アルバムレビュー:That What Is Not by Public Image Ltd.

※本記事は生成AIを活用して作成されています。

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発売日: 1992年3月3日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ポストパンク、インダストリアル・ロック

概要

『That What Is Not』は、Public Image Ltd.(PIL)が1992年に発表した8作目のスタジオ・アルバムであり、“旧世代の終焉と新時代の幕開け”を告げるような作品であると同時に、20世紀末の空気を生々しく刻んだ記録でもある。
このアルバムは、ジョン・ライドンがPIL名義でリリースした90年代唯一の作品であり、実に20年近くにわたる活動休止前のラスト・スタジオ作となった。

プロデューサーには、当時Nine Inch NailsやMinistryなども手がけていたデイヴ・ジャーガー(Dave Jerden)を起用。
その影響もあり、本作はよりインダストリアルな質感を帯び、ギター・ロックの枠組みを残しつつ、機械的で攻撃的なサウンドが際立っている。

テーマは、セックス、検閲、戦争、自由、国家、個人の尊厳といった社会的・哲学的モチーフに加え、ライドン自身の“パブリック・イメージ”との闘争に及んでいる。
アルバムの冒頭と終盤にはSex Pistols時代の音声サンプルが使われており、過去との対話と決別を明確に示す構成も注目に値する。

タイトル「That What Is Not」は、意味のねじれを含んだフレーズであり、“存在しないもの”あるいは“定義不能な何か”という二重の否定を内包している。
まさにPILそのものの哲学的ポジションを体現するタイトルと言えるだろう。

全曲レビュー

1. Acid Drops

アルバムは、Sex Pistols時代のインタビュー音声をサンプリングしたイントロで幕を開ける。
続いて炸裂するのは、インダストリアルな質感の中に、ポップでもヘヴィでもない、曖昧な音像が蠢く一曲。
「俺の名前はジョン・ライドン。いまだに生きている」というボーカルの存在感が強烈。

2. Luck’s Up

中毒性のあるギターリフとタイトなリズムが、失われた運命やチャンスに対する皮肉を反復する。
「運は尽きた(Luck’s up)」というラインは、バンドとしても個人としても、“次の一歩”への危機感を象徴している。

3. God

宗教に対する疑念と怒りをダイレクトに叩きつけるトラック。
「God is dead, he’s no longer useful(神は死んだ。もはや役に立たない)」というラインに、ジョン・ライドンらしい反骨と哲学的冷笑が凝縮されている。
ギターは攻撃的、ビートは鋭角で、短いながらも強烈。

4. Covered

“覆い隠された真実”を暴こうとする、批評的なロック・ナンバー。
メディア操作、戦争の偽装、歴史の捏造などがテーマ。
「あなたは真実を見せられたことがあるか?」というライドンの問いかけが耳に残る。

5. Love Hope

唯一やや抒情的な雰囲気を持つミドルテンポの楽曲。
“愛と希望”というストレートなタイトルにも関わらず、内容はむしろその脆弱性と幻想性を突くようなもの。
ギターのメロディが美しく、アルバムに一瞬の“余白”を与える。

6. Cruel

暴力と支配の構造をテーマにした、重く荒々しいナンバー。
反復される「Cruel」という単語が、制度的残虐性と日常の無関心を同時に浮かび上がらせる。
ノイジーなギターと突き刺すようなドラムが特徴。

7. Think Tank

本作中もっとも実験的で、複雑な構成を持つ一曲。
“シンクタンク”という言葉の選択が示すように、知的エリート層の欺瞞や、政治的操作に対する批判が込められている。
サウンドも不穏かつ断片的で、情報の洪水を音で表現しているかのよう。

8. Emperor

“裸の王様”を象徴とした政治批判ソング。
ライドンのヴォーカルはここで、語りと叫びの中間にあり、冷笑と怒りが同居している。
アルバムの後半を象徴するタイトで骨太なナンバー。

9. Goodbye Goodbye

アルバムの最終曲であり、PILとしての“第一幕”のラストソングでもある。
タイトルの繰り返しが、まるで観客に別れを告げるように響く。
再びSex Pistols時代のインタビューサンプルが挿入され、ジョン・ライドンの“始まりと終わり”をひとつの円環として締めくくる構成が秀逸。

総評

『That What Is Not』は、Public Image Ltd.という存在が“バンド”であることを放棄し、“表現のメタ構造”として自己を成立させた最後の声明ともいえる。
ここにはかつてのダブやファンク、実験性といった要素はない。
だが、その代わりにライドンは「構造を整えた上で破壊する」という方法で、言葉と音の切れ味をさらに研ぎ澄ませた。

90年代という時代のはじまりに、PILはポップでもインダストリアルでもない“ねじれた批評装置”としてのロックを提示した。
そしてその提示は、静かに幕を閉じることで、“不在”を最大の存在感へと変えたのである。

『That What Is Not』は、怒りや反骨を直接表現する最後のPILであり、以降のライドンはこの“存在しないもの”を抱えながら沈黙へと向かっていく。
だからこそこのアルバムは、PILの“終わりであると同時に問いそのもの”として、今なお鋭利な輝きを放っている。

おすすめアルバム(5枚)

  • Ministry / The Mind Is a Terrible Thing to Taste
     インダストリアルと社会批判が融合した暴力的音像。サウンドの重厚さが共通。
  • Nine Inch Nails / Broken
     怒りとノイズの結晶。90年代初頭の暴力性と虚無感がリンク。
  • Rage Against the Machine / Rage Against the Machine
     音楽と政治の境界を破壊した革命的ロック。PILの批評性と通底する。
  • The The / Dusk
     90年代の精神的荒野を言葉とメロディで描いた孤高の傑作。
  • Killing Joke / Extremities, Dirt and Various Repressed Emotions
     同時代のイギリスで生まれた怒りと不安のサウンド。PILの同胞としての一枚。

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