派手な爆発ではなく、気づかないうちに重力が変わっているような曲である。
12. Hang Wire
「Hang Wire」は、張り詰めたワイヤーのような緊張感を持つ。
タイトルそのものが、不安定な状態を示す。
高い場所に張られた線。
少しバランスを崩せば落ちる。
音楽も短いフレーズを反復し、落ち着かないリズムを作る。
Black Francisのヴォーカルは抑制と叫びの間を移動し、Pixiesの得意なダイナミクスをコンパクトに示す。
『Bossanova』は前作ほど極端なquiet-loudの対比を全面に出していないが、「Hang Wire」ではその緊張の作り方が依然として健在である。
13. Stormy Weather
「Stormy Weather」は、タイトル通り嵐の天候を扱う。
ただし、天気はそのまま心理状態の比喩として機能する。
Pixiesの歌詞では、自然現象が人間の感情と奇妙に接続されることが多い。
嵐。
風。
海。
宇宙。
これらは単なる背景ではない。
主人公の内部で起きている混乱を外部世界へ投影する。
音楽は反復が強く、同じフレーズが続くことで催眠的な効果を生む。
一般的なポップ・ソングのように大きな展開を求めず、天候が停滞するように同じ空気を維持する。
この反復性は後期Pixiesの一つの特徴でもある。
14. Havalina
アルバムを締めくくる「Havalina」は、極めて短く、静かな楽曲である。
“havalina”は“javelina”を思わせる表記で、アメリカ南西部に生息するペッカリーを指すイメージと結びつく。
歌詞ではArizonaという地名も印象的に使われ、アルバム終盤で突然、宇宙から砂漠へ着地するような感覚が生まれる。
この配置が非常に興味深い。
アルバムは「Cecilia Ann」のサーフ的な海から始まり、「Velouria」「The Happening」では宇宙へ向かい、最後は乾燥した地上の風景へ戻る。
音楽は穏やかで、ほとんど子守歌のようである。
『Bossanova』は大きな結論や爆発で終わらない。
小さな生き物と風景のイメージを残して静かに消える。
この控えめなエンディングが、アルバム全体の夢から目を覚ますような効果を生んでいる。
総評
『Bossanova』は、Pixiesのディスコグラフィーにおいてしばしば『Surfer Rosa』『Doolittle』の間に形成された評価軸から見られる作品である。
しかし、本作を単に「前作ほど激しくないアルバム」と捉えると、その独自性を見落とす。
最大の変化は「空間」にある。
『Surfer Rosa』の音は近い。
部屋の中でバンドが爆発しているような生々しさがある。
『Doolittle』はその荒さを整理し、ポップ・ソングとしての精度を高めた。
『Bossanova』では、音がさらに遠くへ広がる。
サーフ・ギターのリヴァーブ。
電子音。
宇宙的なイメージ。
長めの反復。
これらによって、Pixiesの音楽が「閉じた部屋」から「広い風景」へ移動する。
その意味で、本作の中心的な楽器はJoey Santiagoのギターと考えることができる。
Santiagoは典型的なコード・プレイヤーでも、技巧的なソロ奏者でもない。
彼の強みは、少数の音を非常に奇妙に配置することにある。
一音だけ伸ばす。
急に不協和音を入れる。
トレモロを使う。
サーフ・ロック的なフレーズを破壊する。
その結果、ギターがメロディというより環境音になる。
『Bossanova』ではこの能力が特に活かされている。
一方、Black Francisの歌詞はそれまで以上に宇宙へ向かう。
初期Pixiesには聖書、近親相姦、暴力、腐敗、スペイン語圏の文化など、非常に地上的で身体的なテーマが多かった。
『Bossanova』ではそれらが後退し、UFO、惑星、異星人、遠距離といった主題が増える。
しかし、宇宙へ行っても彼が書いているのは結局人間の感情である。
「Velouria」は恋愛。
「Is She Weird」は他者への興味。
「Dig for Fire」は人生の意味の探索。
「Blown Away」は圧倒される感覚。
つまりSFは目的ではなく、感情を拡大するための比喩なのである。
この方法は後のオルタナティヴ・ロックにも重要な影響を与えた。
SFや宇宙を扱うロックは以前から存在した。
David Bowie、Hawkwind、Pink Floydなどにも長い伝統がある。
しかしPixiesはそれを壮大なコンセプト・ロックにしない。
3分程度の奇妙なポップ・ソングにする。
この小型化が90年代的である。
『Bossanova』では、サーフ・ロックとの接続も重要だ。
「Cecilia Ann」に始まり、アルバム全体にトレモロやリヴァーブを使ったギターが流れる。
サーフ・ロックは1960年代初頭の音楽であり、Pixiesより約30年前の文化だ。
しかし彼らはそれを懐古的に再現しない。
歪み、ノイズ、オルタナティヴ・ロックのリズム感覚を加える。
結果として、海辺のサーフ・ミュージックが宇宙空間の音楽へ変わる。
海と宇宙は意外に相性がよい。
どちらも広い。
人間より大きい。
未知の領域である。
この二つのイメージが『Bossanova』では自然につながっている。
リズム・セクションも過小評価できない。
David Loveringのドラムは非常に力強いが、装飾をしすぎない。
Pixiesの奇妙な曲構成を安定させる役割を持つ。
Kim Dealのベースも同様で、複雑なラインを弾くより、簡潔な反復によって曲の土台を作る。
この二人がシンプルだからこそ、FrancisとSantiagoが自由に奇妙なことをできる。
ただし、『Bossanova』はバンド内部のバランスという点では転換点でもあった。
Kim Dealのソングライターとしての比重が下がり、Black Francis主導の性格が強くなる。
この変化は音楽的にはアルバムの統一感につながった。
一方で、バンドの内部関係という意味では緊張を強めることにもなった。
翌年の『Trompe le Monde』では、さらにFrancis中心のサウンドが強まり、その後Pixiesは一度活動停止へ向かう。
そのため『Bossanova』には、バンドが最も統一された世界観を持つ一方で、内部的には均衡を失いつつあった時期の作品という側面もある。
1990年という発売時期も重要である。
オルタナティヴ・ロックはまだ完全なメインストリームではなかった。
Nirvanaの『Nevermind』は翌1991年。
Pearl Jamの『Ten』も翌年。
つまり『Bossanova』は、「オルタナティヴ」という言葉が巨大な商業カテゴリーへ変化する直前の作品である。
Pixiesはその後の爆発を直接享受する前に、すでに多くの若手バンドへ影響を与えていた。
特にNirvanaへの影響は大きい。
Kurt CobainがPixiesのダイナミクスやポップ感覚から影響を受けたことは広く知られている。
しかし影響はquiet-loudだけではない。
奇妙な歌詞を書きながら強いメロディを維持すること。
ノイズとポップを同時に成立させること。
アンダーグラウンドの美学を持ちながら、非常にキャッチーな曲を書くこと。
これらすべてが90年代オルタナティヴの基本言語になった。
『Bossanova』は、その中でもPixiesの「幻想的な側面」を強く残している。
『Doolittle』が地面に近い作品だとすれば、『Bossanova』は空を見上げる作品である。
だから本作には独特の軽さがある。
もちろん「Rock Music」のような暴力的な曲もある。
しかしアルバム全体としては、重力から少し離れている。
宇宙。
海。
砂漠。
遠い都市。
理解できない人物。
The Pixiesはこれらを短いポップ・ソングの中へ放り込み、意味を完全には説明しない。
この「説明しないこと」が重要である。
Black Francisの歌詞は、物語を完全に理解しなくても成立する。
単語の響き。
イメージ。
叫び。
メロディ。
それらが先に感情を作る。
この方法はシュルレアリスム的であり、後のオルタナティヴ・ロックに大きな自由を与えた。
歌詞は必ずしも「意味のある物語」でなくてよい。
奇妙なイメージの集合でも、強い曲は成立する。
『Bossanova』は、その自由を非常に美しい形で示したアルバムである。
前二作ほど直接的な衝撃力はない。
その代わり、聴くほどに空間と細部が見えてくる。
サーフ・ロック、SF、ノイズ・ポップ、インディー・ロック、古いポップ・ミュージック。
そのすべてが奇妙な角度で接続されている。
Pixiesの作品の中でも、『Bossanova』は最も夢のような一枚である。
そして、その夢の感覚こそが、1990年代以降のオルタナティヴ・ロックが持つ「ポップなのに異世界的」という美学の重要な源流となった。
おすすめアルバム
Pixies – Doolittle(1989)
『Bossanova』の直前に発表された代表作。「Debaser」「Wave of Mutilation」「Monkey Gone to Heaven」などを収録し、静/動のダイナミクス、シュールな歌詞、強力なポップ・メロディが最も高密度にまとめられている。『Bossanova』がそこからどのように空間的・SF的な方向へ進んだかを比較するうえで最重要の作品である。
Pixies – Trompe le Monde(1991)
『Bossanova』の宇宙的なテーマと攻撃的なギターをさらに押し進めた次作。より速く、硬く、Black Francis主導の色彩が濃い。バンド初期活動期の終盤におけるPixiesの方向性を理解するうえで重要である。
The Breeders – Pod(1990)
Kim DealがPixiesと並行して展開したThe Breedersのデビュー作。よりミニマルで空間的なギター・ロックを持ち、『Bossanova』とは異なる形でPixies周辺の90年代インディー感覚を示す。Dealの作家性を確認するうえでも不可欠である。
The Jesus and Mary Chain – Psychocandy(1985)
甘い60年代ポップのメロディと巨大なフィードバック・ノイズを融合した重要作。Pixiesの「ポップな曲をノイズで汚す」という感覚の重要な先行例であり、『Bossanova』のノイズ・ポップ的側面とも深く関連する。
Nirvana – Nevermind(1991)
Pixiesからの影響を90年代の巨大なメインストリーム・ロックへ変換した代表作。静かなヴァースと爆発的なコーラス、強いポップ・メロディ、荒れたギターの組み合わせは、Pixiesが作った方法論の発展形として捉えることができる。

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