発売日: 1970年11月18日
ジャンル: ポップロック、ブルーアイド・ソウル、フォークロック
概要
『Naturally』は、Three Dog Nightが1970年末にリリースした4作目のスタジオ・アルバムであり、彼らのカバー中心の美学がより“自然体”かつ洗練された形で表現された作品である。
このアルバムは、「Joy to the World」「Liar」といった大ヒット曲を含み、バンドにとって最大の商業的成功をもたらした転機的作品である。
タイトル『Naturally』には、過度に装飾されたプロダクションや作為的なアレンジから離れ、声と曲そのものの力で勝負するというバンドの姿勢が込められている。
フォーク、ロック、ソウル、R&B、ゴスペルといったアメリカ音楽の要素がバランス良く取り入れられ、Three Dog Nightの“声のアンサンブル”がよりナチュラルに、そして強靭に響いている。
また、楽曲ごとにリードボーカルを入れ替えるスタイルはそのままに、アルバム全体の流れが一貫して有機的である点も特徴。
時代のムードを的確にとらえた選曲と、ソウルフルで人間味ある演奏が、1970年代初頭のアメリカを象徴するアルバムとなっている。
全曲レビュー
1. I Can Hear You Calling
重厚なギターリフとゴスペル的なコーラスで幕を開ける一曲。
迫力あるイントロからしてライヴ映えを予感させる。
コリー・ウェルズのパワフルなボーカルが楽曲を牽引する。
2. One Man Band
チャック・ネグロンがリードを取るポップ寄りのアップテンポ・ナンバー。
“ひとりきりで奏でる音楽”というモチーフが孤独と誇りを同時に描き出す。
躍動感とセンチメンタリズムが交差する好楽曲。
3. I’ll Be Creeping
フリー(Free)の隠れた佳曲を取り上げたブルースロック・ナンバー。
ベースラインのうねりとヴォーカルの緊張感が絶妙で、ハードかつファンキーなサウンドが印象的。
4. Fire Eater
インストゥルメンタルでありながら、熱量の高いファンクロック。
バンドの演奏力が強く押し出されており、“声のバンド”としてのイメージを超える楽器主体の魅力が垣間見える。
5. Can’t Get Enough of It
スワンプ・ロック的な雰囲気とゴスペル風コーラスが合体した、分厚いグルーヴ感を持つ楽曲。
ライヴでの盛り上がりを意識したアレンジが印象的。
6. Sunlight
シンガーソングライター、ジェシー・コリン・ヤングのカバー。
穏やかでフォーキーな空気をまとい、朝の光のように柔らかく響く名曲。
コリー・ウェルズの優しい歌声が、まさに“ナチュラル”というアルバムタイトルを体現している。
7. Heavy Church
前作『Suitable for Framing』にも収録されていたが、本作での再演はよりタイトでダイナミック。
ファンキーなホーンと福音派的コーラスが、音楽を“礼拝”のように高揚させる。
8. Liar
ラッセル・バラード(アージェント)作の楽曲を、チャック・ネグロンの強烈なヴォーカルで再構築した代表的なロック・ナンバー。
内に秘めた怒りと裏切りの感情が見事に噴出し、Three Dog Nightの“演技力”ある歌唱を象徴する一曲。
9. I’ve Got Enough Heartache
メロディアスなバラードで、三人の声の繊細な使い分けが映える。
“もう十分傷ついた”というテーマが、やさしくも痛々しく胸に響く。
声と間の使い方に、彼らの成熟がうかがえる。
10. Joy to the World
ホイト・アクストン作によるバンド最大のヒット曲。
「Jeremiah was a bullfrog」で始まる陽気な歌詞と、チャック・ネグロンの開放的なヴォーカルが印象的。
単なるパーティー・ソングではなく、“喜び”という感情の純粋さを歌い切った名作。
総評
『Naturally』は、Three Dog Nightの中でも最も“アメリカ的な雑多性”と“声の魅力”を併せ持った作品であり、ヒット曲の多さだけでなく、アルバムとしての構成美においても秀逸である。
ソウル、フォーク、ファンク、ロックという異なる文法を、3人のシンガーが自在に歌い分け、なおかつ一枚のアルバムとして違和感なく聴かせてしまう構成力は、彼らのバンドとしての稀有な完成度を物語っている。
“ナチュラル”とは、決して簡素という意味ではなく、飾らずとも人の心に届く誠実さのことだろう。
Three Dog Nightの音楽には、その“誠実さ”と“楽しさ”が共存している。
それが『Naturally』という作品を、時代を超えて響かせ続ける理由なのだ。
おすすめアルバム(5枚)
- Free – Fire and Water (1970)
「I’ll Be Creeping」原曲のバンド。グルーヴとブルースの融合が共通。 - Delaney & Bonnie – To Bonnie from Delaney (1970)
スワンプ・ロックとゴスペル的祝祭性の融合。『Heavy Church』との親和性が高い。 - Elton John – Elton John (1970)
同時代のソングライター作品をThree Dog Nightが多く取り上げている。感情表現の幅広さが共通。 - The Guess Who – Share the Land (1970)
フォーク/ロック/ソウルのミックス感覚が本作と響き合う。 - Joe Cocker – Mad Dogs & Englishmen (1970)
パワフルなボーカルとアメリカン・ルーツの融合。Three Dog Nightのダイナミズムと共鳴。
コメント