発売日: 1976年2月
ジャンル: ハードロック、グラム・ロック、グラム・メタル
概要
『Give Us a Wink』は、イギリスのロックバンド Sweet が1976年にリリースした4作目のスタジオ・アルバムであり、バンドが完全にセルフ・プロデュース体制に移行し、音楽的自立を果たした最初のフル・アルバムである。
これ以前の作品ではプロデューサー・チームのチャップマン=チンの影響が大きかったが、本作からは全曲がバンド自身の作詞作曲・プロデュースとなり、Sweetが単なるグラム・アイドルではなく、本格的なハードロック・アクトとしての地位を確立するための強い意思が表れている。
ジャケットに描かれた“まばたきをする目”のギミックも話題となり、アルバムタイトルが示す“ウィンク”には、ロックンロールの誘惑性や皮肉が込められているようでもある。
音楽的には、グラム・ロックの華やかさを残しつつも、ギター・リフの重量感やリズム隊の鋭さが際立ち、サウンド全体がよりメタリックかつタイトに進化している。
後のNWOBHM(ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィメタル)への影響も語られるなど、1970年代中盤における重要な“トランジション・アルバム”として評価される作品である。
全曲レビュー
1. The Lies in Your Eyes
オープニングを飾る哀愁と攻撃性を併せ持つ名曲。
“瞳に潜む嘘”というテーマは、恋愛の欺瞞だけでなく、社会やメディアに対する広義の批判にも読める。
メジャーコードとマイナーコードを行き来するダイナミックな展開が、楽曲に深みを与える。
2. Cockroach
攻撃的なリフと不穏なリズムが印象的な、グラム・メタル的怪曲。
“ゴキブリ”という忌避される存在に仮託しながら、しぶとさや社会的排除をテーマにしており、サウンドもダークでヘヴィ。
バンドの実験的側面が発揮されている。
3. Keep It In
ミッドテンポのファンキーなグルーヴとハードなギターが絡む、ユニークなナンバー。
自己抑制と欲望の葛藤をテーマに、繰り返されるフレーズが中毒性を生んでいる。
Sweetらしい遊び心と真剣さが融合した楽曲。
4. 4th of July
アメリカ独立記念日をモチーフにしながら、自由とアイデンティティの象徴として語られる楽曲。
サウンドはスピーディで爽快、ハードロックとパワーポップの間を行くエネルギッシュな展開が魅力。
アンディ・スコットのギターが際立つ。
5. Action
本作最大の代表曲にして、Sweet史上屈指のアンセム。
重厚なリフとキャッチーなサビが完璧に融合し、“俺たちは今アクションを起こしている”というメッセージがストレートに響く。
“あなたの人生を変えてやる”という決め台詞は、ロックンロールの反抗精神を象徴する。
デフ・レパードによるカバーでも知られる。
6. Yesterday’s Rain
メランコリックなコード進行と美しいコーラスが印象的な、叙情的バラード。
“昨日の雨”という詩的なイメージは、過去の悲しみや消せない記憶を象徴している。
ハードな中にも繊細さを宿す、Sweetの表現力が光る一曲。
7. White Mice
ピアノの導入が印象的な、劇的展開を持つロック・ナンバー。
“白いネズミ”という寓話的存在を通じて、操られる個人と巨大な社会構造の関係を風刺している。
コンセプト・アルバム的側面も感じさせる異色曲。
8. Healer
本作のラストを飾るエピックな一曲。
“癒し手”という神秘的な存在に救済を求めるような内容で、幻想的なアレンジとエモーショナルなヴォーカルが融合する。
ハードロックの枠を超えたスケール感を感じさせる楽曲である。
総評
『Give Us a Wink』は、Sweetが“自己のコントロールを取り戻した”作品であり、グラム・アイドルから真のロック・バンドへの脱皮を遂げた重要なアルバムである。
チャップマン=チンの手を離れ、バンド自身が作詞・作曲・プロデュースを一貫して担ったことで、音楽的自由度と表現の鋭さが格段に増している。
サウンドはより重厚かつ硬質になり、特にアンディ・スコットのギター・プレイとミック・タッカーのテクニカルなドラミングが際立つ。
一方で、メロディアスなコーラスやバラードにおける情感表現など、Sweetならではのキャッチーさも健在である。
商業的には前作ほどのヒットは記録しなかったものの、音楽的評価は高く、ハードロック~グラム・メタルへの橋渡し的作品として、のちの80年代バンドへの影響も大きい。
結果としてこのアルバムは、“自由を手にしたSweet”の真価を示す、音楽的に最も密度の高い瞬間を記録した傑作となっている。
おすすめアルバム(5枚)
- UFO – Lights Out (1977)
叙情とヘヴィネスのバランスが近く、英国ハードロック文脈で共鳴する。 - Thin Lizzy – Jailbreak (1976)
ギター・ツインリードと語り口調の叙情が、Sweetの進化形とリンク。 - Kiss – Destroyer (1976)
演出性とハードロックの両立、Sweetと並ぶショウビズ的バンドの代表。 - Scorpions – In Trance (1975)
甘美なメロディとハードなリフの交錯が共通する。 - Def Leppard – High ‘n’ Dry (1981)
Sweetの影響を受けたハードロックとメロディの融合の系譜にある作品。
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