発売日: 2008年5月16日
ジャンル: ダンスロック / インディーポップ
The Ting Tingsのデビューアルバム「We Started Nothing」は、2000年代後半のインディーポップ・ダンスロックブームの象徴的な作品だ。マンチェスターを拠点とするデュオ、ケイティ・ホワイト（ボーカル/ギター）とジュールス・デ・マーティーノ（ドラム/シンセ/プロデュース）の二人が織りなす音楽は、エネルギッシュでキャッチーかつ個性的。アルバムの随所に散りばめられたポップフックと、勢いに満ちた歌詞は当時のリスナーを熱狂させ、彼らを一躍スターダムに押し上げた。
このアルバムは、DIY精神を前面に押し出しつつ、クラブアンセムに相応しいビート感を融合したスタイルが特徴だ。先行シングル「That’s Not My Name」や「Shut Up and Let Me Go」が世界的なヒットを記録し、ファッションブランドの広告やテレビCMで頻繁に使用されたことで、そのポップカルチャーへの浸透度が伺える。サウンド面ではミニマルなギターリフや鋭いドラムビートを軸に、シンセサウンドやシャウトのようなボーカルアプローチが楽曲に独自の個性を与えている。
各トラック解説
1. Great DJ
アルバムの幕開けを飾る、軽快でダンサブルなトラック。シンプルなギターループとシンセビートが組み合わさり、耳に残る一曲だ。ケイティの無邪気なボーカルが、音楽そのものの楽しさを表現している。歌詞では、「ミュージックの魔法」とも言うべきDJの役割に焦点を当て、リズムと旋律の重要性を高らかに歌い上げている。
2. That’s Not My Name
このアルバム最大のヒット曲。リズム感のあるシャウト風ボーカルと、繰り返しの効いた歌詞が中毒性を生む。「名前を覚えられない」というテーマは、アーティストとしての存在感や個人のアイデンティティを巡る挑発的なメッセージ。シンプルなビートと抑制されたギターリフが、圧倒的なエネルギーを引き立てている。
3. Fruit Machine
カジノをテーマにしたアップテンポのポップソング。スリリングな展開とリズミカルなドラムが特徴。賭け事のように予測不能な恋愛や人生の運命を暗喩した歌詞が印象的だ。
4. Traffic Light
アルバムの中では異色のバラード。日常的な交通信号をテーマに、待つことやタイミングの重要性をメタファーとして表現している。ミニマルな編曲が楽曲の詩的な側面を際立たせる。
5. Shut Up and Let Me Go
ファンキーなギターリフと鋭いドラムが際立つ一曲で、AppleのiPod CMにも使用され、一気に知名度を上げた。この曲は、不満や決別をテーマにしており、独立心の強さが歌詞に反映されている。ケイティの挑発的なボーカルとシンプルな構成が印象深い。
6. Keep Your Head
ポジティブなメッセージが込められた楽曲。ラップ調のボーカルスタイルと、バックビートの効いたシンセが特徴で、アルバム全体の中でも一際楽しい雰囲気を持つ。
7. Be the One
ややメロウなポップソングで、アルバムの中ではロマンティックな側面を表現している一曲。シンプルなリズムと優しいメロディがリスナーに癒しを与える。
8. We Walk
ミッドテンポで始まり、徐々に盛り上がる構成が特徴的。歌詞には、孤独や歩き続けることの重要性が描かれており、アルバム全体のテーマに共鳴している。
9. Impacilla Carpisung
意味不明な歌詞が印象的な遊び心のあるトラック。実験的なサウンドとボーカルエフェクトが、ユーモラスでありながらもカッコ良さを醸し出している。
10. We Started Nothing
タイトル曲であり、アルバムのフィナーレを飾る力強いナンバー。自己主張と自己確立をテーマに、サウンド面でも感情が高まる演奏が光る。バンドの信念を象徴する一曲だ。
アルバム総評
「We Started Nothing」は、2000年代のインディーダンスロックを代表する名作であり、The Ting Tingsの独創的な世界観を存分に楽しめる。ケイティとジュールスが生み出すミニマルなサウンドとキャッチーなフックは、まさにポップ音楽の新たな可能性を示した。エネルギッシュな楽曲群は今でも新鮮であり、クラブでも家庭でも聴ける汎用性を持っている。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Made of Bricks by Kate Nash
同時期のポップシーンで活躍したKate Nashのデビュー作。風刺的な歌詞とキャッチーなメロディが共通点。
An End Has a Start by Editors
ダンスロックのリズム感を持ちながらも、深みのあるサウンドが魅力。
Oracular Spectacular by MGMT
シンセポップやダンスミュージック好きにおすすめ。The Ting Tingsのファンキーな要素と親和性が高い。
It’s Blitz! by Yeah Yeah Yeahs
エレクトロとロックを融合させた作品で、特にダンスフロア向けのトラックがTiger Tingsファンに響く。
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