1. 歌詞の概要
「Walkaway」は、イギリス・リヴァプール出身のバンド、Castが1995年に発表した楽曲であり、彼らのデビュー・アルバム『All Change』にも収録されている代表曲のひとつである。この楽曲は、別れや喪失、そして前向きな再出発という普遍的なテーマを繊細かつ温かいメロディとともに描き出している。タイトルの“Walkaway”は「立ち去る」「離れていく」といった意味を持ち、曲全体を通して愛する人との別れや、人生におけるターニングポイントでの心情の揺れを表現している。
この曲が描き出すのは、悲しみや諦めだけではない。むしろ、「別れ」の先にある希望や、新たな一歩を踏み出す勇気にフォーカスしており、聴く者に柔らかな余韻と前向きな感情を残す。90年代ブリットポップ全盛期の空気感と共に、どこか懐かしくもあり、切実な思いが心に響く一曲である。
2. 歌詞のバックグラウンド
Castは、元La’sのジョン・パワー(John Power)を中心に結成されたバンドで、1990年代のブリットポップ・ムーブメントのなかでも、特にリヴァプールらしいメロディセンスとストレートなロックサウンドを持ち味としていた。「Walkaway」は、ジョン・パワーが自らの人生経験、そしてThe La’s脱退後に抱いた喪失感や新たな希望をもとに書き上げられたと言われている。
この曲が発表された当時、イギリスではOasisやBlur、Pulpなどのバンドが脚光を浴びていたが、Castはより素朴で普遍的なメッセージ性と、温かみのあるサウンドで独自の地位を築いた。「Walkaway」の歌詞やメロディには、ジョン・パワーの誠実さや、日常に寄り添うまなざしが色濃く表れているのだ。バンドの結成から間もない時期に書かれたこの楽曲は、本人たちのこれからの活動への期待や不安も投影されているのかもしれない。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下は、「Walkaway」の印象的な歌詞の一部とその和訳である。
引用元: Genius – Cast “Walkaway” Lyrics
If you’ve heard all I’ve got to say
もし僕の言いたいことをすべて聞いてくれたならThen you know why I’ve got to walk away
きっと、なぜ僕がここを去らなくてはいけないのか、君にもわかるはずさSometimes things just turn out wrong
時には物事がうまくいかなくなることもあるAnd sometimes people just get on
そして人は、ただ進んでいくしかないこともあるSo just remember, just remember,
だから忘れないで、どうか覚えていてほしいLife is longer than you think
人生は、君が思っているよりもずっと長いんだAnd time is always on your side
そして、時間はいつだって君の味方さIf you want to, if you want to walk away
もし君がそうしたいなら、歩き出してもいいんだ
4. 歌詞の考察
「Walkaway」の歌詞は、一見シンプルながらも、さまざまな別れや人生の転機に直面したときの微妙な心の動きを描き出している。
“Then you know why I’ve got to walk away”というフレーズには、相手への説明や言い訳を超えた、静かな決意と納得がにじむ。これは恋愛の終わりだけでなく、仕事や友情、人生のさまざまな場面にも重ね合わせることができる普遍性を持っている。
また、「人生は思っているよりも長い」「時間は味方だ」といったメッセージは、別れの苦しみだけでなく、その先に続く未来へのささやかな希望を感じさせる。“Walkaway”は単なる諦めや逃避の歌ではなく、失われたものへの哀悼を抱きながらも、前向きに歩き出そうとする姿勢をそっと肯定しているようにも思えるのだ。
90年代のブリットポップは、華やかなサウンドや大きな成功物語がしばしば語られるが、「Walkaway」のようなパーソナルで等身大の物語が、多くのリスナーの心に響いたのは、時代の空気や若者たちのリアルな感情がそこに息づいていたからだろう。ジョン・パワー自身の過去や、彼がリヴァプールという街で見てきた「別れ」や「再出発」の物語が、この曲の根底に静かに流れているのかもしれない。
※ 歌詞引用元:Genius – Cast “Walkaway” Lyrics
5. この曲が好きな人におすすめの曲
「Walkaway」が響いた人には、同じく90年代のブリットポップや、人生の節目を優しく描いた楽曲もおすすめしたい。
- Don’t Look Back in Anger by Oasis
別れや許し、未来への希望を歌い上げたOasisの代表曲。ブリットポップを象徴する名曲であり、共感を呼ぶメッセージが特徴である。 - The Day We Caught the Train by Ocean Colour Scene
Castと同じく、ソウルフルで暖かみのあるUKロック。日常のささやかな奇跡をテーマにしたポジティブな一曲。 - Alright by Supergrass
若さや自由、未来への期待を歌うブリットポップ・アンセム。悩みや別れを抱えつつも、楽観的なエネルギーに満ちている。 - This is a Low by Blur
内省的な雰囲気と、人生の浮き沈みを包み込むようなサウンドが印象的な楽曲。静かながらも奥深い情感を持つ。 - Live Forever by Oasis
「いつか終わるからこそ、今を生きる」というメッセージが胸に迫る曲。希望や人生の美しさに光を当てる。
6. 90年代ブリットポップの中の「Walkaway」〜時代と文化の背景
「Walkaway」は、1995年というブリットポップのピークを迎えた時代に生まれた。その時期のイギリスは、サッチャー政権からの転換期であり、若者たちが新しい自分たちのアイデンティティを模索していた。音楽シーンではOasisやBlurがメディアを賑わせていた一方で、Castのようなリヴァプール出身のバンドは、より人間的な温かさやコミュニティの感覚を音楽に込めていた。
ジョン・パワーの歌声やギターの響きは、決して派手ではないが、日常の一コマや小さな感情の揺れを誠実に伝えている。派手なバンド・バトルとは一線を画し、聴き手一人ひとりの「ささやかな別れ」と「新たな歩み」に寄り添う音楽として、「Walkaway」は今もなお多くのリスナーの心に生き続けているのだ。
また、アルバム『All Change』自体がイギリス国内外で高く評価され、キャリアの初期にして大きな成功を収めたことも特筆すべきである。「Walkaway」はシングルとしてもヒットし、UKチャートでトップ20入りを果たした。今振り返れば、この曲の素朴で真っ直ぐなメッセージが、時代や世代を超えて愛される理由であるのだろう。
「別れ」と「新たな始まり」を静かに、けれど確かに描き出した「Walkaway」。それは、人生のどんな場面でも、ふと思い出してしまう一曲かもしれない。
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