発売日: 1975年12月
ジャンル: プログレッシブ・ロック、ハードロック、アリーナ・ロック
概要
『Equinox』は、Styxが1975年にA&Mレコード移籍後初めて発表したアルバムであり、バンドにとって商業的転機となる重要な作品である。
前作『The Serpent Is Rising』および『Man of Miracles』での実験性を経て、本作ではより洗練されたメロディ志向とアリーナ・ロック的なアプローチが前面に出されており、以後のバンドの方向性を決定づけたと言える。
「Lorelei」や「Light Up」といったラジオ向けのヒット曲が生まれたことに加え、名バラード「Suite Madame Blue」が収録されたことで、本作はStyxの“ポップとプログレの融合”という美学を象徴する作品として高く評価されている。
なお、本作を最後にギタリストのジョン・クルルェウスキーが脱退し、次作からはトミー・ショウが加入することとなる。
その意味でも、過渡期にありながらバンドのアイデンティティを確立した一枚として、キャリアの中でも特に意義深い作品である。
全曲レビュー
1. Light Up
グラマラスで軽快なキーボード・リフとポップなメロディが印象的なオープニング。
マリファナを賛美するメッセージが込められていると言われる歌詞には、当時のカウンターカルチャーの余韻が漂う。
デニス・デ・ヤングの明快なヴォーカルと、シンセによる多彩な音色が耳を惹く。
2. Lorelei
全米27位を記録したヒット曲。
煌びやかなキーボードとハードなギターが交差するキャッチーなロック・ナンバーで、アメリカ南部の女性像“ローレライ”に心を奪われる若者の心理を描く。
アリーナ・ロック的な展開とラジオ・フレンドリーな構成が見事に融合している。
3. Mother Dear
三拍子を取り入れた変則的なリズムと、幻想的なアレンジが特徴の中編バラード。
母性愛と内的世界を行き来するような詩的な歌詞が、Styxらしいロマンティシズムを強調する。
中盤の展開部では、クラシカルなギターとメロトロン風の音色が印象的。
4. Lonely Child
静謐なイントロから一転して力強いギターとドラマティックなメロディが展開される、叙情性とダイナミズムのバランスが見事な楽曲。
孤独な心を抱えた子どもというテーマは、Styxの社会的視点と人間性の探求を感じさせる。
5. Midnight Ride
ギターのザクザクしたリフが主導する、ジョン・クルルェウスキー作のハードロック・ナンバー。
スピード感と鋭さが際立っており、ライブ映えする構成。
歌詞では夜の逃避行と欲望が交錯し、アメリカン・ロックの自由さを象徴する。
6. Born for Adventure
冒険と運命をテーマにした劇的なナンバーで、プログレとロック・オペラの要素が共存している。
バンドの多層的なヴォーカル・ハーモニーが壮大なスケールを生み、サビの高揚感は一聴の価値がある。
旅する者の孤独と誇りが交錯するストーリーテリングも魅力的である。
7. Prelude 12
『Suite Madame Blue』へのイントロダクションとして機能するインストゥルメンタル。
穏やかなアコースティック・ギターと儚げなメロディが、次曲への布石となる。
タイトルの“12”は、12月、つまりアメリカ建国100周年となる1976年を象徴しているとも解釈される。
8. Suite Madame Blue
本作のハイライトであり、Styxの代表曲のひとつ。
アメリカを“Madame Blue”という女性に擬人化し、その栄光と衰退、再生を描いた壮大なバラード。
前半はしっとりと、後半はオペラティックな盛り上がりを見せ、政治的・文化的批評を内包した構成は圧巻である。
「America, America」という繰り返しが、単なる愛国ではない複雑な感情を伴って響く。
総評
『Equinox』は、Styxにとって“アート性”と“商業性”のバランスをもっとも巧みに結実させた作品の一つである。
ハードロックとプログレッシブ・ロックの要素を土台にしつつ、より洗練されたメロディラインと明確なコンセプトがアルバム全体に一貫性をもたらしている。
前作までの混沌とした実験性から一歩引き、ポップに寄せながらも、決して単調ではない。
特に「Suite Madame Blue」に見られる叙事詩的構成とメッセージ性は、バンドの社会的視座と芸術性の高さを示すものだ。
ジョン・クルルェウスキーのラスト・アルバムとしても知られ、次作『Crystal Ball』以降のトミー・ショウ加入によりStyxはさらなる成功を収めるが、その礎となったのが本作であることは間違いない。
アメリカン・ロックのひとつの理想形を提示した、静かで力強い傑作である。
おすすめアルバム(5枚)
- Boston – Don’t Look Back (1978)
ラジオ・フレンドリーなハードロックと洗練されたメロディ。『Equinox』の持つスタジアム感と親和性が高い。 - Journey – Infinity (1978)
メロディアスで感情的なボーカルと、ドラマティックな構成がStyxの中期と共通。 - REO Speedwagon – Ridin’ the Storm Out (1973)
ミッドウェストのアリーナ・ロック仲間。地に足のついたロックと叙情性が似通っている。 - Rush – A Farewell to Kings (1977)
プログレ的展開とロックの融合。コンセプチュアルな楽曲構成に共鳴点がある。 - Kansas – Point of Know Return (1977)
叙情性とテクニカルな演奏、そしてアメリカ的スケール感を併せ持つ、Styxファン必聴の一枚。
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