発売日: 1983年3月23日
ジャンル: ハードロック、シンセ・ブギー、ブルースロック、エレクトロ・ロック
概要
『Eliminator』は、ZZ Topが1983年に発表した8作目のスタジオ・アルバムであり、彼らのキャリアを決定的に変えたメガヒット作にして、80年代ロックの象徴的作品でもある。
テキサス出身の泥臭いブルーストリオが、突如としてシンセサイザーとドラムマシンを武器に、MTV時代の映像美学と完璧に融合したこのアルバムは、商業的にも批評的にも大成功を収め、バンドをスタジアム級のスーパースターへと押し上げた。
“エリミネーター”とは、アルバム・ジャケットに描かれたホットロッド（1933年型フォード・クーペ）の愛称でもあり、本作の象徴ともいえる存在。
この車は、“過去のサウンドを吹き飛ばして未来へ走る”という意味を担っており、実際にZZ Topはここで70年代のブルース／ブギーから脱却し、ダンスフロアにも適応するモダンなロックサウンドへとシフトしている。
プロデューサーは引き続きビリー・ギボンズとビル・ハム。
サウンドの中核にはリズムマシンとエレクトロベースがあり、これまでの“生っぽいグルーヴ”とは一線を画す。
しかし、その変化は決して迎合ではなく、“ZZ TopがZZ Topのままで未来に対応した”見事な自己更新だった。
全曲レビュー
1. Gimme All Your Lovin
シンセとギターリフが交差するオープニング・ナンバー。
「すべての愛をくれ」と繰り返すシンプルなリフレインが中毒的で、ダンスとロックの境界を軽やかに飛び越える。
MTVでのミュージックビデオと共に世界的ヒットに。
2. Got Me Under Pressure
よりハードでアグレッシブなギターとリズムが前面に出たナンバー。
“強い女に支配される男”というコミカルでちょっと倒錯的な物語が、ギターの歪みと共に走り抜ける。
3. Sharp Dressed Man
「スーツをビシッと決めた男は誰でもモテる」というメッセージを、洒脱かつヘヴィに歌い上げた代表曲。
スライドギターとシンセベースのコンビネーションが絶妙で、都会的な洗練と南部の土臭さが混在する名曲。
4. I Need You Tonight
スロウで官能的なブルースバラード。
ムーディなギターとサイケな空気感が80年代らしからぬ深みを醸し出している。
ギボンズのギターソロが特に美しい。
5. I Got the Six
短くタイトなアップテンポ・ロック。
“6発の銃弾を持ってる”という比喩が性と闘争を暗示し、ラフで直球なZZ Topらしさが前面に出る。
6. Legs
シンセ主導のキャッチーなポップ・ナンバー。
「彼女の足はすごい」とひたすら讃える一見軽薄な歌詞が、エレクトロ・ブギーのビートに乗って不思議な説得力を持つ。
ビデオの人気もあり、世界的ヒットに。
7. Thug
エレクトロ・ファンク色の濃い異色作。
“チンピラ”を主人公にした語りと、ミニマルなリズムセクションが不気味な緊張感を生み出す。
本作中でも最もニューウェイヴに接近した一曲。
8. TV Dinners
“TVディナー”というアメリカ家庭の象徴を題材にした風刺的ロック。
シンセとギターのトーンが不自然に混ざり合い、退屈な日常をユーモラスに描写。
PVではアニメーションが用いられたことでも話題に。
9. Dirty Dog
ファンキーなビートとエロティックなギターラインが交差するブギーロック。
“汚れた犬”という比喩が、欲望と自己嫌悪のダンスを描く。
10. If I Could Only Flag Her Down
70年代的なブルースブギーへの回帰が感じられるナンバー。
とはいえ音の作りはモダンで、古さと新しさのせめぎ合いが魅力。
11. Bad Girl
アルバムの締めくくりにふさわしい、タイトでアッパーなロックンロール。
“悪い女”をテーマにしつつ、演奏は楽しさに満ちていて、ライブ映えすること間違いなし。
総評
『Eliminator』は、ZZ Topが80年代というメディアの時代に突入する中で、自らの音楽性を更新しながらも、その“芯”を見失わなかった稀有な成功例である。
シンセやドラムマシンといった当時の流行を積極的に導入しながらも、ギターのリフ、ブルースの語り口、そしてユーモアを忘れないスタイルは、“テクノロジーと人間臭さ”の理想的融合だった。
本作は1000万枚以上の売上を記録し、「Gimme All Your Lovin」「Sharp Dressed Man」「Legs」といったMTV時代の代表曲を生んだ。
そして、テキサスの泥をまとった男たちが、シンセと共に未来を走った――その奇跡の瞬間が、この『Eliminator』なのだ。
おすすめアルバム（5枚）
- Billy Idol – Rebel Yell (1983)
シンセとロックの融合、セクシャルなエネルギーが『Legs』と共鳴。 - Prince – 1999 (1982)
ファンク、エレクトロ、ロックのハイブリッド。『Thug』的アプローチと響き合う。 - Def Leppard – Pyromania (1983)
ハードロックの80年代的進化形。『Gimme All Your Lovin』との親和性が高い。 - The Cars – Heartbeat City (1984)
ニューウェイヴとMTV映像美の融合。『Sharp Dressed Man』と同じ感性の世界。 - David Bowie – Let’s Dance (1983)
ロックとダンスビートのクロスオーバー作品。『TV Dinners』的皮肉とオシャレ感が共通。
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