アルバムレビュー：Centipede Hz by Animal Collective

発売日: 2012年9月4日
ジャンル: サイケデリック・ロック、エクスペリメンタル・ポップ、ノイズ・ポップ

混沌と熱狂のサウンドコラージュ——Animal Collectiveが描く新たな音響世界
全曲レビュー
総評
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
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混沌と熱狂のサウンドコラージュ——Animal Collectiveが描く新たな音響世界

2012年、Animal Collectiveは10作目のスタジオ・アルバム『Centipede Hz』をリリースした。本作は、2009年の前作『Merriweather Post Pavilion』でバンドがオルタナティブ・ポップの頂点を極めた後のアルバムであり、ファンや批評家からの期待が非常に高かった。

しかし、『Centipede Hz』は『Merriweather Post Pavilion』のドリーミーで穏やかなサウンドとは一線を画し、ノイジーでカオティックな音響コラージュを押し出した、より挑戦的な作品となった。これは、メンバーのデイヴィー・ポートナー（Avey Tare）とノア・レノックス（Panda Bear）に加え、バンドの創設メンバーであるジョシュ・ディブ（Deakin）が復帰したことで、グループのサウンドが初期のエネルギッシュで生々しいサイケデリック・ロックの方向性へと回帰したことが大きい。

アルバムの特徴は、オールドスクールなラジオの周波数を回しているかのような、絶え間ないノイズ、歪んだエフェクト、複雑なリズムが重なり合う異次元的なサウンドスケープにある。これは、メンバーが幼少期にラジオを通じて聴いていた音楽体験を再現しようとした結果であり、リスナーにまるで宇宙電波を傍受しているかのような錯覚を与える。

そのため、『Centipede Hz』はAnimal Collectiveの中でも最もハードで騒がしく、混沌とした作品となっており、ファンの間でも評価が分かれる作品となった。しかし、その挑戦的なサウンドと圧倒的なエネルギーは、実験音楽としてのAnimal Collectiveの真価を改めて証明するものである。

全曲レビュー

1. Moonjock

アルバムの幕開けを飾るこの曲は、シンセとギターが入り乱れるカオティックなサイケデリック・ロックの爆発。ノスタルジックな歌詞が、幼少期に親しんだ音楽との関係を描きつつ、アルバムのテーマを明確に示している。

2. Today’s Supernatural

**Animal Collectiveの狂気を象徴するハイテンションな楽曲。**Avey Tareの叫びにも近いボーカルと、不協和音的なシンセが絡み合い、リスナーを圧倒する。ライブでも定番の一曲。

3. Rosie Oh

アルバムの中では比較的ポップな楽曲。Panda Bearの軽やかなボーカルが心地よいが、背景のサウンドは依然として混沌としており、サイケデリックな浮遊感を生み出している。

4. Applesauce

トライバルなリズムと、歪んだシンセが特徴的な楽曲。サウンドの詰め込み方が激しく、まるで過剰に色彩が混ざり合った万華鏡のような感覚を味わえる。

5. Wide Eyed

Deakinがメインボーカルを務める珍しい楽曲。シンセが煌めく美しいアレンジと、比較的落ち着いた構成が特徴的で、アルバムの中でも聴きやすい部類に入る。

6. Father Time

レトロなシンセと、Avey Tareのエモーショナルなボーカルが融合した楽曲。リズムの刻み方がユニークで、まるで不規則な心拍のように聴こえる。

7. New Town Burnout

Panda Bearがリードボーカルを務める楽曲。ドリーミーなメロディと、細かく刻まれたビートが、アルバムの中で一瞬の穏やかさを提供する。

8. Monkey Riches

本作のハイライトのひとつ。ポリリズムとカオティックなサウンドデザインが圧倒的で、Animal Collectiveらしい混沌の美学が詰まっている。

9. Mercury Man

Avey Tareの独特なボーカルと、不安定なリズムが不思議な浮遊感を生み出す楽曲。アルバムの中でも特にラジオのノイズが目立つトラックのひとつ。

10. Pulleys

比較的穏やかな楽曲で、ポップなメロディが際立つ。Panda Bearのボーカルが心地よく、アルバムの中でも癒しの瞬間となっている。

11. Amanita

アルバムのラストを飾る楽曲で、徐々に盛り上がるドラマチックな構成。最後に向かってサウンドが崩壊していくような演出が印象的。

総評

『Centipede Hz』は、Animal Collectiveの中でも最もノイジーでカオティックな作品であり、『Merriweather Post Pavilion』のポップさを期待していたファンにとっては、難解なアルバムかもしれない。 しかし、その過剰なまでの音の詰め込みと実験的なアプローチは、バンドの原点であるローファイなエネルギーとサイケデリックな音響探求を再確認するものであり、より深く聴き込むほどに新たな発見がある。

Animal Collectiveは常に進化し続けるバンドであり、本作はその中でも特にラジオやノイズといった音響的なテーマを徹底的に追求した作品となっている。過剰なサウンドコラージュの中に、確かに彼らの持つ独特のポップセンスが輝いている瞬間がある。

このアルバムは、混沌の中から美を見出すことができるリスナーにこそおすすめしたい。

このアルバムが好きな人におすすめの5枚

Panda Bear – Tomboy（2011年）
Animal Collectiveのメンバー、Panda Bearのソロ作。エレクトロニカとサイケデリック・ポップの融合が美しい。
Deakin – Sleep Cycle（2016年）
Animal CollectiveのDeakinのソロアルバム。メロディアスでありながらも実験的なアプローチが光る。
Black Dice – Beaches & Canyons（2002年）
エレクトロニック・ノイズとサイケデリックを融合させたカオティックな作品。
Dan Deacon – Bromst（2009年）
オーガニックなエレクトロニカとポリリズムの融合。
The Flaming Lips – Embryonic（2009年）
ノイジーでサイケデリックな実験作。