発売日: 1998年9月14日
ジャンル: ポップ、ダンス・ポップ、ユーロポップ
概要
『Step One』は、イギリスの男女混成ポップグループ、Stepsのデビューアルバムであり、
90年代末のユーロポップ・リバイバルとパーティカルチャーを象徴する作品である。
アルバムは1998年にリリースされ、初登場でUKチャート2位を記録し、その後8×プラチナ(240万枚以上)という驚異的な売上を記録。
グループ名の由来でもある“ステップ(ダンス)”と“ステージの段階”の二重の意味を体現しながら、
親しみやすくダンサブルなサウンドと、振付つきで覚えやすいキャッチーな楽曲群によって、
子どもから大人まで幅広いリスナー層にアピールした。
制作面では、プロデューサーにPete Waterman(PWL/SAWの一角)を迎え、
80年代後半のStock Aitken Waterman的なユーロビートの再解釈を志向。
同時に、ABBAの影響を公然と受け継ぎながら、90年代のポスト・スパイスガールズ的な明快なイメージ戦略を展開していた。
全曲レビュー
5,6,7,8
ウエスタン風のトラックとラインダンスを掛け合わせた異色のデビュー曲。
カントリーとダンスビートをミックスしたユーモラスな構成で、
アイドルポップの自由度と“ノリ一発”の良さを体現している。
歌詞の内容はほとんど意味がないが、その空虚さが逆に祝祭的。
Last Thing on My Mind
Bananaramaの楽曲をカバーし、ハーモニーと哀愁を帯びたメロディで原曲を一層ポップに昇華。
シンセベースと女性ヴォーカルを中心にした展開が80年代の残り香を強く感じさせる。
One for Sorrow
失恋ソングでありながら、アップテンポで爽快なダンスナンバー。
「泣きながら踊れる」ポップの典型例として人気を博した。
美しいユニゾンとストリングスを思わせるシンセが、感傷を華やかに包み込んでいる。
Heartbeat
唯一のスローバラード。
冬の街角での別れを思わせるような情景描写と、5人のボーカルが織りなす切なさが印象的。
後に「Tragedy」とのダブルAサイドとして再リリースされ、UK1位に到達。
Tragedy
Bee Geesの名曲をカバーした一曲。
原曲のディスコ感を残しつつも、より早いBPMと**インパクトある振付(“手を顔の横で広げるポーズ”)**が社会現象化。
この曲の大ヒットにより、Stepsの存在はティーン向けの枠を超えた。
Better Best Forgotten
失恋の悔しさを爽快に吹き飛ばすポップチューン。
“忘れた方がマシ”というややビターなタイトルに反し、メロディは極めて軽快かつ明るい。
初期のStepsらしいポジティブさが光る。
Love’s Got a Hold on My Heart
キャリア後期に向けたステップとなった楽曲。
ABBAを想起させるコード進行とコーラスワークが特徴で、音楽的な成熟を感じさせる。
Stay with Me
アルバム内で最もアダルトなトーンを持つミディアムナンバー。
ダンサブルではあるが、エモーショナルな側面を強調した異色の一曲。
Nothin’ But Trouble
ビート主導のパーティチューン。
歌詞の深さよりも“ノレるかどうか”が全てで、パフォーマンス時の映えを意識した構成になっている。
Experienced
サウンド面では最も実験的な一曲。
ファンキーなギターリフとエレクトロニックな加工が交差し、90年代後半のテクノロジーとポップの融合を感じさせる。
総評
『Step One』は、ポップスが“軽さ”を武器にできた時代の祝祭的記録である。
そこにあるのはドラマティックな人生の物語ではなく、
2分半の笑顔、友情、涙、踊り、そして忘れていい悩みである。
ABBA、Bananarama、Kylie Minogueといった先人たちの音楽的遺伝子を受け継ぎつつ、
ユーロポップという「明るさの美学」を再提示した本作は、
90年代末における“幸せであることの再確認”を象徴していた。
その後の『Buzz』や再結成後の活動を通じて成熟したStepsから振り返ると、
このアルバムはあまりに眩しく、あまりに無邪気で、しかしそこがかけがえのない原点なのだと感じられる。
おすすめアルバム(5枚)
- ABBA『Arrival』
コーラスとユーロポップの源流的存在としての近親性。 - Bananarama『Greatest Hits Collection』
女性ポップのユニゾン美学とダンサブルな感覚に通じる。 - Aqua『Aquarium』
ポップの派手さと子どもっぽさを大胆に押し出した90年代的代表作。 - Vengaboys『The Party Album!』
クラブ向けユーロポップの軽快さとバカバカしさが共鳴。 -
S Club 7『S Club』
同時代における男女混成グループによるポジティブポップの系譜。
8. ファンや評論家の反応
『Step One』は評論家からはおおむね平均的な評価にとどまったが、
ファンと市場からの支持は圧倒的であり、“国民的グループ”への道を切り拓くきっかけとなった。
特に「Tragedy」のカバーによって、
振付文化を含めた“参加型ポップ”としての魅力が定着し、
子ども会、学校、結婚式などでの使用が相次いだ。
近年ではノスタルジックな再評価も進んでおり、
Y2Kリバイバルの文脈の中で再び“踊れるポップ”の金字塔として脚光を浴びている。
まさに、時代の笑顔をそのまま封じ込めたような一枚なのである。
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