
発売日: 2024年3月29日
ジャンル: サザン・ロック、ファンク、ブルース・ロック、オルタナ・ソウル、ジャム・バンド
概要
『Wine On Venus』は、ナッシュビル拠点の若きギタリスト、Grace Bowers(グレイス・バワーズ)率いるバンド、The Hodge Podgeによるデビュー・フルアルバムであり、サザン・ロックの伝統と現代的なグルーヴが華麗に融合した、異才の登場を告げる一作である。
Grace Bowersは、まだ10代にしてそのギター・プレイが米国内外で話題を呼び、ソウル、ファンク、サザン・ロック、ゴスペルなどを自在に操る“Gen Zのデレク・トラックス”とも称される逸材。
このアルバムでは、The Hodge Podgeという多国籍・多ジャンル的なバンドを率いながら、ルーツ・ミュージックの土台に新しい息吹を注いでいる。
アルバムタイトル「Wine On Venus」は、“不毛の星にも酔いしれる喜びを持ち込む”という象徴的イメージであり、ブルースやファンクが持つ“困難の中にある歓び”の精神が全編を貫いている。
全曲レビュー(主要トラック抜粋)
1. Tell Me Why U Do That
アルバムの幕開けを飾る、ミディアム・テンポのファンク・ジャム。
Graceのギターがまるで会話のように語りかけ、スライドギターとホーンセクションが絡み合うグルーヴの温泉のような心地よさを持つ。
リリックは問いかけの形を取りながら、関係性のすれ違いをソウルフルに描く。
2. Gunslinger
ブギー調のサザン・ロック・ナンバー。
ギターソロはまさに“スモーキング・リード”と形容されるような鋭さと熱量を放ち、Graceの“ロック・ギタリストとしての矜持”が全開となる楽曲。
ライブでも定番化するであろうアンセム。
3. Wine On Venus
タイトル曲にしてアルバムの精神的中核。
「金星では誰も酔わない。でも私はワインを注ぐの」と歌う比喩は、困難な環境でも美を見出すという、アーティストとしての強い主張。
フェンダー・ローズの滑らかな音色と、Graceの繊細かつ大胆なリードが絶妙に絡み合う名曲。
4. Hodge Podge Jam
バンド名を冠したインスト・ジャムセッション。
サザン・ソウル、ファンク、ジャズ、カントリーが一体となってうねり、“音で旅をする”ような感覚をもたらす。
Graceのギターは終始控えめながらも、要所で劇的な旋律を生む。
5. Howlin’
ブルース色の強いスロー・ナンバー。
歌い手の声がまるで狼の遠吠えのように感情を引き裂き、Graceのギターがそこに寄り添うように泣く。
過去の偉大なブルースマンたちへのオマージュでもあり、現代の痛みを“うた”で繋ぎ直す役割を果たす。
総評
『Wine On Venus』は、Grace Bowersという新たなギターヒロインが、ロックの未来を“過去との対話”を通じて語ろうとする意志を示した記念碑的作品である。
The Hodge Podgeというバンドとのコンビネーションも素晴らしく、それぞれが異なる音楽的背景を持ちながらも、一つの“サザン・スピリット”で結ばれていることが感じられる。
このアルバムは、単にギターの巧さを見せるものではない。
それ以上に、音楽の中で“どう生きるか”を静かに、でも強く問う作品であり、Grace Bowersの人間性とそのビジョンがくっきりと刻まれている。
おすすめアルバム(5枚)
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Tedeschi Trucks Band / Revelator
スライドギターとソウルフルなボーカルの理想的な融合。Graceの源流にある一枚。 -
Gary Clark Jr. / This Land
現代ブルースとロックの接点。Graceのギタートーンと通じるエネルギー。 -
Brittney Spencer / My Stupid Life
南部出身の女性アーティストによるジャンル越境型ソウル。Graceの精神性に響く。 -
Marcus King / El Dorado
サザン・ロックとヴィンテージ・ソウルの新世代表現。Hodge Podgeの方向性と近い。 -
The Allman Brothers Band / Eat a Peach
南部ジャム・ロックの原点。Grace Bowersの音楽的敬意がにじむルーツ。
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