発売日: 2022年6月21日
ジャンル: パワーポップ、グラムロック、ハードロック、オルタナティブ・ロック
概要
『SZNZ: Summer』は、Weezerが2022年に展開した四季連作プロジェクト『SZNZ(シーズンズ)』の第2作目であり、“夏”という季節の熱狂と危うさ、快楽とカオスを、エネルギッシュなロックサウンドに乗せて描いた作品である。
前作『SZNZ: Spring』がフォーキーで内省的な音楽性だったのに対し、本作ではグラムロック、ハードロック、さらにはアリーナロック的要素を取り入れたダイナミックなアプローチが展開される。
Weezerのギター愛が炸裂した『Van Weezer』に通じる音作りを継承しながらも、そこに神話的・聖書的な世界観を組み込むというユニークな構成が特徴的である。
Rivers Cuomoは今回も詩的な寓意や宗教的イメージを多用しつつ、“堕天使ルシファー”をモチーフにした物語性を導入。
純粋な“サマーソング”の明るさとは裏腹に、怒り、誘惑、暴力、敗北といった複雑な感情が作品の底流に流れている。
全曲レビュー
1. Lawn Chair
オープニングから鋭いギターリフとラウドなドラムが炸裂。
天使が地上に堕ちる瞬間を描いたような歌詞と、グラムロック風の豪奢な展開が印象的で、アルバムの世界観を力強く提示する。
2. Records
シングル曲としても話題になった、キャッチーで爽快なパワーポップ・ナンバー。
“君が残したレコードをかけるたびに思い出す”という切ない夏の記憶が、軽快なギターに乗せて語られる。
3. Blue Like Jazz
タイトル通り、即興性とブルース感を持った構成のロックナンバー。
「ジャズのように青い心」という詩的なフレーズが、夏の気怠さと精神の揺れを象徴している。
4. The Opposite of Me
自己との対話をテーマにした内省的な一曲。
派手な演奏の中に、Rivers Cuomoの孤独感や自己矛盾がにじむ。
サビでの美しいコーラスが、陰と陽のバランスを印象づける。
5. What’s the Good of Being Good
本作中でも最も攻撃的なトラック。
正しく生きる意味を疑問視するリリックと、ラウドなリフが噛み合い、“堕天使の怒り”を音にしたような迫力を放つ。
6. Cuomoville
架空の理想郷“クオモヴィル”を描いた、シニカルかつ幻想的な楽曲。
天国と地獄、ユートピアとディストピアをめぐる寓話的な視点が、夏の眩しさの裏にある不穏を浮かび上がらせる。
7. Thank You and Good Night
穏やかで感謝に満ちたアルバムの締めくくり。
夏の終わり、宴の終焉を思わせるようなスローテンポの一曲で、全編にわたる熱と混乱をやさしく包み込む。
総評
『SZNZ: Summer』は、Weezerというバンドがいかに“季節”を音楽で描けるかを追求したシリーズの中でも、最もパワフルでドラマティックな一作である。
音楽性としては、70〜80年代のハードロックやグラムロックを現代的にリコンストラクションしつつ、ポップでキャッチーな側面を忘れない構成となっており、初期ファンから近年のファンまで幅広く楽しめる内容となっている。
また、歌詞には一貫して“天使と堕落”という宗教的寓意が描かれており、それがサウンドの激しさと融合することで、単なるサマーロックに留まらない、思想的・物語的奥行きを生み出している。
それゆえに、このアルバムは“ただ陽気な夏”ではなく、“複雑で曖昧な夏”を描いた作品とも言える。
軽やかに、だがどこか苦しげに燃え上がるこの音楽は、まさに“夏という一瞬の光”そのものである。
おすすめアルバム(5枚)
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Van Weezer / Weezer
本作のギター主導なアプローチの直接的前身。Weezer流ハードロックの祝祭。 -
The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars / David Bowie
グラムロックと神話的物語構造の先駆。『SZNZ: Summer』の構成的ルーツといえる。 -
Mellon Collie and the Infinite Sadness / The Smashing Pumpkins
感情の爆発と内省の交錯。夏の混沌と美しさを多層的に描いた音楽として通じる。 -
Songs for the Deaf / Queens of the Stone Age
砂漠の灼熱感と攻撃的なサウンド。『Summer』のラウドさとリンクする。 -
Welcome to the Black Parade / My Chemical Romance
アルバム全体を通じたドラマ性と物語の濃さ。天使と破滅というテーマ性が響き合う。
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