アルバムレビュー：Camembert Electrique by Gong

発売日: 1971年10月
ジャンル: サイケデリック・ロック、スペース・ロック、カンタベリー・シーン

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電気仕掛けのカマンベール——カオスとユーモアが交差する異次元のロック体験

1971年、フランスを拠点に活動するアヴァンギャルド・ロックバンドGongが放った2ndアルバムCamembert Electriqueは、まさに「電気仕掛けのカマンベール」というタイトルにふさわしい、溶け出すようなサウンドと奇想天外な世界観が詰まった作品だ。

Gongは、オーストラリア出身のミュージシャン**デヴィッド・アレン（Daevid Allen）**を中心に結成されたバンドで、カンタベリー・シーンの影響を受けつつも、よりサイケデリックで実験的な音楽を展開した。本作は、後に続く『Flying Teapot』（1973年）などの「ラジオ・ノーム三部作」に先駆け、彼らのユニークなスタイルを確立したアルバムである。

サウンドは、ジャズ、プログレ、スペース・ロックの要素が入り混じり、コミカルでシュールな歌詞と共にGong独自の世界観を構築している。演奏はカオティックでありながら、どこか緻密なアンサンブルを感じさせ、聴くたびに新たな発見がある。「カンタベリー・ロック」と称されることもあるが、その枠には収まりきらないほどの自由奔放なサウンドが特徴だ。

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全曲レビュー

1. Radio Gnome Prediction

わずか35秒のオープニングトラック。意味不明なナレーションと電子音が飛び交い、まるで異次元の電波を受信したかのような不思議な感覚に包まれる。これは後の「ラジオ・ノーム三部作」へと続く世界観の序章でもある。

2. You Can’t Kill Me

ファズギターが炸裂する、ハードロック寄りの楽曲。デヴィッド・アレンのボーカルは狂気じみており、歌詞は「俺を殺すことはできない」というシュールな内容。途中でテンポが変化し、カオスなジャムセッションへと突入する展開がスリリングだ。

3. I’ve Bin Stone Before

ゆったりとしたブルース調のナンバー。タイトルの「I’ve Bin Stone Before（俺は以前もハイだった）」からも分かるように、Gongらしいヒッピー文化を反映した曲だ。サイケデリックなギターと浮遊感のあるボーカルが心地よい。

4. Mister Long Shanks: O Mother I Am Your Fantasy

短いながらも、実験的な楽曲。フリージャズ的な要素が強く、次々と変化するリズムと不協和音がクセになる。まるでアニメーション映画の奇妙なサウンドトラックのような雰囲気だ。

5. Dynamite: I Am Your Animal

攻撃的なギターリフと不穏なベースラインが特徴的な一曲。ヴォーカルは呪文のように繰り返され、次第にカオスが増していく。ジャズとガレージロックを融合させたような、混沌としたエネルギーに満ちた楽曲。

6. Wet Cheese Delirium

タイトルからして狂気を感じさせるインストゥルメンタル。ノイズや奇妙なエフェクトが入り乱れ、まるで酩酊状態の脳内を覗き込んでいるかのような錯覚に陥る。Gongのユーモアと実験精神が詰まった曲だ。

7. Squeezing Sponges Over Policemen’s Heads

まるでフランク・ザッパの作品のようなアヴァンギャルドな曲。変拍子のリズムがクセになり、まるでサーカスのような雰囲気が漂う。政治的なメッセージが込められているとも解釈できるが、Gongらしいナンセンスなユーモアが前面に出ている。

8. Fohat Digs Holes in Space

アルバムの中でも特にスペース・ロック色が強い曲。幻想的なシンセサイザーの音と浮遊感のあるリズムが絡み合い、宇宙旅行をしているような気分になる。後の『Flying Teapot』や『Angel’s Egg』へと続くGongのスペース・ロック路線の原点とも言える。

9. Tried So Hard

一転して、フォーク調の楽曲。アコースティックギターと穏やかなメロディが印象的で、アルバムの中では比較的落ち着いた雰囲気を持っている。しかし、途中でサイケデリックなエフェクトが入り込み、Gongらしさを忘れていない。

10. Tropical Fish: Selene

7分以上に及ぶ長尺のナンバーで、アルバムのハイライトの一つ。ギターのアルペジオが美しく、ゆったりとした展開から徐々に盛り上がる。終盤ではノイズと混沌が交錯し、アルバム全体の狂気とユーモアが集約される。

11. Gnome the Second

ラストを飾る短いインスト曲。『Flying Teapot』に登場する「ラジオ・ノーム」のテーマを暗示するような、不思議な雰囲気を持っている。次のアルバムへの伏線とも取れるエンディングだ。

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総評

Camembert Electriqueは、Gongの持つシュールなユーモアと音楽的探究心が詰まった傑作である。一般的なプログレッシブ・ロックとは一線を画し、より自由奔放でアヴァンギャルドなアプローチが特徴的だ。ハードロック、ジャズ、サイケデリック・ロックが混ざり合い、カオスと秩序のギリギリのバランスを保っている。

このアルバムを聴くことは、一種の「音楽的トリップ」に近い。リスナーはGongの作り出す奇妙な世界に引き込まれ、笑いながら、時には戸惑いながら、その魅力に取り憑かれるだろう。

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このアルバムが好きな人におすすめの5枚

• Soft Machine – Third
  カンタベリー・シーンの代表的な作品。Gongと同様、ジャズとロックの境界を押し広げたサウンドが楽しめる。
• Frank Zappa & The Mothers of Invention – We’re Only in It for the Money
  シュールなユーモアと実験的な音楽性が、Gongと通じるものがある。
• Hawkwind – Space Ritual
  スペース・ロックの金字塔。Gongの持つ宇宙的な要素に共感するなら、このライブアルバムは必聴。
• Can – Tago Mago
  クラウトロックの名盤で、Gongの持つジャム的なアプローチやサイケデリックな感覚に通じる部分が多い。
• Gong – Flying Teapot
  『Camembert Electrique』の流れを受け継ぎ、「ラジオ・ノーム三部作」の幕開けとなる作品。