1. 歌詞の概要
「SWLABR(スワラバー)」は、1967年のCreamによるセカンド・アルバム『Disraeli Gears(ディスレイリ・ギアーズ)』に収録された楽曲であり、奇妙なタイトルとサイケデリックな歌詞、そして荒々しくもユーモラスなギターリフが印象的なナンバーである。
タイトル「SWLABR」は、「She Walks Like A Bearded Rainbow(彼女はひげの生えた虹のように歩く)」という文の頭文字を略したものであり、その言葉通り、徹底して非現実的かつ象徴的なイメージに満ちている。歌詞の内容は、恋愛の崩壊、もしくは裏切られた愛への皮肉に満ちており、終始“冷笑的”な口調で語られている。
当初、甘美だったはずの関係が、突然醒めた視点で語られるさまは、まるで幻覚が覚めたあとの現実への回帰のようでもある。恋人に対する憧れが、失望と怒り、そして諧謔的な軽蔑へと転じていくその語り口は、サイケデリック時代ならではの情動の振れ幅の大きさを感じさせる。
2. 歌詞のバックグラウンド
「SWLABR」は、Creamのベーシスト兼ボーカリストであるジャック・ブルース(Jack Bruce)と、詩人であり作詞家のピート・ブラウン(Pete Brown)によるコンビで書かれた。二人のコラボレーションは、感情と詩の両面での濃密な表現を可能にし、本作でもその才能が存分に発揮されている。
この曲は、ロックバンドのラブソングとは一線を画す“解体された恋愛”のイメージを扱っており、しかもそれを徹底してユーモアと奇妙さで包み込んでいる点が特徴である。
また、エリック・クラプトンによる攻撃的なギターと、ジンジャー・ベイカーの奔放なドラミングが、まるで主人公の感情の激しさや苛立ちを物語るかのように機能しており、短いながらも濃密な世界観が構築されている。
この曲はシングルのB面としてもリリースされており、A面の「Strange Brew」の流麗なメロディとは対照的に、もっと生々しく、カオティックなエネルギーを放っている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
You’ve got that rainbow feel
But the rainbow has a beard
君には虹のような感覚があった
だけどその虹には、ひげが生えてた
You are the sun, I am the moon
You are the words, I am the tune
君は太陽、僕は月
君は言葉で、僕はその旋律だった
You swore that you loved me
Maybe you did
But you never lied, and I never cried
君は僕を愛してるって誓った
たぶん、本当にそうだったのかもしれない
でも君は嘘をつかなかったし、僕も涙を流さなかった
引用元:Genius Lyrics – Cream “SWLABR”
このように、詩の中には“意味”よりも“印象”を優先した言葉の選び方が散見され、抽象的な比喩や色彩的な描写が歌詞全体に散りばめられている。それが、まさにサイケデリック時代ならではの文体と言える。
4. 歌詞の考察
「SWLABR」の歌詞は、一見すると意味不明なイメージで構成されているように見えるが、その核心には“幻滅”という明確な感情がある。虹のように美しかった恋人の姿が、実はひげを生やした不気味な幻影だった――この言い換えは、理想化された恋が一転して不快な現実に変わる瞬間を象徴している。
また、「君は太陽、私は月」といったラインは、理想的な補完関係を示すようでいて、最終的にはそのバランスが崩れていることが暗示される。
“君は言葉で、私は旋律だった”というラインもまた、完璧に調和していたように思えた関係が、もはや別々の存在であるという自覚につながっていく。
“Rainbow has a beard”という決定的に奇妙な比喩は、理想の美や希望の象徴である虹が、現実には“滑稽”で“違和感のある”存在だったという皮肉である。この詩句の不気味さこそが、恋愛に対する裏切りの感覚、すなわち“幻が崩れ落ちる瞬間”を最も鮮烈に表現している。
この曲は、表面的にはユーモラスだが、内面には鋭い毒と痛みが秘められている。愛への不信、理想像への幻滅、感情の終焉といったテーマが、サイケデリックな詩的イメージを通して伝えられてくる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Arnold Layne by Pink Floyd
奇妙な主人公と不条理な物語を描いた、初期サイケロックの象徴。 - I’m Only Sleeping by The Beatles
現実逃避と意識の曖昧さを柔らかく表現した幻想的な楽曲。 - Pictures of Matchstick Men by Status Quo
幻覚的なギターと反復的リリックが特徴のサイケ・ロック名曲。 - The End by The Doors
恋愛と死、幻覚と精神崩壊の境界を描いた12分間の叙事詩。
6. “皮肉と幻想が交差する愛の終焉”
「SWLABR」は、恋愛の終わりをサイケデリックな絵の具で塗りたくったような作品である。
そこにあるのは怒りではなく、“冷めた諦め”と“知的な嘲笑”。理想の恋人がただの幻であったことを受け入れたうえで、その幻に“ひげ”を描いて見せるような、どこか演劇的な美しさが漂っている。
この曲は、愛に破れた人間の内面が、いかにユーモアと詩で包まれるかを見事に表現している。
そして、その奇妙な響きこそが、“愛は終わった。でも、笑って終わらせてやるさ”という一種の勝利宣言のようにも感じられるのだ。
「SWLABR」は、幻滅と自由、愛と皮肉が渦巻くサイケデリック時代の恋愛詩。
そこに描かれているのは、“美しいはずだったもの”が崩れたあとに訪れる、“新たな美しさのかたち”なのである。
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