発売日: 1977年5月13日
ジャンル: ハードロック、アリーナ・ロック、ブルースロック
概要
『Cat Scratch Fever』は、テッド・ニュージェントが1977年にリリースした3作目のソロ・アルバムであり、彼のキャリアにおける商業的・音楽的ピークを捉えた代表作である。
同名タイトル曲「Cat Scratch Fever」のヒットにより、アルバムはプラチナ認定を獲得し、彼の名前はアメリカン・ハードロックの代名詞として確立された。
本作では、前作『Free-for-All』の混沌と多様性を整理し、より明快でストレートなハードロックの方向性が強調されている。
デレク・セント・ホームズがボーカルとして完全復帰し、ニュージェントの野獣的ギターと、バンド全体のアンサンブルの一体感が格段に高まった。
音楽的には、ブルース・ルーツを保持しながらも、アリーナ・サイズのスケール感を備えたリフ・ロックが中心。
ギターソロは従来通り縦横無尽だが、よりキャッチーで整った曲構成に落とし込まれており、ハードロックとポップ性の見事な融合が達成されている。
その結果、『Cat Scratch Fever』はニュージェントにとって最大の商業的成功作となり、1970年代後半のアメリカン・ロック・シーンにおける不動の地位を確立した。
全曲レビュー
1. Cat Scratch Fever
タイトル曲にしてNugent最大の代表曲。
凶暴なギターリフと耳に残るフックが特徴で、性的暗喩を含んだ歌詞と共に、ロックンロールの“本能”をストレートに描き出す。
ライブでも定番の一曲で、Nugent流の“ロックの爆弾”が炸裂する。
2. Wang Dang Sweet Poontang
攻撃的なギターと不敵なユーモアが交錯する、Nugentらしい“男臭さ全開”のナンバー。
ファンキーなリズムとリフの反復がクセになる中毒性を持ち、ライブでは観客とのコール&レスポンスでも盛り上がる。
3. Death by Misadventure
不穏なイントロから始まるミディアム・テンポの一曲。
“偶然の死”というタイトルが示す通り、内容的にはシニカルかつブラックユーモアが効いており、ブルースの影響も強く出ている。
4. Live It Up
爽快で前向きなエネルギーを持ったアップテンポ・ナンバー。
サビの“Live it up!”というフレーズがシンプルで力強く、青春の疾走感とロックンロールの快楽を同時に味わえる。
5. Home Bound
唯一のインストゥルメンタル曲で、メロウなギターが美しく響く小品。
ニュージェントの繊細なプレイが堪能できる貴重な一曲であり、アルバム中の“休息”としても機能している。
6. Workin’ Hard, Playin’ Hard
タイトル通り、労働と快楽をテーマにしたアメリカン・ロックらしい直球ソング。
ヘヴィなリフとシャウト気味のヴォーカルが、70年代ブルーカラー文化を象徴する。
7. Sweet Sally
ノリの良いブギー・ロック風ナンバー。
女性への奔放な愛情を描いた歌詞が、軽快なリズムと共に楽しく響く。
全体にユーモアと余裕が漂う楽曲。
8. A Thousand Knives
シリアスなギターイントロと共に始まるスローなナンバーで、タイトルの“千本のナイフ”が示すように、痛みや怒りの感情を音に託したような緊張感がある。
9. Fist Fightin’ Son of a Gun
最後を締めくくる豪快なロック・アンセム。
“拳で語る息子”というタイトル通り、暴力的で原始的なエネルギーを正面から描いた、Nugentらしさが凝縮された一撃。
総評
『Cat Scratch Fever』は、テッド・ニュージェントの“アメリカン・ハードロックの完成形”とも言うべきアルバムであり、その野性味、ユーモア、爆発力、そしてギター・ヒーローとしてのカリスマ性が、最も純粋な形で封じ込められた一枚である。
無骨なまでのロックンロール精神と、洗練されたアンサンブルの両立によって、Nugentの音楽は単なるエゴの発露ではなく、バンドとしての説得力を持ち始めている。
ギターはあくまで主役でありながら、楽曲構成がタイトに整えられており、アルバム全体としても非常に完成度が高い。
セクシュアリティと暴力性、スピードとグルーヴ、そして“自由”というアメリカン・ロックの核が、この作品には満ちている。
あらゆる意味で時代を象徴し、そして今なおライブ会場で鳴り響く普遍性を備えた、1970年代ハードロックの金字塔である。
おすすめアルバム(5枚)
- AC/DC – Let There Be Rock (1977)
同年リリースの直球ロックンロール。Nugentの攻撃性と共鳴。 - Van Halen – Van Halen (1978)
ギターヒーロー時代の幕開け。技巧とショウマンシップがNugentに通じる。 - KISS – Love Gun (1977)
セクシュアルなロックンロールとアリーナ的エンタメの共通項。 - Aerosmith – Draw the Line (1977)
Nugentと同じ年にリリースされた、荒々しさとキャッチーさの理想的融合。 - Montrose – Paper Money (1974)
アメリカン・ハードロックの美学とメロディを併せ持つ好例。Nugentの初期路線とリンク。
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