発売日: 1976年11月29日
ジャンル: サザンロック、ブルースロック、カントリーロック、テックス・メックス
概要
『Tejas』は、ZZ Topが1976年に発表した5作目のスタジオ・アルバムであり、バンドが初期のブルース／ブギーロックから脱却し、新たな音楽的領域――特にカントリーやテックス・メックス的要素――へと踏み出した意欲作である。
タイトルの「Tejas（テハス）」は、スペイン語で“友達”を意味し、同時にバンドの故郷である“テキサス”のスペイン語表記でもある。
つまり本作は、ZZ Topが“自分たちのルーツに新たな形で向き合った”アルバムであり、都会的洗練と田舎の素朴さが交錯する“テキサスの肖像”とも言える作品なのである。
本作では、よりクリーンで明瞭なギターサウンド、軽やかなリズム、そして叙情的なメロディラインが強調され、泥臭さを脱ぎ捨てた“洗練されたZZ Top”が提示された。
その結果、従来のヘヴィなブルースファンからは賛否を呼んだものの、バンド自身はこの時期の音楽性を非常に誇りに思っており、後年のポップ化につながる“色彩の多様化”はここで始まったともいえる。
全曲レビュー
1. It’s Only Love
優雅なギターフィルとメロウなコード進行が印象的なオープニング。
“それはただの愛さ”という、諦観とも慰めとも取れる歌詞が、大人の感情を静かに描く。
バラード調ながらグルーヴは健在。
2. Arrested for Driving While Blind
“酒気帯び運転で逮捕”というスラング混じりのユーモアと社会批評。
スロウなテンポとヘヴィなリフで、酩酊した意識の揺らぎを音に変換している。
クラシック・ロックラジオでも人気の楽曲。
3. El Diablo
“悪魔”を意味するタイトルを冠した、サイケデリックかつ神秘的なブルースロック。
ギターのトーンと展開の妙が、テキサスの乾いた風景と裏社会の影を思わせる。
4. Snappy Kakkie
意味不明なタイトルとともに、ユーモラスで跳ねるようなポップチューン。
軽快なビートと甘く滑らかなヴォーカルが心地よく、アルバム中でも異色の存在。
5. Enjoy and Get It On
ブギー色の強いアップテンポ・ナンバー。
欲望に忠実なリリックと、ギターの荒々しいカッティングが直球で響く。
『Tres Hombres』期のノリを継承する一曲。
6. Ten Dollar Man
“10ドルの男”＝安っぽい価値しか与えられない労働者やヒモのような男をテーマにした、社会的視線を帯びたロックナンバー。
コード進行に独特の哀愁があり、南部の現実を暗示するようでもある。
7. Pan Am Highway Blues
“パンアメリカン・ハイウェイ”を走るブルースマンの心象風景。
旅と孤独をテーマにした叙情的な楽曲で、カントリーブルース色が色濃い。
8. Avalon Hideaway
アヴァロンという場所にある“隠れ家”を舞台に、退廃と快楽の時間を描いたラフなブギー。
ギターとヴォーカルの“酔いどれ感”が味わい深い。
9. She’s a Heartbreaker
エネルギッシュでタイトなリズムを持ったハードロック的トラック。
“彼女は心を砕く女”というストレートなモチーフが、泥臭くも華やかに響く。
10. Asleep in the Desert（インストゥルメンタル）
アルバムを静かに締めくくるインスト曲。
アコースティックギターによるミニマルな旋律が、タイトル通り“砂漠の夢”を描く。
アンビエントとフォークの中間のような質感が印象的。
総評
『Tejas』は、ZZ Topが“ブルース・ブギーの三人組”から、“音楽的に引き出しの多い南部の語り部”へと進化したことを示す重要な一枚である。
従来のヘヴィネスや泥臭さを抑え、カントリーやフォーク、メキシカンな色彩までも取り入れた本作は、ジャンル的にはより雑食的で、結果として後年の『Eliminator』にもつながる“色気とクールさ”の下地を作り上げた。
リスナーにとってはやや地味な印象を持たれるかもしれないが、その内省的で静かな余韻、細部にまで及ぶアレンジの丁寧さは、聴き込むほどに味わいを増す。
『Tejas』は、ZZ Topの中でも“スロー・バーン型の名盤”として、隠れた傑作と呼ぶにふさわしい作品である。
おすすめアルバム（5枚）
- Little Feat – Time Loves a Hero (1977)
サザンロックと都会的な洗練が共存。『Snappy Kakkie』『Pan Am Highway Blues』的な緩やかさとリンク。 - The Doobie Brothers – Takin’ It to the Streets (1976)
ブルースからソウル、フォークへと拡張する音楽性。『It’s Only Love』との親和性あり。 - Ry Cooder – Chicken Skin Music (1976)
メキシコ音楽とアメリカーナの融合。『Asleep in the Desert』的風景感と響き合う。 - The Rolling Stones – Black and Blue (1976)
ジャンル横断的なサウンドと艶のあるミドルテンポ。『El Diablo』『Ten Dollar Man』と好相性。 - J.J. Cale – Naturally (1972)
ミニマルでスワンピーな南部サウンド。本作の抑制されたグルーヴ感と通じる。
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