発売日: 1971年9月30日
ジャンル: ポップロック、ブルーアイド・ソウル、フォークロック
概要
『Harmony』は、Three Dog Nightが1971年に発表した5作目のスタジオ・アルバムであり、彼らの“選曲と声の芸術”がさらに洗練された形で結実した作品である。
タイトルに込められた“調和”という言葉は、三人のリード・シンガーによる緻密なボーカル・アンサンブルと、ジャンル横断的な選曲との美しい融合を象徴している。
このアルバムでは、ポール・ウィリアムズ作の「An Old Fashioned Love Song」やホイト・アクストンによる「Never Been to Spain」などがシングルとして成功し、バンドの人気と商業的評価をさらに押し上げた。
ただし単なるヒット曲の寄せ集めではなく、アルバム全体が一つのテーマに沿って緻密に構成されており、“人間の感情と物語の深層”を掘り下げる内容となっている。
時にソウルフルに、時にフォーキーに、時にシアトリカルに――Three Dog Nightは本作で、声という楽器の持つ可能性を最大限に引き出しながら、アメリカ音楽の広大な地平を自由に横断している。
全曲レビュー
1. Never Been to Spain
ホイト・アクストン作による、緩やかに始まり後半で高揚する構成の名曲。
「スペインには行ったことはないが、音楽は知っている」というリリックが、体験を超えた普遍的感覚を伝える。
コリー・ウェルズのシャウトが見事に楽曲の感情曲線を描き切る。
2. My Impersonal Life
フォーク〜アートロック的な色合いを持つ中盤のスローナンバー。
自己喪失や人間関係の希薄さといったテーマが歌詞に込められ、都会的孤独感がにじむ一曲。
3. An Old Fashioned Love Song
ポール・ウィリアムズによる優しいメロディのポップ・バラード。
チャック・ネグロンの温かみあるボーカルが光り、Three Dog Night史上もっとも親密なラブソングのひとつとして親しまれている。
タイトル通り“昔ながらの愛の歌”が、新たな形で現代に蘇る。
4. Family of Man
のちにシングルとしても成功を収めた楽曲。
環境や戦争、分断の時代に“人類の連帯”を高らかに歌い上げるメッセージ・ソングでありながら、押しつけがましさのない明快なポップさが魅力。
5. Intro: Poem – Mistakes and Illusions
短いポエトリー・リーディング風のイントロ。
“過ちと幻想”という哲学的なテーマが提示され、アルバム後半に向けて思索的な空気を漂わせる。
6. Peace of Mind
静謐なイントロから、次第に熱を帯びていく“心の安らぎ”をめぐるロック・ナンバー。
ボーカルの重層性とダイナミズムが圧巻で、“心の調和”を音楽で描いたような構成となっている。
7. Liar(ライヴ・バージョン)
前作『Naturally』収録のスタジオ版とは異なり、ここではライヴ録音として収録。
観客との緊張感、声のきしみ、バンドの爆発力――すべてが生々しく記録されており、Three Dog Nightの“ライヴバンド”としての真価が刻まれている。
8. I’d Be So Happy
ブルージーでスウィング感のあるポップ・ソウル。
失恋の傷を明るく包み込むようなメロディが、悲しみとユーモアを同時に響かせる。
9. Play Something Sweet (Brickyard Blues)
アラン・トゥーサン作のファンキーな一曲。
ニューオーリンズ風のグルーヴとコール&レスポンスが楽しく、まさに“スウィートな何か”が音楽として体現されている。
10. You
アルバムのラストを飾るしっとりとしたラブソング。
“君”という特定の存在に語りかけるシンプルな構成が、逆に普遍性を帯びて響く。
余韻ある締めくくり。
総評
『Harmony』は、Three Dog Nightの表現力と選曲眼が“調和”の名のもとに極限まで高められたアルバムであり、“声を通してアメリカ社会と個人の感情をつなぐ”という試みが、極めて豊かに実現されている。
その魅力は単なるヒット曲の寄せ集めではなく、アルバム全体を通して“語られるもの”の連続性と深み、そしてバンドとしての一体感にある。
3人のシンガーが交互に主役を務めながらも、全体はあくまで“三つの声が一つになる”音楽として成立している点が、まさに“Harmony”なのだ。
時代を超えて愛される“ポップの良心”としてのThree Dog Nightの魅力が、ここに凝縮されている。
おすすめアルバム(5枚)
- Paul Williams – Just an Old Fashioned Love Song (1971)
収録曲の原作者によるソロアルバム。詞の繊細さとThree Dog Nightとの解釈の違いが興味深い。 - The Guess Who – So Long, Bannatyne (1971)
同時代のカナダ発ポップロック。社会派リリックとメロディアスな展開が共通。 - The 5th Dimension – Love’s Lines, Angles and Rhymes (1971)
ボーカル・アンサンブル重視のソウルポップ。Three Dog Nightと同じ時代精神を共有。 - Nilsson – Nilsson Schmilsson (1971)
ボーカルとアレンジによる楽曲再創造の好例。Three Dog Night的カバー精神と通じる。 - Elton John – Madman Across the Water (1971)
繊細さとドラマ性の共存。Three Dog Nightが多く取り上げた作家の進化形を知るうえで最適。
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