発売日: 2007年9月25日
ジャンル: インディーフォーク / フォークロック / サイケデリックフォーク
The Shepherd’s Dogは、Iron & Wineことサム・ビームがこれまでのシンプルでミニマルなフォークスタイルから、より多彩で実験的なサウンドに挑戦した3作目のフルアルバムである。本作では、アコースティックギターを中心としながらも、エレクトリックギター、ピアノ、パーカッション、ストリングス、シンセサイザーなど多彩な楽器が取り入れられ、これまで以上に豊かなアレンジが施されている。
アルバム全体を通して、戦争や信仰、文化の分裂といったテーマが詩的に描かれており、ビームのソングライティングの奥深さが光る。従来の静かで親密な雰囲気を保ちながらも、サイケデリックな要素を加えることで、Iron & Wineの音楽の新たな可能性を提示した作品だ。
トラック解説
1. Pagan Angel and a Borrowed Car
アルバムの冒頭を飾る幻想的なトラック。軽快なギターリフとドラムが楽曲を躍動感あるものにしており、歌詞には宗教的なイメージが散りばめられている。
2. White Tooth Man
緊張感のあるパーカッションとダークな雰囲気が印象的な楽曲。信仰や政治の矛盾をテーマにしており、歌詞の象徴的な表現が聴き手を引き込む。
3. Lovesong of the Buzzard
穏やかで夢のようなメロディが美しい楽曲。サイケデリックなアレンジが、歌詞の描く自然と人間の関係性を際立たせている。
4. Carousel
シンプルなアコースティックギターとビームのささやくようなボーカルが中心となる内省的な楽曲。歌詞にはノスタルジックな要素が感じられる。
5. House by the Sea
民族音楽の影響を感じさせるリズムとエキゾチックなアレンジが特徴的。幻想的な雰囲気が楽曲全体を包み込んでいる。
6. Innocent Bones
ギターとドラムが際立つ軽快なトラック。信仰や道徳をテーマにした歌詞が、ビームの独特なストーリーテリングを際立たせている。
7. Wolves (Song of the Shepherd’s Dog)
アルバムのタイトル曲であり、動物のメタファーを使って権力や不安定さを描写した楽曲。パーカッションのリズムが力強い印象を残す。
8. Resurrection Fern
アコースティックギターを中心にした静かなバラード。自然への賛美や儚さをテーマにした歌詞が、穏やかなメロディに美しく溶け込んでいる。
9. Boy with a Coin
リズミカルな手拍子が印象的な楽曲。抽象的な歌詞が聴き手の想像力をかき立て、アコースティックギターが楽曲にダイナミズムを加えている。
10. The Devil Never Sleeps
ピアノと軽快なリズムが目立つエネルギッシュな楽曲。タイトル通り、歌詞には不穏な要素が含まれているが、明るいサウンドが新鮮だ。
11. Peace Beneath the City
穏やかな始まりから徐々に盛り上がるドラマチックな楽曲。分裂と調和をテーマにした歌詞が、ビームのストーリーテリングの巧みさを示している。
12. Flightless Bird, American Mouth
アルバムを締めくくる感動的なバラードで、Iron & Wineの代表曲の一つ。儚さとロマンティシズムを感じさせる歌詞と、美しいメロディが心に残る。映画トワイライトの挿入歌にも使用され、広く知られるようになった。
アルバムの背景: 多彩なサウンドへの挑戦
The Shepherd’s Dogは、サム・ビームがこれまでのアコースティックフォークの枠を超え、より広がりのあるサウンドを追求したアルバムである。彼はプロデューサーのブライアン・デッカーと共に、多様な楽器やアレンジを取り入れ、フォークというジャンルを新たな方向に進化させた。
アルバム全体を通じて、政治的なメッセージや社会的なテーマが詩的に描かれており、彼のソングライティングはさらに成熟したものとなっている。聴き手を夢のような世界に誘うサウンドスケープと、ビーム独自のストーリーテリングが見事に融合した作品だ。
アルバム総評
The Shepherd’s Dogは、Iron & Wineが新たな音楽的境地に達した傑作であり、フォークミュージックの枠を広げた重要な作品である。豊かなアレンジと詩的な歌詞、そしてサイケデリックな要素を取り入れたことで、彼の音楽は一層奥深いものとなった。
聴き手に親密さと広がりの両方を提供するこのアルバムは、従来のファンだけでなく、新たにIron & Wineを聴き始める人にも強くおすすめできる一枚だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
In the Reins by Iron & Wine and Calexico
Iron & WineとCalexicoのコラボレーションアルバムで、多彩なアレンジが魅力。
For Emma, Forever Ago by Bon Iver
サイケデリックな要素を控えつつも、内省的で叙情的な作品として共通点が多い。
Seven Swans by Sufjan Stevens
フォークと宗教的なテーマを融合させたアルバムで、詩的な歌詞が特徴。
Illinois by Sufjan Stevens
壮大なアレンジと叙情性を兼ね備えた作品で、Iron & Wineの本作に通じるスケール感がある。
Pink Moon by Nick Drake
シンプルなフォークの美しさに焦点を当てたアルバムで、Iron & Wineのルーツに触れられる。
コメント