1. 歌詞の概要
「Vexatious（ヴェクセイシャス）」は、Candleboxが2016年にリリースした5作目のスタジオ・アルバム『Disappearing in Airports』に収録された楽曲であり、バンドの成熟と現代社会に対する鋭い批評精神が色濃く表れたナンバーである。タイトルの「Vexatious」とは、「いらだたせる」「悩ましい」「意地悪な」といった意味を持つ形容詞であり、この曲では**執拗に人を困らせ、コントロールしようとする存在＝“あなた”**に対する怒りと決別が描かれている。
歌詞は非常に直接的で、語り手は「あなた（You）」を一方的に非難する。しかしそのトーンはただの怒りや攻撃ではなく、むしろ長年蓄積された痛みと失望の結果としての冷めた怒り、あるいは真に解放されるための最終通告として響いている。
2. 歌詞のバックグラウンド
『Disappearing in Airports』は、Candleboxにとって新章の幕開けとも言える作品だった。オリジナルメンバーのほとんどが脱退し、ケヴィン・マーティンを中心とした新体制で制作されたこのアルバムでは、ポスト・グランジ以降の時代感覚に敏感なリリックと現代的なオルタナティブ・サウンドが導入されており、「Vexatious」はその象徴的なトラックとなっている。
この曲は、マーティン自身が**SNSやメディア上での炎上、執拗な批判、ネガティブなエネルギーをばらまく“有害な人物像”**を意識して書いたとされており、個人的な人間関係だけでなく、21世紀的なコミュニケーション疲労や情報中毒の風刺としても読むことができる。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Vexatious」の印象的なラインを抜粋し、英語と日本語訳を併記する（出典：Genius Lyrics）：
You vexatious little thing
Always looking for something to blame
「お前は厄介でくだらないやつだ
いつだって誰かのせいにするものを探してる」
You love to watch them burn
You just like playing the game
「人が燃えるのを見るのが好きなんだろ
全部“ゲーム”のつもりなんだよな」
You can’t have my soul
You can’t have my name
「お前には俺の魂も渡さない
名前すらもくれてやるものか」
このフレーズは、自己を消費させるような関係や言葉に対する、断固とした拒絶を示しており、曲全体が持つ決別のトーンを強く印象づけている。
4. 歌詞の考察
「Vexatious」は、90年代的な感情の“内向性”とは異なり、外部からの攻撃や干渉に対する防御、そして断絶を描いている。語り手が拒絶しているのは単なる“敵”ではなく、自分の精神や時間を侵食してくるあらゆる存在や現象であり、それは恋人や友人の顔をしているかもしれないし、SNSのタイムラインや職場の人間関係であるかもしれない。
“Vexatious”という単語そのものが法律用語としても「無意味な訴訟を繰り返す嫌がらせのような行為」を指すことからも、ここで語られる“あなた”は、自己正当化と他者攻撃を繰り返す病的な存在であると読み取れる。そして語り手は、長年耐えてきたその関係をついに断ち切ろうとしている。
音楽的にもこの曲は、ヘヴィなギターとタイトなリズム、そして鋭く突き刺さるボーカルのエッジが絶妙に絡み合っており、感情の抑制と爆発のバランスが見事である。特にサビでの「You vexatious little thing…」の繰り返しには、怒りと嘲笑、そして決意が同時に込められており、聴くたびにその感情の密度に圧倒される。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Given Up by Linkin Park
精神的限界に達した瞬間の絶叫と、それを拒絶する意思を描く衝撃作。 - The Negative One by Slipknot
他者への憎悪と自己防衛がむき出しになったアグレッシブなヘヴィロック。 - Do I Wanna Know? by Arctic Monkeys
疑念と自己否定の渦中で、冷たくも切実な感情を語るミッドテンポ・ロック。 - Say Goodbye by Skillet
距離を置かざるを得ない関係と、自立の決意を綴ったオルタナティブ・ロック。 - Bulls on Parade by Rage Against the Machine
支配構造に対する怒りと拒絶を、鋭利なリフとラップで炸裂させた社会派アンセム。
6. “魂を渡さないという最後の防衛線”
「Vexatious」は、Candleboxが成熟したバンドとして、そしてケヴィン・マーティンが声をあげる人間として、社会的な毒と真っ向から対峙する姿勢を明確に打ち出した一曲である。誰かの顔をした“毒”から自分を守ること。それは時に優しさを拒み、怒りを選ぶことでもある。
この曲は、誰かに侵食されていると感じたとき、あるいは**「もうこれ以上は耐えられない」と声をあげたくなったときに、聴く者の背中を押してくれる**。怒りは破壊だけではない。怒りは、守るための最後の盾でもあるのだ。「Vexatious」は、そんな現代人のための“自己防衛の讃歌”であり、Candleboxが今もなおリアルなバンドであることを証明している。
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