
発売日: 2022年11月28日
ジャンル: ポップ、R&B、アダルト・コンテンポラリー
概要
『Time』は、イギリスのボーイバンドFiveが21年ぶりに発表した5作目のスタジオ・アルバムであり、彼らの“過去と現在”を繋ぐ時間旅行のような一作である。
2001年の『Kingsize』を最後に解散し、断続的な再結成を経たFiveは、オリジナルメンバーの一部を欠いた新体制で本作に臨んだ。
かつて“やんちゃなボーイバンド”として一世を風靡した彼らが、2020年代においてどのような音楽を響かせるのか――『Time』はその問いに静かに、そして力強く応えた作品である。
サウンド面では、EDM的なトレンドや過剰なモダナイズを避け、むしろミドルテンポのポップやR&Bに回帰。
アコースティックな質感やメロディアスなコーラスが中心となっており、往年のファンに向けた“現在のFive”を誠実に届ける内容になっている。
テーマは「時の流れ」「再出発」「感謝」など、彼らの歩みとシンクロする人生観が根底にあり、ボーイバンドとしての原点と、大人のアーティストとしての成熟が繊細に共存している。
全曲レビュー
Time
アルバムのタイトル曲であり、時間をテーマにしたセンチメンタルなポップ・バラード。
流れるようなピアノのアルペジオに、穏やかなヴォーカルが重なり、彼らの内省的な姿勢が静かににじむ。
Feel the Love
ファンへの感謝をストレートに綴ったナンバー。
シンセの柔らかな質感とコーラスの重なりが、温かみのある音像を作り出している。
Fiveの持ち味である“人懐っこさ”が大人の余裕とともに戻ってきた感がある。
Skyline
ややアップテンポなエレクトロ・ポップで、アルバム中でもポジティブな空気感を担う一曲。
新しい未来へ向かう決意が、明るいメロディと歌詞に込められている。
“空の向こうへ行こう”という比喩が、再始動を象徴する。
Reset the Groove
懐かしさとモダンさが絶妙に交差するファンク・ポップ・ナンバー。
ベースラインがリードするグルーヴ感と、遊び心あるラップ・パートが、かつてのFiveを思い出させる。
Closer
シンプルなギターのリフと落ち着いたリズムで進行する、大人のラヴ・ソング。
“若さ”ではなく“信頼”を描いた歌詞が印象的で、成熟した恋愛観が垣間見える。
A Little Love
ミニマルな構成で、歌の力そのものを際立たせたナンバー。
愛や優しさをテーマにしながら、リリカルで控えめなプロダクションが、年齢を重ねたFiveの表現として自然に響く。
No Regrets
過去を振り返りながらも、それを糧に進むというメッセージを込めた楽曲。
サビの「No regrets, just lessons learned(後悔はない、学びがあっただけ)」というフレーズがアルバムの核をなしている。
Still Love You
切なくも希望を残す別れの歌。
ヴォーカルの表現力が光る楽曲で、静かなアレンジの中に深い感情が込められている。
総評
『Time』は、かつて時代の寵児だったFiveが、人生の次章を語るようにして届ける、静かな決意表明である。
音楽的には派手なトレンド追随を避け、むしろ歌心とアンサンブル、そして温かみのあるリリックに重きを置いた作品となっている。
特筆すべきは、“大人になったFive”が、“昔のFive”を否定することなく、素直にその延長線として音楽を紡いでいる点である。
歌詞には、喪失や後悔、再出発への希望が色濃く表現され、特に「Time」「No Regrets」「Still Love You」などの楽曲は、彼ら自身の過去と現在、そしてファンとの関係性を繋ぐ橋のような存在となっている。
これは、ボーイバンドの“再出発アルバム”にありがちなノスタルジー依存ではない。
むしろ、“あの頃”の魅力と“今”の成熟を見事に調和させ、音楽そのものの力で感動を生み出している点において、非常に誠実な作品なのである。
彼らの歩んできた“時間”が、音として結晶したアルバム『Time』は、懐かしさとともに、心を穏やかにしてくれる優しい一枚である。
おすすめアルバム(5枚)
- Take That『Wonderland』
再結成後に大人のポップを追求したTake Thatのアルバムで、『Time』と同様の成熟感を持つ。 - Westlife『Spectrum』
活動再開後の作品として、ボーイバンドの“大人の進化形”を示した好例。 - Blue『Heart & Soul』
現代的なプロダクションを取り入れつつ、R&B的なアプローチを継続した作品。 - Boyzone『BZ20』
20周年を機に制作されたアルバムで、過去と現在を繋ぐというテーマ性が『Time』と響き合う。 - Backstreet Boys『DNA』
過去の栄光に依存せず、音楽的に再構築を試みたボーイバンド再出発の名盤。
7. 歌詞の深読みと文化的背景
『Time』の歌詞は、五人だった頃の自分たちを振り返る視点と、ファンとの再会への想いが交差している。
たとえば「No Regrets」では、「誰もが道を間違えるけど、それでいい」と繰り返し語られるように、過去の栄光も苦悩も抱えた上での“再出発”が強調されている。
また、「Feel the Love」はファンとのつながりそのものがテーマになっており、「君がいたから今がある」というフレーズが長年の支持者へ真っ直ぐに届く。
このアルバムの歌詞には、「再起」「共有」「赦し」「誠実さ」といった、ボーイバンドが年齢を重ねたからこそ伝えられるメッセージが込められている。
つまり、『Time』は単なるカムバックではなく、「時間」と向き合った彼らなりの“人生の記録”なのである。
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