発売日: 1978年8月
ジャンル: ソウル、ゴスペル、R&B
概要
『Truth N’ Time』は、アル・グリーンが1978年に発表した10作目のスタジオアルバムであり、
彼が本格的に宗教的道を歩み始める直前にあたる、
世俗ソウルとゴスペルの狭間に立つ最終章のような作品である。
プロデュースは再びグリーン自身が務め、
Hiスタジオを中心としたシンプルな編成のもと、
より内省的でパーソナルな音作りがなされている。
本作では、カバー曲とオリジナル曲を織り交ぜながら、
恋愛、人生、信仰――グリーン自身の心のありようを静かに、
時に揺れながらも力強く描き出している。
『Truth N’ Time』は、
アル・グリーンがエンターテイナーとしての役割を終え、
自己表現者としての姿勢をより明確にした作品なのである。
全曲レビュー
1. Blow Me Down
軽快でポップなソウルチューン。
恋の駆け引きをテーマに、グリーンらしいユーモアと甘さをにじませる。
2. Lo and Behold
ジェームス・テイラー作のカバー。
フォーキーな原曲を、温かなソウルスタイルで再解釈している。
3. Wait Here
愛する人への無条件の献身を歌うバラード。
グリーンの柔らかいファルセットが心地よく響く。
4. To Sir with Love
ルルによる映画主題歌をカバー。
感謝と別れをテーマにしたこの曲を、
グリーンは優雅でスピリチュアルな温かみを込めて歌い上げる。
5. Truth N’ Time
アルバムタイトル曲。
人生における真実と時間の流れをテーマにした、
メロウで内省的なナンバー。
グリーンの成熟した視点が光る。
6. King of All
宗教的色彩を帯びた曲。
神への信仰と感謝を、軽快なリズムに乗せて自然体で表現している。
7. I Say a Little Prayer
バート・バカラック作のポップスタンダードをカバー。
祈りと愛をテーマにしたこの曲に、グリーンは独自のスウィートな情感を加える。
8. Happy Days
アルバムラストを飾るハッピーエンドのような曲。
未来への希望を、明るく、しかしどこか穏やかなトーンで歌う。
総評
『Truth N’ Time』は、アル・グリーンが
過去の華やかなソウルスターとしての自分に別れを告げ、
未来のゴスペルアーティストとしての自分へ静かに歩み出すための、
いわば”橋渡し”のアルバムである。
本作に派手さはない。
だがその代わりに、
等身大のアル・グリーンが、
迷いや不安も隠すことなく、
まるごと音楽として差し出している。
とりわけ「Truth N’ Time」のような曲に滲む、
時間を超えて変わらないものへの静かな問いかけは、
グリーンがこの先向かっていく精神的旅路を予感させる。
『Truth N’ Time』は、
輝かしい過去に別れを告げると同時に、
より深い自己探求へと向かう決意を静かに、しかし力強く刻んだ作品なのである。
おすすめアルバム
- Al Green / The Belle Album
ゴスペルとソウルの狭間で葛藤しながら生まれた、より内省的な前作。 - Aretha Franklin / Amazing Grace
信仰と音楽の融合を高らかに謳い上げたゴスペルソウルの金字塔。 - Curtis Mayfield / There’s No Place Like America Today
時代の痛みと希望を内省的に描き出した、知的なソウル作品。 - Bill Withers / Menagerie
個人の感情と日常を優しく描いた、成熟したソウルミュージック。 -
Donny Hathaway / Extensions of a Man
スピリチュアルなソウル表現を追求した、傑作アルバム。
歌詞の深読みと文化的背景
1978年――
アメリカは依然として経済的な不安と社会的な揺らぎの中にあり、
音楽シーンではディスコブームがピークに達していた。
そんな中で、アル・グリーンは
流行に流されることを拒み、
より内なる声に耳を傾ける道を選んだ。
「Truth N’ Time」では、
華やかな世界の表層を超え、
“時間だけが真実を示す”という、
深い哲学的メッセージが込められている。
「King of All」や「Happy Days」では、
信仰と未来への希望を優しく歌いながら、
これまでの世俗的成功から少しずつ距離を取ろうとする姿勢が感じられる。
『Truth N’ Time』は、
アル・グリーンにとって、
“スター”から”信仰者”への静かな旅立ちを記録したアルバムなのである。
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