アルバムレビュー:This Old Dog by Mac DeMarco

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

発売日:2017年5月5日

ジャンル:インディー・ロック/インディー・ポップ/ソフト・ロック/ローファイ/シンガーソングライター

概要

Mac DeMarcoの『This Old Dog』は、それまで彼の代名詞だった「だらしなく揺れるギター」「脱力したユーモア」「ローファイな宅録感」を残しながら、より私的で内省的なソングライティングへ踏み込んだ転換作である。2012年の『2』、2014年の『Salad Days』によって、DeMarcoは2010年代インディー・ロックを象徴する人物の一人となった。コーラスの深くかかったギター、テープのように揺れる音像、気負いのない歌唱、そして冗談めいたキャラクターは大量のフォロワーを生み、いわゆる“jizz jazz”という彼自身の半ば冗談めいた呼称まで含めて、一つのスタイルとして定着した。

しかし『This Old Dog』では、その外面的なキャラクターよりも、家族、加齢、過去、恋愛、死への意識が前面に出る。

特に重要なのが父親の存在である。

DeMarcoと父親の関係は長く複雑で、本作ではその距離が「My Old Man」「Moonlight on the River」「Watching Him Fade Away」などに強く反映されている。父親に似ていくことへの恐れ。長く疎遠だった人物が死へ近づくこと。愛情と怒りを単純に分けられないこと。そうした感情が、以前より直接的な歌詞へ変換されている。

この点で『This Old Dog』は、DeMarcoの「大人になること」を扱ったアルバムでもある。

若い時には、自分は親とは違うと思う。

自分は過去とは違うと思う。

しかし年齢を重ねるにつれて、身体や習慣、感情の中に、自分が避けたかったものを見つける。

タイトル曲「This Old Dog」の“old dog”も、単なる年老いた犬ではない。変わりにくくなった自分、同じ行動を繰り返す自分、過去を抱えたまま生きる人間の比喩として響く。

音楽面でも変化は大きい。

従来のDeMarcoはギター・サウンドが中心だった。

しかし本作ではアコースティック・ギター、シンセサイザー、ドラムマシン、簡素なベースが重要になる。

特に「For the First Time」「On the Level」ではシンセサイザーが前面へ出ており、70年代後半〜80年代初頭のソフト・ロックやシンセ・ポップに近い感触を持つ。

一方で、プロダクションは依然として親密である。

スタジオの巨大な空間を感じさせるのではなく、部屋の中で一人が歌っているように聞こえる。

この「近さ」が、歌詞の私的な内容と非常によく合う。

『This Old Dog』は、Mac DeMarcoが自分のスタイルを捨てた作品ではない。

むしろ、それまで「キャラクター」として認識されていたものの奥に、より深いソングライターとしての側面を見せた作品である。

全曲レビュー

1. My Old Man

アルバムは「My Old Man」で始まる。

最初から父親の影が現れる。

歌詞の核心は、自分の中に父親を見つけてしまうことへの恐れである。

若い頃には、自分は父親とは違う人間だと思う。

しかし、ある日鏡を見る。

癖。

表情。

態度。

生き方。

そのどこかに、避けたかった人物の痕跡を見つける。

この主題は非常に普遍的である。

親との関係が良好であっても悪くても、年齢を重ねると「自分が親に似てきた」と感じる瞬間はある。

DeMarcoの場合、その感覚にはより強い葛藤がある。

だから“My old man”という言葉には、親しみだけではなく警戒も含まれる。

音楽は極めて簡素で、アコースティック・ギターとミニマルなリズムが中心。

以前の作品のような派手なコーラス・ギターは抑えられている。

この簡素さによって、歌詞が裸のまま前へ出る。

アルバム全体の方向を決定づける重要なオープニングである。

2. This Old Dog

タイトル曲「This Old Dog」は、本作の中心テーマを最も端的に表現する。

“old dog”には、「年を取った者」「習慣が変わりにくい者」という意味がある。

“you can’t teach an old dog new tricks”という有名な表現も連想される。

ここでDeMarcoは、自分自身を少し自嘲的に“old dog”と呼ぶ。

まだ若い。

しかし、すでに自分の癖ができている。

感情の動き方。

恋愛の仕方。

逃げ方。

傷つけ方。

それらを簡単には変えられない。

音楽は非常に穏やかで、アコースティック・ギターの反復が中心。

歌詞の内容に比べて、サウンドには温かさがある。

この温かさが重要だ。

自分が変わりにくいことを責めるだけではない。

「そういう自分と生きていくしかない」という受容もある。

タイトル曲でありながら大げさな宣言ではなく、静かな自己認識として成立している。

3. Baby You’re Out

「Baby You’re Out」は、アルバム前半では比較的軽快な楽曲である。

タイトルは関係の終わりを直接示す。

“you’re out”。

もう終わり。

もうここにはいない。

しかし音楽は明るく、リズムも軽い。

この「別れと軽さ」の組み合わせはDeMarcoらしい。

恋愛の終わりを大げさな悲劇にしない。

むしろ、関係が終わることも人生の一部として扱う。

ただし歌詞の中には、完全な無関心ではなく、少しの苦味が残る。

相手を手放す。

しかし簡単に忘れるわけではない。

ギターの軽い揺れとヴォーカルの力の抜けた歌い方が、その感情の距離を作る。

4. For the First Time

「For the First Time」は、本作の中でも特に印象的なシンセ・ポップ寄りの楽曲である。

タイトルは「初めて」。

ただし歌詞で描かれるのは、単なる新しい恋ではない。

誰かと離れている時間。

その人物がいないことで、初めて存在の大きさに気づく。

つまり“first time”とは、関係そのものの始まりより、感情を新しく理解する瞬間を指している。

音楽は丸みのあるシンセサイザーが中心。

ベースも柔らかく、ドラムは機械的だが冷たくない。

これまでのDeMarcoのギター・ポップとは異なる質感だが、メロディの脱力感は変わらない。

この曲によって、『This Old Dog』がギターだけに依存しない作品であることが明確になる。

また、シンセの温かい音色は、距離と懐かしさを同時に表現する。

誰かがいない。

だから記憶の中でその人物が少し美しくなる。

その心理が音色そのものに反映されている。

5. One Another

「One Another」は、人間関係の相互性を扱う。

タイトルは「お互い」。

恋愛では、どちらか一方だけが努力しても関係は続かない。

支える。

傷つける。

許す。

距離を取る。

そのすべてが双方の行為によって成り立つ。

DeMarcoの歌詞には、感情を一方的な被害者意識へしない特徴がある。

相手に傷つけられたとしても、自分も何かをしている。

関係は常に相互作用でできている。

音楽は穏やかなソフト・ロックで、ギターとベースがゆったり進む。

派手な展開はない。

しかし、メロディは非常に自然で、アルバム全体の流れを支える。

6. Still Beating

「Still Beating」は、本作を代表するラヴ・ソングの一つである。

タイトルは「まだ鼓動している」。

心臓が動いている。

つまり、感情もまだ生きている。

関係が変化しても、距離ができても、何かがまだ残っている。

その感覚が曲の中心にある。

歌詞では、恋愛の不完全さを認めながら、それでも相手への感情が続いていることが描かれる。

“still”という言葉が重要である。

新しく始まるのではない。

まだ続いている。

時間を経ても消えない。

音楽は非常に温かく、アコースティック・ギターと柔らかなリズムが中心。

DeMarcoのヴォーカルも優しく、彼の作品の中でも特に親密な空気を持つ。

この曲では、ローファイな質感が「録音の粗さ」ではなく「距離の近さ」として機能している。

7. Sister

「Sister」は非常に短い楽曲だが、アルバムの中で重要な役割を持つ。

タイトル通り、家族への呼びかけとして聞こえる。

本作では父親が非常に大きな存在だが、家族というテーマは父子関係だけに限定されない。

家族の記憶。

血縁。

共有された過去。

それらが短い曲の中へ凝縮される。

音楽は簡素で、ほとんどスケッチのように聞こえる。

しかし、この短さが逆に効果的である。

家族についてすべて説明する必要はない。

一言。

短いメロディ。

それだけで長い共有時間を示せる。

アルバムの中盤に置かれることで、後半のより深い内省へ橋を架ける。

8. Dreams from Yesterday

「Dreams from Yesterday」は、過去の夢を扱う。

タイトルは「昨日から来た夢」。

一度は重要だった希望。

昔の自分が持っていた未来像。

しかし今では、それが現実と合わなくなっている。

人は成長すると、昔の夢をすべて実現するわけではない。

むしろ、夢の方を変えることがある。

あるいは、夢を持っていた自分そのものから距離ができる。

この曲には、その喪失がある。

ただし完全な失望ではない。

過去の夢が叶わなかったとしても、その夢が無意味だったわけではない。

それは当時の自分を動かしていた。

音楽は柔らかいギターと淡いメロディが中心。

タイトル通り、少しぼやけた記憶のような感触を持つ。

9. A Wolf Who Wears Sheeps Clothes

「A Wolf Who Wears Sheeps Clothes」は、英語の慣用句“a wolf in sheep’s clothing”を少し変形したタイトルである。

羊の皮をかぶった狼。

つまり、無害そうに見えて危険な人物。

しかしDeMarcoはタイトルを少し崩すことで、単純な悪人像から距離を取る。

人は誰でも複数の面を持つ。

優しく見える。

しかし傷つけることがある。

自分でも気づかない攻撃性を持つ。

この曲にはその二面性がある。

音楽には少しカントリー/フォーク的な質感もあり、本作の中では比較的素朴な響きを持つ。

歌詞の皮肉とサウンドの軽さが対照的で、DeMarcoらしいユーモアが残されている。

10. One More Love Song

「One More Love Song」は、タイトル自体が自己言及的である。

「もう一曲のラヴ・ソング」。

世の中には無数のラヴ・ソングがある。

自分もまた一曲作る。

その少し投げやりなタイトルの裏側に、実際にはかなり切実な感情がある。

恋愛について何度歌っても、結局また歌うことになる。

人間の感情は新しくない。

失恋も愛情も繰り返される。

それでも、自分が経験すると特別に感じる。

この矛盾をタイトルがよく表している。

音楽はメロディアスで、ピアノと柔らかなバンド・サウンドが中心。

少し古いポップ・バラードのような感触もあり、1970年代ソフト・ロックへの接近が感じられる。

DeMarcoのユーモアと誠実さが同時に存在する一曲である。

11. On the Level

「On the Level」は、本作の中でも最も完成度の高いシンセ主体の楽曲の一つである。

タイトルには「正直に」「同じ水準で」という意味がある。

歌詞では、自分自身と向き合うこと、現実を認めることが中心にある。

逃げる。

誤魔化す。

それを続けた後で、ようやく“on the level”になる。

つまり自分に対して正直になる。

音楽は反復するシンセ・コードとベースによって構成される。

リズムは非常に単純。

しかし音色が微妙に揺れ、夢の中のような空間を作る。

この曲は、Mac DeMarcoのサウンドがギターからシンセサイザーへ移っても、彼独自の「よれた時間感覚」が維持されることを証明している。

ギターのコーラス効果で作っていた揺れを、ここではシンセの質感によって作る。

『This Old Dog』の音響的進化を象徴する一曲である。

12. Moonlight on the River

「Moonlight on the River」は、本作の感情的なクライマックスであり、Mac DeMarcoのキャリアでも特に重要な楽曲である。

父親との関係、死への意識、別れきれない感情が長い曲の中へ集約される。

タイトルは非常に美しい。

川の上の月明かり。

静か。

穏やか。

しかし歌詞には重い感情がある。

疎遠になった父親。

愛しているのか。

憎んでいるのか。

許せるのか。

もうすぐいなくなるかもしれない人物に対して、人間はどんな感情を持てばよいのか。

その答えがない。

ここがこの曲の強さである。

家族関係を「最後には和解する物語」にしない。

逆に「完全に憎む物語」にもしない。

感情は混ざったまま残る。

音楽もそれに対応する。

前半は非常に静かで、美しい。

しかし後半になると、ノイズや歪みが増え、サウンドが崩壊する。

この展開は極めて重要だ。

言葉で処理できない感情を、最後は音響の崩壊によって表現する。

『This Old Dog』の穏やかなサウンドの中で、この曲だけが内部の混乱を露出させる。

13. Watching Him Fade Away

アルバムは「Watching Him Fade Away」で終わる。

タイトルは「彼が消えていくのを見ている」。

ここでの“him”は父親を強く示唆する。

前曲「Moonlight on the River」で感情が大きく崩れた後、この曲では逆にほとんど何もない。

簡素なシンセ。

静かな声。

短い曲。

その静けさが、死の現実をさらに強くする。

誰かがいなくなる。

それを止められない。

過去の関係を修復する時間も、もう十分には残っていないかもしれない。

しかし、完全な和解がなくても、その人が消えていくことは悲しい。

この複雑さをDeMarcoは非常に簡潔に歌う。

アルバムの最後にこの曲を置くことで、『This Old Dog』は「成長してすべてを理解する」作品にはならない。

理解できないものを抱えたまま終わる。

その終わり方が、本作の成熟を決定づけている。

総評

『This Old Dog』は、Mac DeMarcoが自らのスタイルを一段深い場所へ進めた作品である。

それまでの彼は、2010年代インディー・ロックにおける非常に強いキャラクターを持っていた。

煙草。

冗談。

だらしない服装。

奇妙なライブ・パフォーマンス。

ピッチの揺れるギター。

脱力した声。

そのイメージは非常に魅力的だったが、同時に「Mac DeMarco的」という模倣可能な様式にもなっていた。

2010年代半ばには、彼のコーラス・ギター、丸いベース、テープ的な揺れを模倣するインディー・バンドや宅録アーティストが大量に登場した。

その状況で『This Old Dog』は、単にそのスタイルを強化するのではなく、むしろ要素を減らす。

ギターを減らす。

シンセサイザーを増やす。

アレンジを簡素にする。

歌詞をより直接的にする。

結果として、サウンドの「癖」より曲そのものが前へ出る。

これは非常に重要な変化である。

特に「My Old Man」「Watching Him Fade Away」では、もし派手なギター・エフェクトやバンド・アレンジがあれば、歌詞の重さが弱まっていた可能性がある。

本作では、音を少なくすることで言葉を強くしている。

また、アルバムのテーマは「加齢」である。

タイトルが“This Old Dog”。

1曲目が“My Old Man”。

最初から「old」という言葉が続く。

Mac DeMarcoはこの時点で老人ではない。

だからこそ、この“old”は年齢そのものではなく、自分の中に蓄積された時間を意味する。

若い時には、自分を自由に作り直せるように感じる。

しかしある程度生きると、習慣ができる。

過去ができる。

傷が残る。

家族の影響が見える。

その時、人は完全に新しい人間にはなれない。

『This Old Dog』は、その事実を受け入れるアルバムである。

ここでの「受容」は、諦めとは少し違う。

自分はこういう人間だ。

父親に似ている部分がある。

昔の夢は変わった。

恋愛では同じ失敗をする。

誰かを忘れられない。

それを認める。

この自己認識が、「On the Level」にもつながる。

つまりアルバム全体は、変化を拒否する作品ではなく、変化のためにはまず自分が何者かを認めなければならないという作品である。

父親との関係はその中心にある。

家族というテーマはロック史でも非常に多く扱われてきた。

しかしDeMarcoの描き方は比較的珍しい。

父親を完全な悪役にしない。

聖人にも戻さない。

和解を美談にしない。

ただ、複雑だった関係の相手が死へ近づいていく。

その事実を見つめる。

「Watching Him Fade Away」は、この曖昧さを非常によく表現する。

誰かとの関係が悪かったとしても、その人が死ぬことは別の問題である。

憎しみと悲しみは同時に存在できる。

人間の感情は一つに整理できない。

この成熟した曖昧さが、本作を以前のDeMarco作品から大きく前進させている。

音楽的には、シンセサイザーの導入が重要である。

「For the First Time」「On the Level」では特に、ギターよりシンセが楽曲の骨格を作る。

しかし1980年代風の派手なシンセ・ポップにはならない。

音は丸い。

少しくすんでいる。

古い家庭用キーボードのような親密さがある。

これによって、電子楽器を使っても宅録感が維持される。

Mac DeMarcoの音楽にとって重要なのは、楽器の種類ではなく「音が近いこと」なのだと分かる。

彼の録音には、スタジオの巨大さがない。

むしろ部屋。

机。

ソファ。

安いスピーカー。

そうした生活空間を感じさせる。

この親密さは、2010年代のベッドルーム・ポップにも大きな影響を与えた。

もちろん、DeMarco以前にも宅録文化は長く存在した。

Guided by Voices。

R. Stevie Moore。

Ariel Pink。

Sebadoh。

ローファイの歴史は古い。

しかしDeMarcoは2010年代の若いリスナーにとって、宅録的な音をメインストリーム級のインディー人気へ押し上げた人物の一人だった。

『This Old Dog』はその影響をさらに広げた。

ローファイは「録音が悪い」ことではない。

意図的に距離を近くする美学になり得る。

完璧に磨かれたヴォーカルでなくてもよい。

ドラムが巨大でなくてもよい。

楽器が少なくてもよい。

むしろ、その小ささによって個人的な感情を強く伝えられる。

この考え方は後のベッドルーム・ポップ、インディー・ポップに広く共有される。

また、『This Old Dog』には1970年代ソフト・ロックの影響も感じられる。

James Taylor。

Harry Nilsson。

John Lennonの内省的作品。

さらに70年代後半〜80年代初頭の柔らかなシンセ・ポップ。

ただしDeMarcoはそれらを忠実に再現しない。

自分の宅録感覚へ縮小する。

大きなスタジオで作られたソフト・ロックを、部屋の中の音へする。

その結果、過去の音楽を参照しながらも懐古趣味だけにはならない。

歌詞における「時間」も重要である。

“old”。

“yesterday”。

“still”。

“one more”。

“fade away”。

タイトルを並べるだけでも、時間に関する言葉が多いことが分かる。

本作は、現在だけを歌っていない。

過去が現在にどう残っているか。

現在が未来へどう消えていくか。

その時間の流れを扱う。

だから「Dreams from Yesterday」と「Watching Him Fade Away」が同じアルバムにあることには意味がある。

昨日の夢。

消えていく父親。

変わらない自分。

まだ鼓動する感情。

すべてが「時間に耐えるもの/耐えられないもの」という一つのテーマへつながる。

そして「Moonlight on the River」は、その時間感覚を最も劇的にまとめる。

川は流れる。

月はその上に映る。

人間は変わる。

死ぬ。

しかし風景は続く。

この曲の後半がノイズへ崩壊するのは、そうした時間の流れを受け入れきれない感情の表現として非常に効果的である。

アルバム全体が穏やかだからこそ、ここでの崩壊が強い。

『This Old Dog』は、Mac DeMarcoの最も派手な作品ではない。

『2』のような無邪気な勢いも、『Salad Days』のようなインディー・アンセム感も比較的少ない。

しかし、ソングライターとしての成熟を示した作品としては極めて重要である。

曲が短い。

言葉が簡単。

アレンジも少ない。

それでも、父親、恋愛、自己認識、老い、死といった大きなテーマを扱える。

この「簡素さの中の重量」が、本作の最大の特徴である。

後世への影響という意味でも、『This Old Dog』は2010年代後半以降のインディー・ポップに非常に大きな意味を持つ。

宅録。

柔らかなシンセ。

小さな声。

丸いベース。

ギターを歪ませすぎない。

個人的な歌詞。

こうした要素は、ベッドルーム・ポップやDIYポップの標準語彙の一部になっていく。

しかしMac DeMarco自身が本作で証明したのは、「Mac DeMarco風の音」よりも重要なのは、曲の中に何を残すかということである。

表面的な音色は模倣できる。

しかし「Watching Him Fade Away」のような曲を成立させるには、音色以上に感情の整理と作曲の簡潔さが必要になる。

その意味で『This Old Dog』は、彼の模倣者が増えた時期に、本人が自分のスタイルの奥へ進んだ作品でもある。

本作に適しているのは、派手な展開や技巧より、親密なソングライティング、宅録的な音像、家族や加齢を扱う静かなインディー・ポップに価値を見いだすリスナーである。また、『Salad Days』のギター感覚だけでなく、Mac DeMarcoの作曲家としての内面性を重視する聴き方にも適した作品といえる。

『This Old Dog』は、若さを祝うアルバムではない。

むしろ、若さが永遠ではないと気づくアルバムである。

親に似ていく。

昔の夢が変わる。

人を失う。

自分自身も変わる。

その変化を大声で宣言するのではなく、部屋の中で静かに歌う。

その控えめな方法によって、Mac DeMarcoはここで、それまで以上に深く普遍的な作品を作り上げた。

おすすめアルバム

Mac DeMarco – Salad Days(2014)

Mac DeMarcoの代表作の一つであり、『This Old Dog』以前のギター中心のスタイルが最もよくまとまった作品。「Chamber of Reflection」ではすでにシンセサイザーによる内省的な方向も示されており、『This Old Dog』への橋渡しとして重要である。

Ariel Pink – Before Today(2010)

ローファイ、サイケデリック・ポップ、80年代的音色を宅録的な感覚で再構成した作品。Mac DeMarcoの音楽に先行するローファイ/奇妙に懐かしいポップの重要な文脈を形成した一枚である。

Harry Nilsson – Nilsson Schmilsson(1971)

ポップ、ロック、ピアノ・バラードを自由に行き来しながら、親密さとユーモアを両立したシンガーソングライター作品。DeMarcoの「力を抜いているように聞こえるが、実際にはメロディが非常に強い」という側面と共通する。

John Lennon – Plastic Ono Band(1970)

サウンドを簡素化し、家族、幼少期、喪失、自己認識を極めて直接的に歌った作品。音楽性そのものは異なるが、『This Old Dog』でDeMarcoが父親や過去へ向き合う姿勢との関連が深い。

Alex G – Rocket(2017)

同じ2017年に発表された、宅録文化と成熟したソングライティングを結びつける重要作。フォーク、カントリー、インディー・ロック、実験音楽を横断しながら、日常的で個人的な感情を小さな音像へ収める点で『This Old Dog』と共鳴する。

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