
発売日: 2008年6月3日
ジャンル: オルタナティブ・ロック、パワーポップ、アートロック、ポップロック
概要
『Weezer(Red Album)』は、バンドにとって3作目のセルフタイトル作であり、通称「レッド・アルバム」と呼ばれる2008年のスタジオ・アルバムである。
本作は、ポップロックの枠組みを飛び越えた実験精神と、バンド全員によるリードボーカル参加といった新機軸を取り入れた、Weezer史上最も多様性に富んだ作品のひとつである。
前作『Make Believe』(2005年)ではポップ路線を追求していたが、本作ではRivers Cuomoが意図的にバンドの“奇妙さ”や“衝動性”を解放し、プログレ、ラップ、フォーク、メタルなどの異なるジャンルを横断している。
また、アルバムのヴィジュアルは、かつてのKissやThe Beatlesを思わせる「バンド集合写真」的な構図となっており、Weezerの“アイコン化”を逆手に取ったメタ的なユーモアも含まれている。
批評的には評価が割れる一作だが、そこにこそWeezerらしい自由さと、皮肉と本気の共存がある。
全曲レビュー
1. Troublemaker
キャッチーなリフと自己肯定的なリリックが炸裂するオープニング。
「僕はトラブルメーカー、ルールブレイカー」と宣言するCuomoの姿勢は、アルバム全体の精神性を象徴している。
2. The Greatest Man That Ever Lived (Variations on a Shaker Hymn)
10分近い構成を持つ、Weezer史上最も野心的なトラック。
ラップ、ロック、クラシカルなボーカル、多声合唱、ピアノバラードなど11の音楽スタイルを1曲に詰め込んだ異色作。
タイトルは誇大妄想のようでいて、自己パロディでもあり、バンドのユーモアと創造性が凝縮されている。
3. Pork and Beans
レーベルの商業的要請に反発して書かれた、自己主張と反骨のポップアンセム。
YouTube時代のバイラル文化を先取りしたMVも話題となり、2000年代後半の代表曲となった。
4. Heart Songs
Rivers Cuomoの音楽的影響をリスト形式で振り返るパーソナルな一曲。
Nirvana、Debbie Gibson、Springsteen、Iron Maidenなど、異なるジャンルへの敬意が詰まっている。
5. Everybody Get Dangerous
警句のようなギターリフと、少年期の危険な遊びを描いたリリック。
ノスタルジーと反抗心が交錯し、無邪気な危うさを再現するロックナンバーである。
6. Dreamin’
展開の多い6分越えのトラックで、Weezer流のプログレ的展開を試みた一曲。
甘いメロディと壮大な構成が同居し、アルバム中でも特に叙情的な世界観を持っている。
7. Thought I Knew
ギタリストBrian Bellがリードボーカルを務める、60年代風ポップロック。
バンド内の多様性を象徴する試みのひとつであり、柔らかく優しい音像が心地よい。
8. Cold Dark World
ベーシストScott Shrinerがメインボーカルを担当。
ベースラインが前面に出たダークなトーンで、シリアスな愛と暴力の境界が描かれる。
9. Automatic
ドラマーPat Wilsonが歌う、グラムロック風のトラック。
モーターリズムと歪んだギターが特徴的で、アルバム後半の流れにアクセントを加えている。
10. The Angel and The One
アルバムを締めくくるスローテンポなバラードで、宗教的・スピリチュアルなモチーフも内包した、内省的な美しさを持つ一曲。
静かな情熱と解放感が共存する、Weezerの真面目な側面が垣間見えるラストである。
総評
『Red Album』は、Weezerというバンドの創造性と分裂性が最も大胆に表出した作品である。
それは、“楽しくて深くてバカバカしい”という、彼らの本質的矛盾をそのまま肯定するような美学だ。
音楽的にはバンド全員によるボーカル分担、多ジャンルの試行、プログレ的展開など、アルバムとしての統一感よりも“個々のパートの意外性”が優先されており、それが混沌とした魅力にもなっている。
商業主義に対する皮肉や、音楽業界への自嘲、個人的な音楽史の振り返りまで、実はかなりメタ的な構造を持つ作品でもあり、パロディと本気の境界を曖昧にする手つきは見事である。
Weezerのディスコグラフィを理解するうえで、このアルバムは“何でもあり”な精神を象徴する転換点となっている。
おすすめアルバム(5枚)
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Pinkerton / Weezer
感情的で実験的な側面を持つWeezerの原点とも言える作品。『Red Album』の精神的土壌にあたる。 -
The White Album / Weezer
ビーチポップと叙情性の融合。『Red Album』の実験性とは対照的だが、同じセルフタイトル・シリーズとして比較に最適。 -
American Idiot / Green Day
ロックバンドによるコンセプト志向の実験作。ジャンルを超えた挑戦という点で共通点がある。 -
OK Go / OK Go
ポップロックにユーモアと創意工夫を加えたスタイル。Weezerのビジュアル戦略や構成力とも通じる。 -
The Soft Bulletin / The Flaming Lips
アートロック的アプローチと奇妙な温かみを持つ名盤。『The Greatest Man That Ever Lived』のような曲が好きなリスナーには特におすすめ。
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