アルバムレビュー：The Car by Arctic Monkeys

発売日: 2022年10月21日
ジャンル: アートロック、バロックポップ、ソフトロック

シネマティックな進化——Arctic Monkeysが辿り着いた新境地
全曲レビュー
総評
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シネマティックな進化——Arctic Monkeysが辿り着いた新境地

デビューから20年近くを経て、Arctic Monkeysはロックバンドとしての枠を超え、映画的な音楽へとシフトした。7作目となるThe Carは、前作Tranquility Base Hotel & Casino（2018年）の流れを受け継ぎながらも、より洗練されたプロダクションとドラマティックなアレンジが際立つ作品となった。

プロデューサーはお馴染みのジェームズ・フォードが担当し、オーケストラのアレンジを大胆に導入。バロックポップ、ソフトロック、ジャズ、ファンクの要素が絡み合い、70年代の映画音楽のような雰囲気が漂う。アレックス・ターナーの歌詞もより詩的かつ抽象的になり、ノスタルジックでメランコリックなムードが全編に流れている。

全曲レビュー

1. There’d Better Be a Mirrorball

オーケストラのストリングスとピアノが織りなす、映画のエンドロールのような美しいオープニング。別れの予感とノスタルジアを漂わせる、ロマンティックなバラード。ターナーの歌詞が、彼の成熟したソングライティングを見せつける。

2. I Ain’t Quite Where I Think I Am

ファンキーなギターリフと緩やかなグルーヴが特徴の楽曲。David BowieやSteely Danの影響を感じさせるサウンドで、ターナーの滑らかなヴォーカルが楽曲のムードを一層引き立てる。

3. Sculptures of Anything Goes

シンセと不穏なコード進行が印象的なダークな楽曲。前作Tranquility Base Hotel & Casinoの未来的なムードを引き継ぎながらも、よりミニマルなアレンジで緊張感を生み出している。

4. Jet Skis on the Moat

スローテンポでリラックスしたムードが漂う、ジャジーな一曲。ローファイなプロダクションが、楽曲のメランコリックな雰囲気を際立たせる。

5. Body Paint

本作のリードシングルであり、アルバムのハイライト。ミステリアスなイントロから、ドラマティックな展開へと変化する構成が特徴。ターナーの感情的なヴォーカルと、ストリングスのアレンジが印象的な楽曲。

6. The Car

タイトル曲であり、アルバムのテーマを象徴する楽曲。広がりのあるメロディと、繊細なオーケストレーションが特徴。映画的なサウンドスケープの中で、ターナーの詩的な歌詞が映える。

7. Big Ideas

グランドピアノとストリングスが重なり合う、壮大なバラード。リリカルなメロディが際立ち、アルバムの中でも特にエモーショナルな楽曲。

8. Hello You

70年代のソウルやファンクの影響を感じさせる、軽快なグルーヴが魅力。シンセのリフが印象的で、アルバムの中で比較的ポップな雰囲気を持つ楽曲。

9. Mr Schwartz

静謐でミニマルな楽曲。ギターのアルペジオとターナーの抑制されたヴォーカルが、内省的な雰囲気を作り出している。

10. Perfect Sense

アルバムの締めくくりにふさわしい、メランコリックなバラード。シンプルなピアノとオーケストラが絡み合い、静かに幕を閉じる。

総評

The Carは、Arctic Monkeysのキャリアの中でも最も洗練された作品の一つであり、ロックバンドという枠を超えた、シネマティックな音楽表現に到達したアルバムだ。

本作では、ギターリフ主体のロックは影を潜め、オーケストラやジャズ的なコード進行が中心となることで、ソフトロックやバロックポップの要素を強調。これにより、David BowieやScott Walkerのようなアーティストを彷彿とさせる、幻想的で奥深いサウンドが生み出された。

歌詞の面でも、ターナーはこれまで以上に抽象的で詩的な表現を用い、リスナーに解釈を委ねるスタイルを確立。過去のアルバムと比べると一聴して分かりやすい楽曲は少ないが、その分、じっくりと聴き込むことで新たな発見がある作品となっている。

このアルバムは、AMのようなキャッチーなロックを求めるリスナーには意外に感じられるかもしれないが、Arctic Monkeysの音楽的な成熟と進化を象徴する重要な作品であり、長く聴き続けることでその魅力が増すアルバムである。