発売日: 1995年11月27日
ジャンル: R&B、ニュー・ジャック・スウィング、ソウル、UKストリート・ソウル
概要
『The B-Funk』は、イギリスのソウルシンガー、ビヴァリー・ナイトが1995年にリリースしたデビュー・アルバムであり、90年代UK R&Bシーンにおける記念碑的作品である。
当時わずか22歳だったナイトは、既にその圧倒的な歌唱力と音楽的自立心で注目を集めており、同作では彼女自身が多くの楽曲を作詞・作曲するなど、アーティストとしての意志が強く反映されている。
UKストリート・ソウル、ニュー・ジャック・スウィング、ヒップホップ・ソウルといった90年代R&Bの多様なスタイルを内包しつつも、どこか教会的でスピリチュアルな響きを持つサウンドが特徴的。
その一因は、ナイトが敬虔なクリスチャンとして育ち、ゴスペルをルーツに持つことにある。
リリース当初はインディペンデント・レーベルからの発売であったため大きな商業的成功は収めなかったものの、BBC Radioやブラックミュージック・シーンでは高く評価され、後のブリティッシュR&Bブームの土壌を作ることになった。
そのタイトル「The B-Funk」には、ビヴァリー・ナイト自身の頭文字「B」と、ブラック・ファンク、ブリティッシュ・ファンクへの愛が込められており、自己紹介であり同時にマニフェストでもある一作である。
全曲レビュー
1. Rejection
アルバムの幕開けを飾る、スムースでグルーヴィなミッドテンポ・ナンバー。拒絶された恋愛をテーマにしつつも、内なる力を取り戻す女性像が描かれる。
2. Flavour of the Old School
最大のヒット曲。タイトル通り、70～80年代ソウルへのリスペクトを軸に、現代的なビートで再構築されたファンキーなパーティーチューン。UK R&Bクラシックとして知られる。
3. Down for the One
ニュー・ジャック・スウィングの影響が色濃い、ダンサブルなトラック。ベリンダの滑らかなフロウと巧みなボーカル・リズムが印象的。
4. Moving On Up (On the Right Side)
失恋からの再起を高らかに歌い上げた、ゴスペル風味のある力強いソウル・ナンバー。ナイトのヴォーカルが最も感情豊かに炸裂する。
5. Mutual Feeling
心が通じ合う瞬間を捉えたスロウジャム。90年代UKストリート・ソウルの美学が詰まった隠れた名曲。
6. Cast All Your Cares
明確にゴスペルからの影響を感じる、スピリチュアルなテーマの一曲。希望と癒しに満ちたサビが心に残る。
7. U’ve Got It
明快なメッセージとダンサブルなサウンドが融合したミッドテンポのラブソング。ラジオ映えするスマートな構成。
8. Remedy
ソウルとヒップホップの中間を行く、力強いトラック。ベリンダの自己主張が強く表れる歌詞にも注目。
9. Do Right Woman, Do Right Man
アレサ・フランクリンの名曲をカバー。敬意を込めつつ、ナイト独自のスモーキーで力強い歌唱が楽曲に新たな命を吹き込む。
10. Not Too Late for Love
アルバム終盤を締めくくるバラード。シンプルなピアノとストリングスをバックに、歌声だけで語る“愛への信念”。
総評
『The B-Funk』は、ビヴァリー・ナイトというアーティストの“出発点”であると同時に、90年代UK R&Bにおけるひとつの完成形とも言える作品である。
メインストリームではない環境下で制作されたにもかかわらず、そのサウンドは国際的なR&Bと肩を並べるクオリティを持ち、彼女自身のリリックは自立した女性としての姿勢やブラック・アイデンティティへの誇りを色濃く反映している。
また、ソウルやファンク、ニュー・ジャック・スウィングといったアメリカ由来のスタイルをベースにしながらも、あくまで“UK流”に昇華されており、特にアンダーグラウンドなダンスフロアでは絶大な支持を集めた。
後に『Prodigal Sista』や『Who I Am』で本格的な成功を収めるナイトの“原点”として、本作にはすでに完成された才能と鋭い感性が宿っている。
それはまさに、“B-Funk”と名付けるにふさわしい、ビヴァリー・ナイト自身の音楽ジャンルなのだ。
おすすめアルバム（5枚）
- Eternal『Always & Forever』
UK女性R&Bグループによる初期名作。同じく90年代UK R&Bの本流を代表する作品。 - Des’ree『I Ain’t Movin’』
ソウルフルでスピリチュアルなR&B。ビヴァリーのバラードに通じる叙情性が光る。 - Lisa Stansfield『Real Love』
白人女性シンガーによるUKソウルの名盤。ボーカル力とグルーヴ感の融合が共通。 - Jocelyn Brown『The Hits』
UKダンスソウルのゴッドマザー的存在。ベリンダのルーツを感じられる。 -
Mica Paris『Contribution』
ビヴァリーと並ぶUKソウルの女王。同時期にシーンを支えた重鎮による代表作。
後続作品とのつながり
『The B-Funk』の成功は、1998年のメジャー移籍作『Prodigal Sista』へとつながり、ビヴァリー・ナイトのキャリアを本格的に加速させた。
このデビュー作で示された“自作自演”の姿勢と、ストリートとチャーチを繋ぐ音楽観は、彼女のその後の全作品を貫く核となる。
後年のファンクバンドとのコラボやミュージカル主演も含め、すべてはここから始まっていた──
『The B-Funk』は、誇り高きブラック・ブリティッシュ・ソウルの“礎石”なのである。
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