発売日: 1971年2月
ジャンル: プログレッシブロック、ハードロック、シンフォニックロック
概要
『Salisbury』は、Uriah Heepが1971年に発表した2作目のスタジオ・アルバムであり、デビュー作で見せたハードロックの骨格に、より壮大でシンフォニックな要素を大胆に取り入れた“野心作”である。
バンドはこの作品で、自らの可能性をプログレッシブ・ロックという文脈の中で再定義しようと試み、20分に及ぶ表題曲“Salisbury”ではオーケストラを導入するなど、ロックとクラシックの融合に果敢に挑んだ。
アルバムタイトルの“Salisbury”は、イングランド南西部にある都市名であり、そこに広がるソールズベリー平原――ストーンヘンジなどの神秘的な遺構が残る地――を象徴している。
このことからも、本作が単なるハードロックではなく、英国の神秘主義や自然観、精神性を音楽的に描こうとしていることがうかがえる。
前作に続いて、デヴィッド・バイロン(ヴォーカル)、ミック・ボックス(ギター)、ケン・ヘンズレー(キーボード)を軸とするメンバー構成で、バンドの演奏力とアンサンブルはより引き締まり、アートロック的なスケール感を伴っている。
この作品は、Uriah Heepが“幻想と現実”、“力強さと繊細さ”の間で揺れながらも、自らの表現領域を拡張しようとした試みの記録である。
全曲レビュー
1. Bird of Prey
冒頭から響く高音コーラスと鋭利なギターが、異様な緊張感をもたらす。
すでにライヴの定番曲となっていたが、ここではよりドラマティックな構成が際立っており、デヴィッド・バイロンのファルセットと力強いシャウトがスリリング。
タイトルの“猛禽”にふさわしい攻撃的な楽曲。
2. The Park
エレクトリック・ピアノと静謐なヴォーカルが導入部を構成し、中盤ではジャズ的な展開に移行する異色曲。
“公園”というタイトルに反して、都市と自然、人間の孤独と救済が交差するような、哲学的な深みを持った構成となっている。
3. Time to Live
重量級のギターリフと、躍動的なリズムが特徴のハードロック・ナンバー。
“生きる時が来た”というタイトルに込められたメッセージは直線的だが、演奏には緊張感とダイナミズムが満ちており、初期Uriah Heepのエネルギーを感じさせる。
4. Lady in Black
フォーク調のアコースティック・ギターと反復するリズムが特徴の、Uriah Heepの中でも特異な楽曲。
“黒衣の女”という寓話的存在を描いたリリックは、戦争、喪失、慰めといったテーマを内包し、繰り返される旋律が静かに精神に染み込んでくる。
のちにヨーロッパ(特にドイツ)で大ヒットし、バンドの代表曲となった。
5. High Priestess
キャッチーなリフとコーラスが前面に出た、比較的軽快なロックンロール。
“巫女”というタイトルにふさわしいミステリアスな歌詞と、爽快なビートが好対照を成している。
アルバムの中で唯一、コンパクトでストレートな構成を持つ一曲。
6. Salisbury
アルバムの核であり、20分を超える大作。
ロンドン交響楽団によるホーン・セクションとストリングスを取り入れ、ロックとクラシックのフュージョンを実現。
楽曲は序盤のヘヴィなリフから、中盤のジャズロック風インタールード、終盤の抒情的展開へと流れる“組曲”形式を採用しており、Uriah Heepの音楽的野心が最も色濃く反映されている。
リリックは抽象的ながら、魂の旅や内面的覚醒を想起させ、まさに“英国的プログレの詩的到達点”と呼ぶにふさわしい。
総評
『Salisbury』は、Uriah Heepというバンドが“ハードロックの型”から意図的に逸脱し、より芸術的な音楽世界へと踏み出した記念碑的作品である。
特に表題曲“Salisbury”における20分におよぶ組曲構成は、当時としては革新的であり、後年のシンフォニックロックやプログレメタルへの影響も見逃せない。
それと同時に、“Bird of Prey”や“Lady in Black”のようなキャッチーさと叙情性を兼ね備えた楽曲群が、本作の多層的な魅力を支えている。
ドラマティックでいて、どこか土着的でスピリチュアル――それがUriah Heepの音楽性であり、その核がここで明確に形作られた。
アルバムを通じて鳴り響くのは、力強さと幻想、混沌と秩序、そして“まだ知らぬ自分自身”に出会う音の旅である。
おすすめアルバム(5枚)
- King Crimson – In the Wake of Poseidon (1970)
同様にクラシック的構成を持つプログレ作品。『Salisbury』の組曲的野心と響き合う。 - ELP – Tarkus (1971)
長大な組曲構成とキーボード主導の世界観が近い。 - Deep Purple – Fireball (1971)
ハードロックと実験性のバランスにおいて共通点が多い。 - Barclay James Harvest – Once Again (1971)
オーケストラとロックの融合という意味で『Salisbury』に近い路線。 - Renaissance – Ashes Are Burning (1973)
クラシカルなプログレ・アプローチと幻想性が共通し、特に“Salisbury”との親和性が高い。
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