
発売日: 2000年8月22日(US限定)
ジャンル: R&B、ポップ、アーバン・コンテンポラリー、ダンス・ポップ
概要
『Steppin’ Out』は、イギリスの姉妹ガールズ・グループ、**Cleopatra(クレオパトラ)**が2000年に発表したセカンド・アルバムであり、
10代のポップアイドルからR&Bアーティストへの脱皮を図った意欲作として、当時の北米マーケットに向けてリリースされた。
前作『Comin’ Atcha!』でのティーンポップ色を抑え、今作ではより洗練されたアーバンR&Bサウンドと大人びたリリックにフォーカス。
プロデューサー陣には Dallas Austin(TLC、Pinkなどを手がけた90s R&Bの立役者)を迎え、
USメインストリームに通用するクオリティを狙った仕上がりとなっている。
にもかかわらず、本作はUKでは未発売のままであり、
グループとしての活動も次第に停滞していったため、**Cleopatraにとって“幻の成熟作”**として語られている。
全曲レビュー
1. Steppin’ Out
アルバムのタイトルチューンにして、グループの方向転換を象徴するR&Bポップ。
“私たちは新しい自分たちで世界に出ていく”という決意が、グルーヴィなビートに乗って軽やかに伝わる。
2. Come and Get Me
リードシングルとしてリリースされたダラス・オースティン制作のナンバー。
挑発的でセクシーなヴァース、キャッチーなフックが印象的で、
BrandyやTLCの路線に近い、クールなアプローチが光る。
3. Yes This Party’s Going Right
アップビートで陽気なパーティー・アンセム。
1999〜2000年のミレニアム感覚を反映した、祝祭的でグラマラスな雰囲気が魅力。
4. U Got It
バウンシーなベースとシャープなリズムに乗せたR&Bラブソング。
ティーン時代からの成長を感じさせる、少し大人びた表現が光る。
5. Nobody Said
アルバムの中でも特に感情のこもったスロージャム。
“誰もこんな恋になるとは言ってなかった”という葛藤を、抑制されたメロディで伝える。
6. Who’s Your Woman
フェミニンで強気なメッセージが込められた一曲。
当時のDestiny’s Child的な“ガールズ・エンパワメント”を意識した構成となっている。
7. You Can’t Be In My Life
失恋と自己肯定をテーマにした感傷的なナンバー。
リードボーカルのクレオパトラの表現力が格段に上がっていることを示す好例。
8. Sweat Me
ややファンク寄りのリズムと、アンダーステイトメントなサウンドが心地よい。
自然体で歌うスタイルが、前作とのギャップを感じさせる。
9. Take Me Now
バラード調ながら、エレクトロニックなアレンジを加えた実験的な一曲。
ミレニアム期のR&Bに特有の未来感と官能性が融合している。
10. Nobody Does It Like You
シンプルなラブソングだが、ヴォーカル・ハーモニーの美しさが際立つ。
姉妹グループならではの声の一体感が、楽曲の魅力を引き立てている。
総評
『Steppin’ Out』は、Cleopatraが単なるティーン・ポップ・ガールズから、
本格的なR&Bユニットへと“脱皮しようとした過程”を真摯に記録した作品であり、
そのプロダクションと方向性の変化は、明らかにアメリカ市場に向けた挑戦として意識的であった。
しかし同時に、その変化はUKでのリスナーの離脱や、商業的な中途半端さを招くことにもなった。
結果としてアルバムは米国のみでリリースされ、グループもまもなく活動休止状態に──
このアルバムは、Cleopatraという才能が音楽業界の中で“どこにも属せなかった痛み”の記録でもあるのだ。
おすすめアルバム(5枚)
- TLC『FanMail』
本作と同時期・同系統のR&B。Dallas Austinつながりでも注目。 - 3LW『3LW』
Cleopatraの次世代を担ったアメリカのティーンR&Bガールズグループ。 - Aaliyah『One in a Million』
成熟とミニマルさのバランスが光るR&B作品。Cleopatraの進化と響き合う。 - Destiny’s Child『The Writing’s on the Wall』
“女性の自立”をテーマにしたR&Bの金字塔。『Steppin’ Out』の文脈と重なる。 - Brandy『Full Moon』
ティーンポップから大人のR&Bへの移行という意味でCleopatraと通じる変化の記録。
後続作品とのつながり
Cleopatraは本作以降、長らく活動を停止し、
事実上『Steppin’ Out』が彼女たちの最後のフルアルバムとなった。
しかしこの作品には、ただ消費されて終わらなかった“3人の少女たちの音楽への真剣なまなざし”が刻まれており、
その誠実さこそが、この幻のセカンドアルバムを再発見に値する1枚へと昇華させている。
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