発売日: 1971年5月21日
ジャンル: ソウル、R&B、コンシャスソウル
『What’s Going On』は、マーヴィン・ゲイによる名作であり、1970年代の音楽と社会に大きな影響を与えたアルバムである。この作品は、単なるラブソングの域を超え、戦争、環境問題、人種差別、警察の暴力など、当時のアメリカ社会が抱える問題に焦点を当てた革新的なコンセプトアルバムだ。アルバム全体を通して、滑らかなソウルサウンドとジャズ、ゴスペルの要素が美しく融合し、マーヴィン・ゲイの感情的で説得力のあるボーカルが際立つ。彼の弟のベトナム戦争での経験や、1960年代の公民権運動の影響を受けて作られたこの作品は、個人的かつ普遍的なテーマが融合しており、時代を超えたメッセージを持っている。
各曲ごとの解説:
- What’s Going On
アルバムのタイトル曲であり、ゲイのキャリアの中でも最も象徴的な一曲。滑らかなグルーヴと洗練されたストリングスのアレンジが、彼の甘美なボーカルと調和している。歌詞は、社会の不正義と平和への願いを表現しており、時代を超えて多くのリスナーに共鳴し続けるメッセージ性が強い。 - What’s Happening Brother
この曲では、ベトナム戦争から帰還した弟との会話がテーマとなっている。ゲイは、帰還兵が直面する社会的な疎外感や、アメリカ社会の混乱について深く考察している。軽やかなファンクのリズムとジャズ風のアレンジが、シリアスなテーマと対照的に進行する。 - Flyin’ High (In the Friendly Sky)
ドラッグ依存をテーマにした曲で、内省的でゆったりとしたサウンドが特徴。ゲイの感情豊かなボーカルが、心の葛藤や絶望感を歌い上げ、アルバムの中でも特に感情的なトラックとなっている。 - Save the Children
環境問題や未来の世代へのメッセージが込められたこの曲は、ゴスペル風のアレンジが印象的だ。ゲイは、未来を担う子供たちのために行動を呼びかけており、緩やかなリズムと力強い歌詞が感動的な一曲。バックコーラスと彼のボーカルのコントラストが美しい。 - God Is Love
宗教的なメッセージが込められた短いトラックで、ゲイの信仰心と愛の普遍性を歌っている。ゴスペルの要素が強く、彼の温かいボーカルがリスナーに心の平安をもたらすような曲だ。 - Mercy Mercy Me (The Ecology)
環境破壊をテーマにしたこの曲は、アルバムの中でも特にメロディアスで、エコロジーという当時としては珍しいテーマに光を当てた名曲だ。ゲイの優しいボーカルとシルクのようなストリングスのアレンジが、自然の美しさとその破壊に対する痛みを表現している。時代を超えた普遍的なテーマが強く訴えかける。 - Right On
ファンキーで長尺のトラックで、アルバムの中でも最もグルーヴィーな曲の一つ。ゲイは、社会の不正や人種問題に対する批判を歌っており、複雑なリズムとベースラインが楽曲に力強い躍動感を与えている。曲全体を通じて、彼の音楽的な多様性が感じられる。 - Wholy Holy
この曲は、愛と団結をテーマにしたゴスペル風のバラードで、ゲイの深い信仰心が反映されている。スローテンポで心に染みるメロディと、彼の優しいボーカルが印象的だ。歌詞には、愛によって人々が癒され、結束することの重要性が歌われている。 - Inner City Blues (Make Me Wanna Holler)
アルバムの締めくくりにふさわしい社会的メッセージが込められたファンクナンバー。貧困や警察の暴力、都市の荒廃といった現実的な問題に対するゲイの怒りと悲しみが、強烈なビートとともに表現されている。リフレインの「Make me wanna holler」は、無力感と抵抗の叫びを象徴するフレーズだ。
アルバム総評:
『What’s Going On』は、マーヴィン・ゲイのキャリアにおいてだけでなく、ソウルミュージック全体においても革命的な作品である。このアルバムは、愛や平和を求める個人的な叫びから始まり、社会全体の問題にまで視野を広げている。ゲイは、環境問題や戦争、貧困、人種差別といった普遍的なテーマを取り上げ、これまでのソウルミュージックにはない深いメッセージ性を込めた。メロディアスで洗練されたサウンドは、ジャズやゴスペル、ファンクの要素を取り入れ、アルバム全体に一貫した優雅さと力強さを与えている。特に「What’s Going On」「Mercy Mercy Me」「Inner City Blues」は、時代を超えた名曲として今なお影響を与え続けている。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚:
- Let’s Get It On by Marvin Gaye
ゲイの代表作の一つで、セクシャルなテーマに焦点を当てたアルバム。『What’s Going On』のメロディアスなサウンドと同様に、豊かな感情表現が際立つ。 - Innervisions by Stevie Wonder
社会的メッセージと内省的なテーマが織り交ぜられたスティーヴィー・ワンダーの名盤。『What’s Going On』と同じく、時代の社会問題に向き合った深い作品。 - There’s a Riot Goin’ On by Sly and the Family Stone
政治的メッセージとファンクサウンドを融合させたアルバムで、当時のアメリカ社会に対する批判と希望が込められている。マーヴィン・ゲイのアルバムと共通するテーマが多い。 - Superfly by Curtis Mayfield
ファンクとソウルを融合させた名盤で、麻薬や貧困といった社会問題をテーマにしている。ゲイの社会的メッセージに共感するリスナーにおすすめ。 - What Time Is It? by The Time
プリンスの影響を受けたファンクバンドThe Timeのアルバムで、リズムとグルーヴが際立つ。『What’s Going On』のファンキーな側面を楽しみたいリスナーにおすすめ。
コメント