Who Can It Be Now by Men at Work(1981)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

Men at Workの「Who Can It Be Now?」は、1981年に発表された彼らのデビューアルバム『Business as Usual』に収録されたシングルであり、彼らの世界的な成功の礎を築いた楽曲である。この曲は、コミカルでポップなメロディとは裏腹に、孤独、不安、そして他者との関わりへの恐怖という内面的で繊細な感情がテーマとなっている。

主人公は、自宅でひとり過ごす中、何者かがドアをノックしてくるという情景を通じて、対人関係への拒否反応や、心の壁を象徴的に描いている。「誰なんだ、今度は誰が来た?」という繰り返される問いには、他人に近づかれることへの過剰なまでの警戒心と、現代人の抱える疎外感がにじみ出ている。

外界との接触を避け、部屋に閉じこもるという構図は、1980年代当時の都市生活者が抱えていた孤独感やストレスの投影でもあり、楽曲全体に通底するのは一種のパラノイア的な心理状態だ。にもかかわらず、それを重苦しいトーンではなく、ポップなテンポと印象的なサックスのフレーズで包み込むことで、リスナーにとって親しみやすくも深い印象を与える構成となっている。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Who Can It Be Now?」は、Colin Hay(ボーカル兼ギター)によって書かれた楽曲であり、彼の私的な体験が色濃く反映されている。Hayは後年のインタビューで、自身が当時住んでいたメルボルンのアパートで、玄関のドアを開けることに恐怖を感じるようになっていたことを明かしている。しばしば請求書や勧誘、あるいは不審な来訪者が訪れていたことで、彼は人との接触を避けるようになり、その閉塞的な心境がこの楽曲に結実した。

当時、オーストラリアの音楽シーンはパンク/ニューウェーブの影響を受けて変容しつつあり、Men at Workもその流れの中でデビューを果たした。彼らの音楽は、洗練されたポップセンスと皮肉の効いた歌詞、そして独自のアイデンティティを兼ね備えており、「Who Can It Be Now?」はその象徴的な一曲である。

シングルとしては1981年にオーストラリアでヒットし、翌年アメリカでもリリースされ、最終的にBillboard Hot 100で1位を獲得。世界的にその名を知られる契機となった。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に「Who Can It Be Now?」の印象的な一節を紹介し、日本語訳を付けて解説する。引用元は Genius を参照。

Who can it be knocking at my door?
ドアをノックしているのは誰だ?

Go ‘way, don’t come ‘round here no more
出て行ってくれ、ここには二度と来るな

Can’t you see that it’s late at night?
夜も遅いってわからないのか?

I’m very tired, and I’m not feeling right
すごく疲れてるし、気分も良くないんだ

この冒頭の歌詞には、主人公の神経質なまでの対人不安が如実に表れている。「誰かが来た」という何気ない状況が、彼にとっては極度のストレスとなり、排他的な反応を引き起こす。

Who can it be now?
誰なんだ、今度は?

このフレーズは曲全体を通じて繰り返されるコーラス部分であり、そのたびに主人公の緊張感と不安が高まっていく。まるで外の世界がすべて敵であるかのような被害妄想すら漂うが、同時にその孤独さは多くのリスナーに共感を呼ぶ。

Is it the man come to take me away?
俺を連れ去りに来た男か?

このラインでは、精神的な崩壊寸前にいるような心理状態が浮き彫りになっている。実際には存在しない“誰か”に怯える姿は、都市生活がもたらす孤独と不安、現代社会の病理を象徴しているとも解釈できる。

(歌詞引用元: Genius)

4. 歌詞の考察

「Who Can It Be Now?」は、Colin Hayの個人的な体験を基にしながら、より普遍的なテーマ──他者への不信、自己隔離、そして現代人の内面に潜む孤独──を見事にポップソングとして昇華している。その歌詞は明快でありながらも、聞き手の心に入り込み、社会の中で孤立する“自分”という存在について深く考えさせる。

楽曲の主人公は明らかに社会的な繋がりを拒絶し、自らの殻の中に閉じこもっている。これは現代における“引きこもり”や“ソーシャルアングザイエティ(対人不安)”といった概念にも重なる心理であり、当時は珍しい視点だったが、今聴いても極めてリアルに響く。

そして興味深いのは、この暗いテーマを扱いながらも、曲調は非常に明るく、キャッチーである点だ。特にGreg Hamによるサックスのリフは、この曲の代名詞とも言える存在感を放ち、不安をユーモラスに包み込むような効果を生んでいる。この“音と歌詞のギャップ”が、逆に歌詞の持つ皮肉や孤独感を際立たせる結果となっている。

Colin Hayのボーカルもまた、静かなささやきから徐々に切迫感を帯びていく構成で、主人公の内面が徐々に崩壊していく過程を感情的に描き出している。「Who Can It Be Now?」はその独特なバランス感覚により、単なるヒットソングではなく、心理的リアリズムを持った作品として記憶されている。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Overkill by Men at Work
    同じくColin Hayの内面的な不安を描いた楽曲。夜に眠れないという状況を通じて、心の中の葛藤を丁寧に描いている。

  • Talking to a Stranger by Hunters & Collectors
    オーストラリアのニューウェーブ・バンドによる曲で、社会的孤立やコミュニケーション不全をテーマにしている。

  • Only the Lonely by The Motels
    1980年代のアメリカン・ニューウェーブにおける孤独を描いた名曲。哀愁を帯びたメロディと孤立感が共鳴する。

  • Tempted by Squeeze
    軽快なメロディの中に、複雑な心情や未練が織り込まれた英国ポップの名曲。「音と歌詞のズレ」による感情の揺れが魅力。

6. 孤独をユーモアで包む、ポップの魔法

「Who Can It Be Now?」は、ポップミュージックの持つ魔力──つまり、重いテーマを軽やかに伝える力──を体現した楽曲である。対人不安や孤独という、決して明るくない主題を、誰もが口ずさめるメロディに乗せ、広く大衆に届けることに成功したこの曲は、まさにポップ音楽の真骨頂だと言える。

また、この楽曲の成功によってMen at Workは世界的な知名度を獲得し、1980年代のオーストラリア音楽シーンを国際的に押し上げる存在となった。その後もColin Hayはソロ活動を通じてこの曲を歌い続け、時代や聴き手を超えてそのメッセージは受け継がれている。

社会と距離を置きたい気分のとき、この曲はただ共感するだけでなく、その孤独を少し笑えるものに変えてくれる。そんな優しさと知性に満ちた一曲、それが「Who Can It Be Now?」なのだ。

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