発売日: 2020年7月10日
ジャンル: オルタナティヴ・カントリー / アメリカーナ / フォークロック
アルバム全体の導入部分
The Jayhawksの11作目のスタジオアルバム『XOXO』は、バンドのキャリアにおける新たな挑戦と進化を感じさせる作品だ。2020年にリリースされた本作は、バンドがこれまで築いてきた伝統的なアメリカーナ・サウンドを継承しながらも、メンバー全員がソングライティングとリードボーカルを分担するという革新的なアプローチを取った点で特筆に値する。
これまでThe Jayhawksの中心人物としてソングライティングを担ってきたGary Lourisが、その役割を他のメンバーであるMarc Perlman(ベース)、Tim O’Reagan(ドラム)、Karen Grotberg(キーボード)と共有することで、アルバム全体がより多様性に富んだ作品となっている。このバンド内の協力体制は、アルバムタイトルの『XOXO』(「ハグとキス」)が象徴する通り、相互の信頼と友情を反映している。
音楽的には、フォークやカントリー、ロックの要素を軸にしながらも、これまでの作品よりも遊び心が感じられる。時にはシンプルで牧歌的、時には力強くモダンなサウンドを聴かせ、バンドの新しい一面を引き出している。アルバム全体を通じて、The Jayhawksの一体感と成熟した音楽性が光る仕上がりだ。
各曲ごとの解説
1. This Forgotten Town
アルバムの幕開けを飾るこの楽曲は、Gary LourisとTim O’Reaganがリードボーカルを共有する形で進行する。心に残るメロディと美しいハーモニーが特徴で、ノスタルジックな歌詞が広がるアメリカの田舎町の風景を思い起こさせる。アルバム全体の雰囲気を象徴する一曲だ。
2. Dogtown Days
Tim O’Reaganがリードボーカルを務める曲で、軽快なテンポとキャッチーなメロディが耳に残る。遊び心のあるリリックとシンプルなロック調のアレンジが、The Jayhawksのポップな側面を引き出している。
3. Living in a Bubble
Karen Grotbergがリードボーカルを担当したこの楽曲は、軽やかなピアノの旋律と明るいコーラスが印象的だ。歌詞には、現代社会の疎外感や孤独感が込められており、それがメロディの軽快さと絶妙に対比している。
4. Ruby
Gary Lourisがリードボーカルを務める、カントリー色が強いバラード。優しいアコースティックギターとストリングスのアレンジが楽曲に深みを加え、歌詞には切なさと希望が同居している。
5. Homecoming
Tim O’Reaganのボーカルがフィーチャーされた楽曲で、アメリカーナの伝統に忠実な仕上がりとなっている。ギターとピアノのシンプルなアレンジが心地よく、懐かしさを感じさせるメロディが魅力的だ。
6. Society Pages
Marc Perlmanによるソングライティングが光る楽曲で、控えめながらも確かな存在感を持つ一曲。ややメランコリックな雰囲気が漂い、リスナーを引き込む。
7. Illuminate
Karen Grotbergがリードボーカルを務める楽曲で、柔らかなピアノとギターのアンサンブルが美しい。歌詞には「光」と「癒し」をテーマにしたポジティブなメッセージが込められており、アルバム全体のトーンを引き上げている。
8. Bitter Pill
Gary Lourisのボーカルが際立つ楽曲で、軽快なテンポと耳に残るコーラスが印象的だ。歌詞には苦い経験やそれを乗り越える強さが描かれており、シンプルながらも力強い楽曲だ。
9. Across My Field
アコースティックギターが中心となるフォーク調の楽曲。広大なフィールドを渡る風景が思い浮かぶような、Jayhawksらしい叙情性が光る一曲だ。
10. Little Victories
Karen Grotbergが再びリードボーカルを務めた楽曲で、アコースティックサウンドが際立つ。日常の中の小さな勝利を描いた歌詞は、リスナーに温かい感情をもたらす。
11. Down to the Farm
Marc Perlmanの楽曲で、カントリー調のリズムが特徴的だ。牧歌的な雰囲気の中に、自然への敬意と人間的な温かさが感じられる。
12. Looking Up Your Number
アルバムを締めくくる楽曲で、全体的に軽やかで楽観的なトーンが感じられる。再び歩み出すような決意を感じさせる歌詞とメロディが、アルバムを心地よい形で終わらせている。
フリーテーマ
『XOXO』は、The Jayhawksがそのキャリアにおいて新たな地平を切り開いたアルバムである。特に注目すべきは、バンド全員がソングライティングとリードボーカルに関与するというスタイルだ。このアプローチにより、アルバム全体に多様性が生まれると同時に、個々のメンバーの個性が強調されている。その結果として、The Jayhawksの音楽がさらに立体的で親しみやすいものになった。
アルバムの中で取り上げられるテーマは、「共同体」や「再生」、そして「希望」といった普遍的なものだが、それらはどれも現代社会の文脈に即した形で語られている。この点で、『XOXO』はThe Jayhawksが単なるレジェンドバンドにとどまらず、今なお進化を続けていることを示す証拠と言えるだろう。
アルバム総評
『XOXO』は、The Jayhawksの持つアメリカーナ・サウンドの伝統を守りつつ、新しいアプローチでファンを驚かせたアルバムだ。バンド全員が楽曲制作に参加することで、作品全体が多様性に富みながらも一貫性を保っている。温かみのあるアレンジ、美しいハーモニー、そして心に響く歌詞が詰まった本作は、バンドの新たな代表作と言える。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- Fleet Foxes – “Shore”
美しいハーモニーと自然への愛を描いた2020年の作品。『XOXO』の穏やかなアメリカーナサウンドが好きな人にぴったり。 - Wilco – “Yankee Hotel Foxtrot”
オルタナティヴ・カントリーと実験的なアプローチが融合した名盤。『XOXO』の新しい試みが好きな人におすすめ。 - Band of Horses – “Cease to Begin”
叙情的な歌詞と美しいメロディが特徴の作品。The Jayhawksのファンには馴染みやすい。 - Neil Young – “Harvest Moon”
シンプルで牧歌的な雰囲気が感じられるNeil Youngの名作。『XOXO』のアコースティックな面に共鳴する。 - Rilo Kiley – “More Adventurous”
ジャンルをまたぐ多様性とキャッチーなメロディが魅力的な作品。『XOXO』のポップな側面が好きな人におすすめ。
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