発売日: 2012年12月7日
ジャンル: パンクロック、パワーポップ、オルタナティヴロック、ハートランドロック
概要
『¡Tré!』は、Green Dayが2012年に発表した三部作『¡Uno!』『¡Dos!』『¡Tré!』の第3弾であり、“パンクの夜明け”と“翌朝の自己回復”を描いた、最もパーソナルでメロディアスな一枚である。
前2作で“衝動”と“酩酊”を描き切ったGreen Dayは、本作でようやく一息つき、
バンドとしての自意識、成熟、内省を浮かび上がらせるモードへと移行する。
これは単なるロックンロールの続編ではなく、Green Day自身の“次の章”を思索するような作品なのだ。
サウンド面では、ポップパンクやガレージ色を継承しつつ、
ピアノバラード、ミッドテンポのロック、80年代風のパワーポップなども織り交ぜ、
アルバムとしての起伏と情感の広がりが三部作中もっとも豊かである。
タイトルはドラマー、トレ・クールにちなみ、ジャケットにも彼がフィーチャーされている。
だが、音楽的には最も感情的で、語り口の深いこの作品は、**バンドとしてのGreen Dayの“心の声”**が詰まっているとも言える。
全曲レビュー
1. Brutal Love
ソウル風のコード進行とホーンを取り入れた、意外性のあるスロウナンバー。
“暴力的な愛”と名づけられたこの曲には、甘さと痛みが同居した、成熟した愛の形が映る。
『¡Tré!』の世界観をしっとりと提示するオープニング。
2. Missing You
パンキッシュで軽快なテンポのラブソング。
失った相手への寂しさをストレートに吐き出す、三部作全体でもっとも親しみやすいポップチューン。
3. 8th Avenue Serenade
ニューヨークを舞台にした恋の歌。
サイケデリックな響きとリズミカルな展開が特徴で、都会の夜のポップ・ロマンスを軽やかに描く。
4. Drama Queen
ピアノ主体のバラードで、“演じる少女”に対する優しさと皮肉がにじむ。
ビリー・ジョーの語りかけるような歌声が、特にエモーショナル。
5. X-Kid
アルバムのハイライトにして、Green Day屈指の“ノスタルジーと痛みの讃歌”。
自殺した旧友に向けたレクイエムであり、「俺たちはまだここにいる」という静かな決意がにじむ。
6. Sex, Drugs & Violence
シンプルなパンクサウンドに、破壊的な3語が乗る。
その裏には、「これでしか感じられない」という虚しさの裏返しがある。
7. A Little Boy Named Train
突飛なタイトルに反し、内容は逃避する心と放浪の衝動を描くパワーポップ。
ギターリフが印象的で、Foxboro Hot Tubsの延長線にもある作風。
8. Amanda
女性の名前を冠したGreen Day伝統の一曲。
“彼女は幻だったのか”という問いかけに、ロスト・ラブの余韻とビターなユーモアが漂う。
9. Walk Away
自己崩壊の寸前で、“立ち去る自由”を選ぶというメッセージ。
ギターのアルペジオが美しく、夜明けのセンチメントが満ちたバラード。
10. Dirty Rotten Bastards
6分に及ぶ組曲的な構成。
ストレートなパンク→シアトリカルな展開→ジャジーなブリッジと目まぐるしく変化し、
Green Day流の“Bohemian Rhapsody”のような実験精神を見せる。
11. 99 Revolutions
「99%の反乱」を意味する、政治色の強いナンバー。
ウォール街占拠運動への共鳴を背景に、久々に社会派としてのGreen Dayが前面に出た。
12. The Forgotten
ピアノとストリングスによるエレガントなエンディング。
“忘れられた者たち”に向けての歌であり、三部作を締めくくるにふさわしい静かな余韻。
映画『トワイライト・サーガ/ブレイキング・ドーン Part 2』でも使用された。
総評
『¡Tré!』は、Green Dayがパンクの装いをしたまま、“感情を整理し、未来を考えようとした”アルバムである。
衝動の『¡Uno!』、酩酊の『¡Dos!』を経て、ここにきてようやく**“夜明けのパンク”としてのGreen Dayが姿を現す**。
そこにはもはや怒鳴り声も、極端なふざけた態度もない。
ただ、成熟したメロディと、心のままに鳴らした音だけがある。
三部作という大胆な構想の中で、『¡Tré!』は最も静かで、最も誠実なGreen Dayであり、
本作をもって、彼らは一つの時代に別れを告げたと言ってよい。
おすすめアルバム(5枚)
- The Replacements / Tim
パンクの形式で語るノスタルジーと失われたもの。『X-Kid』に通じる精神性。 - Elvis Costello / Armed Forces
政治と恋、怒りと洗練が交錯するポップパンク。『99 Revolutions』の文脈に近い。 - Against Me! / White Crosses
自己表現と葛藤を抱えたまま、メロディに賭けたパンク作品。 - My Chemical Romance / The Black Parade
構成美と感情性が交差する“終わりのパンクオペラ”。三部作との共鳴がある。 -
The Gaslight Anthem / The ’59 Sound
ブルースを感じさせるパンクと、過去への愛着。『Amanda』や『Walk Away』の系譜。
制作の裏側
『¡Tré!』は、三部作の中で最後にレコーディングされたにも関わらず、もっとも構成的・抒情的に練られたアルバムである。
パンク、ピアノ、ガレージ、ソウル、バラード──それぞれの楽曲がGreen Dayの多面的な音楽的アイデンティティを再確認する作業でもあった。
アルバムのタイトルはトレ・クールに因んでいるが、
その名に込められたのは、“おどけたドラマー”の裏にある**Green Dayの真の“終章の語り手”**としての意味だったのかもしれない。
『¡Tré!』は、パンクの幕が引けたあとの静寂の中で、まだ鳴り続ける一つのメロディである。
それは派手ではないが、深く残る。
Green Dayが大人になってもなお、歌う理由を失っていないことの証明なのだ。
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