発売日: 1975年4月18日
ジャンル: ブルースロック、ハードロック、ブギーロック、ライブアルバム（前半）
概要
『Fandango!』は、ZZ Topが1975年に発表した4作目のアルバムであり、“ライブとスタジオの二面性”を融合させたユニークな構成が魅力の作品である。
前半はライブ音源、後半は新録スタジオ・トラックという構成になっており、バンドの荒々しいライブ・パフォーマンスと、緻密に作り込まれたスタジオ録音の両方が一枚に収められている。
この構成そのものが、ZZ Topの“ワイルドさと職人技”という二面性を象徴している。
タイトルの“Fandango!”は、スペイン語圏のダンス音楽に由来する言葉で、祝祭的で躍動感ある響きが本作の熱量と一体化している。
“生音の凄み”と“南部ブルースの粘り”が一体化した前半のライブ音源に加え、後半にはZZ Topの代表曲「Tush」が収録されており、本作はバンドにとってさらなるブレイクの契機ともなった。
全曲レビュー
Side A（ライブ音源）
1. Thunderbird
テキサスのバーで演奏されるような、ローカル色全開のブギー・チューン。
“サンダーバード”は安酒の名前でもあり、泥酔と自由の象徴。
演奏は粗いが、熱気と一体感が生々しい。
2. Jailhouse Rock
エルヴィス・プレスリーのカヴァーであり、ZZ Top流にアレンジされたロックンロール・クラシック。
オリジナルへの敬意と同時に、自分たちのスタイルへの昇華がなされている。
3. Backdoor Medley:
● Backdoor Love Affair
● Mellow Down Easy（Willie Dixon カヴァー）
● Backdoor Love Affair No.2
● Long Distance Boogie
ブルースの伝統をベースにしたメドレー構成。
即興的な演奏が展開される中で、フランク・ベアードのドラムとダスティ・ヒルのベースがバンドの背骨をしっかり支える。
ギターは泣き、唸り、叫ぶ。ライブZZ Topの真骨頂。
Side B（スタジオ音源）
4. Nasty Dogs and Funky Kings
ラフでファンキーなサウンドが心地よい、サザン・スウィングの佳作。
タイトル通り、“汚れた犬とファンキーな王様”というユーモラスなイメージが曲を彩る。
5. Blue Jean Blues
ブルースの美学が凝縮されたバラード。
“ジーンズの色”をテーマに、別れと孤独、哀愁を描き出す。
ギターの泣き節が冴えわたり、感情の深部に訴えかける名曲。
6. Balinese
南国のリゾート地“バリ”を舞台にした、ミッドテンポの洒脱なナンバー。
語り口は軽妙だが、コード進行にはひねりが効いている。
7. Mexican Blackbird
“メキシコの黒い鳥”という比喩で、ボーダーを越えた恋愛と奔放さを歌う。
ユーモアとローカル色が交差し、語りのような歌唱が旅情を誘う。
8. Heard It on the X
“X”とは、テキサス国境付近から発信されていた強力ラジオ局（メキシコの放送局）のこと。
少年時代の記憶と音楽との出会いを爆発的な演奏で描いた、オマージュ的ロック・アンセム。
9. Tush
バンド最大級のヒット曲にして、ライブでも必ず披露される鉄板ブギー。
「I’m just lookin’ for some tush!」という歌詞が象徴するように、シンプルで本能的、最高にホットなロックンロール。
わずか2分半ながら、そのインパクトは計り知れない。
総評
『Fandango!』は、ZZ Topのライブバンドとしての熱量と、スタジオミュージシャンとしての緻密な表現力を一体化させた、極めてユニークで完成度の高いアルバムである。
前半のライブパートでは、荒削りなグルーヴと観客との一体感が記録されており、まさに“現場のZZ Top”を感じることができる。
一方、後半のスタジオ録音では、ブルース、ブギー、カントリー、ラテンなど多彩な要素が取り入れられ、バンドの音楽的幅の広さとセンスが遺憾なく発揮されている。
「Tush」という強力なキラーチューンを擁しつつ、アルバム全体はシームレスに展開し、ZZ Topというバンドの“泥臭さとスタイル”が同時に立ち上がるような仕上がりとなっている。
『Fandango!』は、彼らの音楽的成熟と可能性を決定づけたターニングポイントであり、ZZ Topを初めて聴く人にも強く薦められる一枚だ。
おすすめアルバム（5枚）
- Lynyrd Skynyrd – Nuthin’ Fancy (1975)
サザンロックとユーモアの融合。『Mexican Blackbird』的世界観と共鳴。 - The Rolling Stones – Get Yer Ya-Ya’s Out! (1970)
ライブの熱気とブルースへの愛。『Thunderbird』的熱量が味わえる。 - Canned Heat – Live at Topanga Corral (1971)
泥臭いブルース・ライブ盤。『Backdoor Medley』のような構成に通じる。 - The James Gang – Rides Again (1970)
パワートリオの魅力とブルース・ロックの融合。『Blue Jean Blues』の叙情性と重なる。 - Ted Nugent – Ted Nugent (1975)
硬派で本能的なギター・ロック。『Tush』の爆発力とリンクするアティチュード。
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