アルバムレビュー：The Lost Tapes by BBMak

発売日: 2021年8月13日（配信）
ジャンル: ポップロック、アコースティック・ポップ、ソフトロック、アダルト・コンテンポラリー

概要

『The Lost Tapes』は、英国の3人組ポップロックグループBBMakが2021年にリリースしたコンピレーション的スタジオ・アルバムであり、2000年代初頭に制作されながら未発表のままとなっていた音源を中心に編成された、“記憶の中の続編”とも言える作品である。

このアルバムには、グループが2003年〜2004年ごろに計画していた“幻の3rdアルバム”の素材が含まれており、彼らのキャリアにおける“空白の章”を埋める貴重なアーカイブである。

BBMakが一時活動休止に入った理由のひとつが、ちょうどこの時期のリリースと契約問題であったため、本作はファンにとって長らく待ち望まれていた“時を越えた新作”と受け取られた。

サウンド面では、前作『Into Your Head』の延長線上にありながら、よりバンド色が強く、アメリカン・ロックやアコースティック・ポップに寄った楽曲が多く、2000年代初頭のポップロックの空気をそのまま真空パックしたかのような魅力を放っている。

1. Into Me
サビの爆発力が印象的なギター・ポップナンバー。恋に落ちる瞬間の電撃的な感情を、疾走感あるビートで表現する。

2. Don’t Look Down
“恐れるな、進め”というメッセージを込めたミディアム・テンポのアンセム。アリーナ映えしそうな大らかなメロディが特徴。

3. Afterlife
失ったものとの“精神的再会”をテーマにした静かなバラード。ストリングスとピアノのアレンジが心を打つ。

4. Save Me Tonight
助けを求めるようなストレートな愛の歌。BBMakらしいハーモニーが光る、感情に訴えかけるロック・バラード。

5. Can’t Say
“本当の気持ちは言えない”という葛藤を歌う曲。少し翳りのあるコード進行が00年代のポップロックらしさを際立たせる。

6. Unpredictable
変化し続ける愛をテーマにしたポップナンバー。前作『Into Your Head』の「Love Is Unpredictable」に通じるタイトルと主題が興味深い。

7. Take Me Home
故郷や大切な人の元へ帰りたいという想いを、フォーキーなギターと共に綴る、温かみあるナンバー。

8. If You Could See Me Now
別れた相手への未練と自己成長が交差する、叙情的な1曲。サビでのボーカルの高まりが涙腺を刺激する。

9. I’ll Be Okay
心の再生を描いた応援ソング。ポップパンクにも通じる軽快なビートと希望に満ちたメッセージが心強い。

10. Love on the Outside
外見や世間体に惑わされない愛を描いたメッセージ性の強い楽曲。2000年代的な“クリーンな反骨”がにじむ。

『The Lost Tapes』は、単なる“過去の寄せ集め”ではなく、“もしBBMakが2004年に活動を続けていたら”というもうひとつの歴史を提示する、非常に意義深いアルバムである。

サウンドは、2000年代初頭の空気感をそのまま閉じ込めたように瑞々しく、メロディとコーラスの美しさは今聴いてもまったく古びていない。

また、タイトルの“Lost（失われた）”とは裏腹に、楽曲群はどれも完成度が高く、活動休止がなければアルバムとして正規リリースされていてもおかしくなかったクオリティである。

歌詞には、若さの情熱と揺れ動く不安、そして希望と後悔が混在しており、BBMakの“成長途中で刻まれたリアルな記録”として、ファンにとっても音楽的資料としても価値が高い。

過去と現在をつなぐ“時間のかけら”として、『The Lost Tapes』はBBMakのディスコグラフィにおける大切なピースとなっている。

『The Lost Tapes』は、2019年の『Powerstation』で再始動したBBMakの“過去の補完”であると同時に、“未来の伏線”でもある。

このアルバムを経て、彼らは次なるオリジナル作に向けて準備を進めているとされており、キャリアに空白を残さず、すべての時間を“今”につなげる姿勢が感じられる。

過去が蘇ると同時に、また未来へと歩き出す。そんなBBMakの時間軸を体感できる、珠玉の“失われた音楽”の記録である。