発売日: 2010年6月29日
ジャンル: エレクトロポップ、ヒップホップ、ダンス・ロック
概要
『Streets of Gold』は、3OH!3が2010年に発表したメジャー3作目のアルバムであり、過激で猥雑なユーモアとキャッチーなポップセンスを最大化しつつ、よりプロフェッショナルなプロダクションへと進化した、彼らの「最盛期」を象徴する作品である。
前作『Want』での成功――特に「Don’t Trust Me」や「Starstrukk(feat. Katy Perry)」によって、3OH!3はティーン世代を中心に圧倒的な支持を獲得した。
その勢いを受けた『Streets of Gold』では、ラジオ映えするフックとトレンド感を押さえつつも、彼らのトレードマークである下品さ・皮肉・享楽主義といった要素を決して手放さない。
本作は、ポップ・ロック、エレクトロ、ヒップホップの要素が絶妙にミックスされ、ゲストにKe$haやRivers Cuomo(Weezer)を迎えるなど、ジャンル横断的かつ商業的な戦略も明快。
きらびやかで軽薄、だがそれゆえに本質を突いてくる――『Streets of Gold』は、2010年代初頭のアメリカのポップカルチャーの熱気と空虚を、同時に封じ込めたアルバムなのである。
全曲レビュー
1. Beaumont
静かに始まり、爆発的に展開するオープニング。
地元愛と若き自我の爆発をミックスした歌詞が、アルバムの原風景を提示する。
2. I Can Do Anything
自己肯定感爆発のアンセム。「俺は何でもできる」というメッセージをダンサブルなトラックに乗せて叫ぶ。
中毒性の高いフックとリズムが耳に残る。
3. My First Kiss (feat. Ke$ha)
本作の代表曲。Ke$haとの掛け合いが絶妙で、セクシャルかつポップなフレーズが連続する。
クラブでもラジオでも映える、当時のトレンドを凝縮したような一曲。
4. Like It’s Her Birthday
祝祭的なムードのパーティーチューン。
「彼女の誕生日みたいに盛り上がれ」というコンセプトが、バカ騒ぎ的な快感を生み出す。
5. Déjà Vu
恋愛のマンネリ感と繰り返しを「デジャヴ」に例えたエレクトロ・ロック。
不安定さと快楽主義が交錯するリリックが3OH!3らしい。
6. We Are Young
タイトルとは裏腹に、どこか虚無感の漂うナンバー。
若さの持つ脆さや衝動を、静かに、だが確かに描き出している。
7. Touchin on My
ピー音で伏せられたタイトルも話題に。セクシャルな表現をギリギリで笑い飛ばす、3OH!3らしい挑発ソング。
バウンスするビートがクセになる。
8. House Party
タイトル通りのパーティー讃歌。
ノリと勢いで突き抜けるトラックで、フェスやライブの定番曲として人気が高い。
9. R.I.P.
自虐的な恋愛の死を歌ったトラック。
「この恋は死んだ」という過激なテーマを、軽快なサウンドに乗せるという皮肉なアプローチ。
10. I Know How to Say
世界各国の言語で「愛してる」と伝える異色作。
ポップで明るいが、多文化主義を茶化すようなユーモアも感じられる。
11. Double Vision
Wiz Khalifaを想起させるチルなラップと、きらびやかなエレクトロ・ビートが融合。
酔っ払って二重に見える恋人像をメタファーに、現実逃避の甘さを描く。
12. I’m Not the One
恋愛への責任逃れをテーマにした、ゆるやかなシンセ・バラード。
「自分は運命の人じゃない」と開き直る態度に、3OH!3のニヒルな魅力が光る。
13. Streets of Gold
アルバムのタイトル曲。成功、金、名声――そのすべてが虚ろで滑稽に見えるような諦観と達観が、荘厳なメロディに乗って展開される。
本作で最も深い内省を感じさせるトラック。
総評
『Streets of Gold』は、3OH!3という“悪ノリと反抗のポップ化”を極めたユニットが、商業的な成功を手にしたまま、自らの世界観をさらに濃密に、より戦略的に構築したアルバムである。
本作での彼らは、「お騒がせボーイズ」ではなく、「ポップという媒体を通して社会や人間の空虚さを描き出すストラテジスト」へと変貌している。
その一方で、ダンスビート、キャッチーなフック、パーティーソングの爆発力といった要素も健在であり、ライブやクラブを意識した即効性の高い楽曲群が揃っている。
特に「My First Kiss」や「Touchin on My」のような楽曲では、ポップと風刺、ユーモアとエロスが絶妙にバランスを取っており、それが3OH!3の持つ“下品と知性の交差点”を浮き彫りにしている。
『Streets of Gold』は、その金色のタイトルとは裏腹に、「祝祭と空虚」「若さと虚無」をテーマにしたアルバムであり、煌びやかな表層の奥に“現代の虚しさ”が静かに横たわる作品なのだ。
おすすめアルバム(5枚)
- Ke$ha『Animal』
共演も果たしたKe$haのデビュー作。享楽的で皮肉なポップセンスが共通している。 - Cobra Starship『Hot Mess』
3OH!3と並ぶ“パーティー・ポップ”の代表格。ファッション性と音楽性の融合も魅力。 - LMFAO『Sorry for Party Rocking』
過剰なまでの祝祭性とクラブビートの追求。3OH!3の勢いを引き継いだ存在。 - Breathe Carolina『Hello Fascination』
エレクトロ×スクリーモのハイブリッド。攻撃性とキャッチーさが3OH!3と親和性が高い。 - The Ready Set『I’m Alive, I’m Dreaming』
同じく2010年代初頭のポップ・エレクトロシーンの一角。甘酸っぱさとキラキラ感が近い。
制作の裏側(Behind the Scenes)
『Streets of Gold』の制作には、Dr. Luke、Benny Blanco、Greg Kurstinといった当時のヒットメイカーたちが名を連ねており、3OH!3の“インディー上がり”という出自に対して、圧倒的なプロ仕様のサウンドが施されている。
レコーディングはロサンゼルスとコロラドを中心に行われ、SeanとNatは今作でも引き続きソングライティングに深く関与。
ただの“歌うだけのユニット”ではなく、セルフ・プロデュース志向が強いことも本作で明確になっている。
Ke$haとの共演「My First Kiss」は、互いのブレイク時期が重なったことによる戦略的コラボとも言え、当時のチャート市場を見据えたポップ・ユニオンとしても成功を収めた。
結果として、『Streets of Gold』は、MySpace以降の“バズ系ポップ”がメジャーの中でどこまで戦えるかという試金石であり、その答えが見事に刻み込まれた一枚となっている。
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