
発売日: 2000年9月19日
ジャンル: パンクロック、ホラー・パンク、ポスト・ハードコア
闇と激情が交錯するAFIの進化点
2000年にリリースされたThe Art of Drowningは、カリフォルニアのパンクバンドAFI(A Fire Inside)がメインストリームへの足掛かりを築いた重要なアルバムだ。前作Black Sails in the Sunset(1999年)で確立されたダークでドラマティックなスタイルをさらに発展させ、ホラー・パンク、ポスト・ハードコア、さらにはゴシック・ロック的な要素を加えながら、より洗練されたサウンドへと進化した。
本作は、死と内面の闇をテーマにしたリリックと、メロディックでありながらも攻撃的なサウンドが特徴的で、後のSing the Sorrow(2003年)への橋渡しとなる作品だ。スピード感のあるパンクサウンドを基盤にしながらも、デイヴィー・ハヴォックの劇的なヴォーカルとダークな詩世界が際立っている。
全曲レビュー
1. Initiation
アルバムの幕開けを告げるインストゥルメンタル。鐘の音とざわめきが不穏な雰囲気を醸し出し、ダークな世界観へとリスナーを誘う。
2. The Lost Souls
リードトラックの一つであり、ダークでエネルギッシュなギターリフが特徴的。「この世のどこにも属さない魂」をテーマにした歌詞が、バンドの美学を象徴している。
3. The Nephilim
タイトルの「ネフィリム」は、旧約聖書に登場する堕天使と人間の子供たちを指す。神秘的な雰囲気を持つギターと、ハヴォックの叫ぶようなヴォーカルが印象的な一曲。
4. Ever and a Day
比較的ポップなメロディを持つ楽曲で、疾走感のあるパンクサウンドが特徴的。ロマンスと死のテーマが交錯する歌詞が印象的だ。
5. Sacrifice Theory
スピーディーで攻撃的なパンクチューン。カオティックなギターとリズムの中に、メロディックな要素が溶け込んでいる。
6. Of Greetings and Goodbyes
メロディアスなコーラスと力強いシャウトが共存する楽曲。別れと死に関するテーマが込められている。
7. Smile
ダークでアグレッシブな一曲。ギターリフの不穏な雰囲気と、ハヴォックの情熱的なヴォーカルが際立つ。
8. Story at Three
ドラマティックな展開を持つ楽曲で、メロディとリズムの変化が印象的。自己嫌悪や絶望感を歌詞に込めた一曲。
9. The Days of the Phoenix
本作を代表する楽曲であり、メロディックなサウンドとゴシックな雰囲気を融合させた一曲。「フェニックスの時代」というタイトルは、90年代のパンクシーンの変遷を暗示しているとも解釈できる。
10. Catch a Hot One
激しいドラムと鋭いギターリフが特徴的なパンクナンバー。
11. Wester
比較的メロディアスでキャッチーな楽曲。リリックには、孤独や葛藤が込められている。
12. 6 to 8
ポスト・ハードコア的な要素が強い楽曲。静と動のバランスが絶妙で、メロディの美しさが際立つ。
13. The Despair Factor
シンセサイザーの導入が印象的な楽曲で、後のSing the Sorrowで展開される音楽性を予感させる。「あなたは私を覚えている?」というリフレインが印象的。
14. Morningstar
アルバムのラストを飾る楽曲。幻想的なギターとメロディが、儚くも美しい雰囲気を作り出している。
総評
The Art of Drowningは、AFIのキャリアの転換点となるアルバムであり、初期のストレートなパンクから、よりダークでメロディアスな音楽性へと進化する過程を示している。デイヴィー・ハヴォックのカリスマ的なヴォーカルと、洗練されたサウンドプロダクションが際立ち、特にThe Days of the Phoenixはバンドの方向性を象徴する楽曲となった。
本作は、ホラー・パンクやポスト・ハードコア、メロディック・パンクが好きなリスナーには必聴の作品であり、後のSing the SorrowやDecemberundergroundへと続くサウンドの基盤を築いたアルバムとしても評価されている。
おすすめアルバム
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AFI – Sing the Sorrow(2003)
The Art of Drowningの流れを継承しつつ、よりドラマティックでシネマティックな要素を強化した作品。 -
Misfits – Walk Among Us(1982)
ホラー・パンクの元祖とも言えるアルバムで、AFIにも強い影響を与えた。 -
Alkaline Trio – From Here to Infirmary(2001)
AFIと同じく、ダークでメロディックなパンクを展開するバンドの代表作。 -
My Chemical Romance – Three Cheers for Sweet Revenge(2004)
ゴシックとパンクを融合させたエモの名盤。AFIの影響を受けたスタイルが感じられる。 -
Blaqk Audio – CexCells(2007)
AFIのデイヴィー・ハヴォックとジェイド・ピュージェットによるエレクトロ・プロジェクト。AFIのダークな世界観をエレクトロニックなアプローチで表現した作品。
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