アルバムレビュー:The Lexicon of Love II by ABC

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※本記事は生成AIを活用して作成されています。

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発売日: 2016年5月27日
ジャンル: ソフィスティ・ポップ、オーケストラル・ポップ、ニュー・ウェイヴ


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概要

『The Lexicon of Love II』は、ABCが2016年に発表した通算9作目のスタジオ・アルバムであり、1982年の歴史的名盤『The Lexicon of Love』の“正式な続編”として制作された、きわめて意欲的かつ大胆な作品である。

初代『Lexicon』は、愛と欲望の心理劇をきらびやかなストリングスとポップ・アート的美学で表現した傑作だったが、本作ではその精神を約35年ぶりに現代へと持ち込み、マーティン・フライの円熟した視点から“再び愛を語る”ことに挑戦している。

プロデューサーには、初代のサウンドを手掛けたトレヴァー・ホーンに代わり、アン・ダッドリー(Art of Noise、初代にも参加)を起用。
彼女の編曲によるオーケストレーションが全編に渡って配され、ABC流のロマンティック・ポップが見事に復活している。

本作は単なる懐古的なリメイクではない。
むしろ、年齢を重ねた主人公が“かつての物語”を回想し、再び愛の意味を問い直すという、人生後半の新たな“愛の語彙集(Lexicon)”として描かれている点が特筆される。

批評家からは、驚くほどの完成度と誠実さで迎えられ、英UKチャートでもトップ10入りを果たすなど、ABCにとって久々の商業的成功ともなった。
それは、ノスタルジアを超えた「成熟のポップ」の力強い証明だったのである。


全曲レビュー

1. The Flames of Desire

劇場的なストリングスとともに幕を開けるイントロダクション的楽曲。
“欲望の炎”は、若き日の衝動とは違う、大人の恋の火種として再定義される。

2. Viva Love

シングルとしても人気を博した、ABC節全開のエレガントなラブ・アンセム。
「愛に乾杯(Viva Love)」というフレーズには、経験と再生を祝うような含意が込められている。

3. Ten Below Zero

凍えるような孤独を描く美しいバラード。
ストリングスとピアノが印象的に絡み合い、失われた愛の記憶が静かに語られる。

4. Confessions of a Fool

“愚者の告白”というテーマに、マーティン・フライの自己批判的ユーモアとロマンティックな諦念がにじむ。
初代『Lexicon』の「Poison Arrow」などにも通じるストーリーテリング。

5. Singer Not the Song

“歌ではなく歌い手”を愛してほしいという願いを込めた一曲。
パーソナルな視点とメタ的な自己言及が、アルバムの中でも異彩を放つ。

6. The Ship of the Seasick Sailor

酔った船乗りという比喩で、人生の不安定さや感情の揺れを描く。
ユーモアと哀感が共存する、ABCらしいバランス感覚が光るナンバー。

7. Kiss Me Goodbye

ストレートな別れの歌だが、その語り口にはどこか演劇的な装飾が施されている。
メロディの甘美さとリリックの哀しさが交差する美しいミディアム・ナンバー。

8. I Believe in Love

タイトルのとおり、愛への信仰を再確認するような純粋な楽曲。
フライの声が年齢を重ねた分だけ重みを増し、説得力を帯びている。

9. The Love Inside the Love

愛の“内側にある愛”とは何か——という哲学的命題を扱った、荘厳で神秘的な一曲。
サウンド面でも最もスケールが大きく、クライマックスを担う存在。

10. Brighter Than the Sun

光に例えた愛の到来を描く、明るく開放的なポップ・チューン。
80年代的ポップスの快活さを現代に蘇らせた楽曲である。

11. Viva Love (Reprise)

再び登場する“愛の賛歌”。
エンディングにふさわしい余韻をもたらし、アルバムを円環的に閉じている。


総評

『The Lexicon of Love II』は、“続編”という重荷を背負いながら、それを軽やかに飛び越えた奇跡のようなアルバムである。

ABCの音楽に共通するのは、常に「愛」という主題を知的に、そしてロマンティックに描いてきた点であり、本作も例外ではない。
ただし、そこにある愛はもはや若さの激情ではなく、“記憶と選択によって形作られた愛”である。

アン・ダッドリーによるオーケストラ・アレンジは、かつての栄光に寄り添うのではなく、現在進行形のマーティン・フライにふさわしい優雅さと深みを与えている。
そして、フライ自身の歌声もまた、かつてのシャープなトーンではなく、しなやかで包容力のある響きへと変化している。

このアルバムは、ノスタルジーに浸るためのものではない。
むしろ、過去の物語をいかに今の自分の人生に重ね直せるか——という“再解釈の芸術”である。
ABCが音楽を通じて語る「愛の語彙」は、今もなお増え続けているのだ。


おすすめアルバム(5枚)

  1. Pet Shop Boys – Elysium (2012)
     成熟した視点から人生と愛を描いた知的ポップの傑作。

  2. David BowieThe Next Day (2013)
     過去のスタイルを再解釈しながら、新たな自分を提示した再生のアルバム。

  3. Roxy MusicAvalon (1982)
     ソフィスティ・ポップの極致。初代『Lexicon』と同時代の精神を共有する作品。

  4. Bryan Ferry – Olympia (2010)
     エレガントなアダルト・ポップとして、本作と共鳴する美学を持つ。

  5. Lloyd Cole – Standards (2013)
     成熟した男性シンガーによるメロディアスなポップ・ロックの好例。


ビジュアルとアートワーク

ジャケット・デザインは、初代『The Lexicon of Love』のアートワークを踏襲しながらも、よりシンプルで洗練された構成となっている。
青を基調にした色使いやタイポグラフィのバランスも、往年のファンへの視覚的オマージュとして機能しており、「過去と現在の対話」という本作の主題をヴィジュアル面でも体現している。

また、アナログ盤としてのパッケージングにもこだわりが見られ、音楽そのものと同様に“手に取る価値”のある作品に仕上がっている。
このような点も含めて、本作はABCというブランドの“全体芸術”として完成していると言えるだろう。

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