発売日: 2016年11月4日
ジャンル: ポップ・ロック、ダンス・ポップ、オルタナティブ・ポップ
概要
『The Heavy Entertainment Show』は、Robbie Williamsが2016年にリリースした11作目のスタジオ・アルバムであり、“超重量級のエンターテイメント”という名にふさわしい、多彩で豪華、かつ皮肉と感情に満ちた一枚である。
Columbia Records移籍後の初作であり、Guy ChambersやRufus Wainwright、Stuart Price、Brandon Flowers（The Killers）ら豪華な制作陣を迎えたことで、ロビーの“ポップ・アイコン”としての引力と、“内面の叫び”を融合させた構成が実現している。
タイトルの「The Heavy Entertainment Show」は、ロビー自身のキャリアとスタンス――すなわち**“笑わせながら泣かせる”“軽妙に見えて実は重い”**という矛盾の美学を、そのまま象徴している。
ショービズの光と影、愛と不安、スターとしての自意識とパーソナルな弱さ。
この作品は、そうしたRobbie Williamsという人間の“フルスペクトル”をパッケージした、ポップと告白の集大成である。
全曲レビュー
1. The Heavy Entertainment Show
オープニングから高らかなファンファーレで始まる、自己紹介のようなエンタメ賛歌。
「俺がショーそのものだ」という堂々たる宣言と、自虐的ユーモアが交錯するテーマソング的1曲。
2. Party Like a Russian
クラシック音楽（プロコフィエフ）をサンプリングし、ロシアの権威主義を風刺した話題作。
オペラティックで劇的な構成、誇張された“ロシアン”表現に、ロビーの皮肉とショーマン魂が凝縮。
3. Mixed Signals
The KillersのBrandon Flowersが手掛けた80s風ポップ・ロック。
恋愛における“言葉と態度の食い違い”をテーマにしつつ、メロディの強度が非常に高い。
4. Love My Life
子供たちへのメッセージ・ソングにして、自身への回復宣言でもあるバラード。
「自分を愛していい」「未来を信じていい」と繰り返す言葉が、ロビー史上もっともポジティブで優しい。
5. Motherfucker
衝撃的なタイトルながら、内容は“子育てあるある”を描いたコミカル・ナンバー。
子供に向かって「君もやがて俺みたいなろくでなしになるかも」と歌う、愛と自嘲のハイブリッド。
6. Bruce Lee
武道家ブルース・リーを比喩に用いた、自己イメージの再構築ソング。
ビートとブラスが効いた、パンチのあるアップテンポ曲。
7. Sensitive
“繊細すぎる自分”をテーマにしたエレクトロ寄りのポップソング。
「笑ってるように見えるけど、傷ついてるんだよ」というロビーのメンタル・ポップ宣言。
8. David’s Song
亡き友人David Enthoven（元マネージャー）への追悼曲。
感情のこもったピアノ・バラードで、過去の過ちと感謝を静かに語りかける。
9. Pretty Woman
ジュリア・ロバーツ映画とは関係なく、女性像を戯画化したヴィンテージ風トラック。
ミュージカル調のアレンジで、洒落と風刺の効いた内容。
10. Hotel Crazy (feat. Rufus Wainwright)
Rufusとの幻想的なデュエット。
狂ったホテルを舞台にした寓話のような世界観は、内面の混乱を映すサイケデリック・バラード。
11. Sensational
アルバムを締めくくる、希望と回復のポップ・ナンバー。
「俺はセンセーショナルなんだ」と繰り返す中に、過去の自己否定からの脱却と自己肯定の再生が読み取れる。
総評
『The Heavy Entertainment Show』は、Robbie Williamsが**“王座を狙う”でも“逃げる”でもなく、“舞台に立ち続ける理由”を正直に語ったアルバム**である。
エンターテインメントに徹しながらも、常に“裏側”を見せるロビーの姿勢が、本作ではとりわけ明確だ。
だからこそ、どの楽曲もただのポップソングでは終わらない――彼の人生そのものが曲の中に流れている。
音楽的には、ポップ、クラシカル、エレクトロ、バラードなど多彩だが、すべてが“エンターテイナーRobbie Williams”という軸に回収されていく。
彼はここで、自身を“笑いと涙と狂気と優しさの混合体”として提示し、それを**“重たいエンタメ”＝人生そのもの**として祝福している。
おすすめアルバム（5枚）
- 『Wonderful Crazy Night』 / Elton John（2016）
エンタメ精神と内省が共存する中期エルトンに通じる明快さ。 - 『Battle Born』 / The Killers（2012）
Brandon Flowersつながり。壮大なポップの構築美が共通。 - 『The Desired Effect』 / Brandon Flowers（2015）
80s回帰と自己探求がテーマという意味で極めて近い。 - 『Electric Light』 / James Bay（2018）
感情とポップサウンドの融合が見事なコンテンポラリー作品。 - 『No Place in Heaven』 / Mika（2015）
風刺、誠実さ、そしてショーアップ感が近しいポップ作。
ビジュアルとアートワーク
ジャケットには、金色に輝く“スター型の旗”を背に、古典的グラディエーター風にポーズを決めるRobbieの姿が大写しにされている。
「これは俺のショーだ」と全身で表現するその姿は、虚構を演じながら真実を語る“ポップの役者”そのもの。
つまり本作は、笑って泣ける“人生のショー”を観るような音楽体験なのだ。
Robbie Williamsは、いまも観客の前に立ち続けている――
それがどれほど“重たいショー”であっても。
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