発売日: 2016年6月10日
ジャンル: ソウル、R&B、サザン・ソウル、ゴスペル、クラシック・カバー
概要
『Soulsville』は、ビヴァリー・ナイトが2016年にリリースしたスタジオ・アルバムであり、アメリカ南部のソウルの聖地──テネシー州メンフィスの“ソウルズヴィル”を音楽的に巡礼する、魂のトリビュート・アルバムである。
本作は、彼女にとって前作『Soul UK』（2011年）に続く“ルーツ回帰シリーズ”第2弾とも言える位置づけで、
今回はモータウンやUKソウルではなく、スタックス、ハイ・レコード、アトランティックといった“サザン・ソウル”の名門レーベルにフォーカス。
収録曲の大半は、オーティス・レディング、サム＆デイヴ、アル・グリーン、カーラ・トーマスなどの名曲のカバーであり、さらにベリンダ自身が書き下ろしたオリジナル楽曲も数曲収録されている。
録音は実際にメンフィスのスタジオで、現地ミュージシャンとの生演奏で行われた。
そのため、サウンドはビンテージ機材とライブ感に満ちた、温度のあるソウルそのもので、かつてないほど“黒さ”と“熱さ”が際立っている。
英国のR&Bクイーンが、アメリカ南部の“魂の音楽”に真正面から挑んだ、敬意と情熱にあふれたアルバムである。
全曲レビュー
1. Middle of Love
オリジナル楽曲。ファンキーなギターとブラスが弾ける、グルーヴィーな幕開け。愛の嵐の中心で自分を見失わない強さを歌う。
2. When I See You Again
しっとりとしたソウル・バラード。別れた愛しい人への思慕が、淡いメロディに溶け込む。エモーショナルな歌唱が胸を打つ。
3. I’m Doin’ Fine
“私は大丈夫”と歌いながらも、内に秘めた痛みがにじむ一曲。アル・グリーン風のアレンジが心地よい。
4. I Can’t Stand the Rain（Ann Peeblesカバー）
本作のハイライト。雨音に寄せた孤独と恋しさが、ナイトの声でより生々しく迫る。サザン・ソウルの美学を体現した名演。
5. Don’t Play That Song（Ben E. Kingカバー）
哀愁と怒りが同居するクラシックを、スウィング感たっぷりにリメイク。コール＆レスポンスとホーンが盛り上げる。
6. These Arms of Mine（Otis Reddingカバー）
静けさの中に燃えるような情念が宿るバラード。原曲に深く敬意を払いながら、ナイトの繊細な声が新たな光を与えている。
7. Hound Dog（Big Mama Thornton風アレンジ）
エルヴィス版ではなく、原点である女性ボーカル版へのリスペクト。ブルージーで強気な歌い回しが痛快。
8. On and On
オリジナル楽曲。愛は続く、苦しみも続く──それでも生きていくという決意を、反復するリズムで刻むミディアム・チューン。
9. The Letter（Box Topsカバー）
ソウル・ロック寄りのアップテンポ・ナンバー。軽快な演奏とスモーキーなボーカルが印象的。
10. I’ll Take You There（Staple Singersカバー）
ゴスペル・ソウルの傑作。スピリチュアルな熱気と祝祭感に満ち、ベリンダの“魂のリード”が楽曲を高みへと導く。
11. Still Here
オリジナル。アルバムのエンディングにふさわしい、自己肯定と希望のメッセージソング。“私はまだここにいる”という静かな叫び。
総評
『Soulsville』は、ビヴァリー・ナイトが“自分がどこから来たのか”をもう一度確認し、“これからどこへ行くか”を確信するための、音楽的ルーツ巡礼の旅である。
このアルバムの魅力は、単にクラシックを再演するだけではない。
彼女の歌には、歴史と敬意だけでなく、現代に生きる黒人女性としての声が明確に刻まれており、
50年前のソウルが、今も“生きている音楽”として鳴り響く理由がここにある。
オリジナル楽曲とカバーの配置も巧妙で、ナイトの“継承者としての誠実さ”と“創作者としての意志”が等しく感じられる構成となっている。
『Soulsville』は、ソウルとは何か──その問いに“技術でも形式でもなく、生き方である”と答えるアルバムであり、
その答えを、ベリンダ・ナイトは100%の確信と情熱をもって届けてくれる。
おすすめアルバム（5枚）
- Otis Redding『Otis Blue』
サザン・ソウルの金字塔。本作で多くの楽曲が引用された、魂の原典。 - Ann Peebles『Straight from the Heart』
“I Can’t Stand the Rain”の原曲収録。女性サザン・ソウルの神髄。 - Staple Singers『Be Altitude: Respect Yourself』
ゴスペル・ソウルの祝祭感を体現。本作収録の「I’ll Take You There」はこのアルバムの代表曲。 - Aretha Franklin『Lady Soul』
ビヴァリーが直接影響を受けた女性ソウルの象徴的作品。 - Mavis Staples『We’ll Never Turn Back』
歴史とスピリチュアルが交差するソウル・アルバム。『Soulsville』とメッセージ性が通じる。
後続作品とのつながり
『Soulsville』のリリース後、ビヴァリー・ナイトはミュージカル界でも絶大な評価を受けるようになり、
ソウル・シンガーとしての重厚な表現力が演劇的な文脈でも発揮されるようになった。
この作品は、“シンガーとしての成熟”を刻んだアルバムであり、
彼女の音楽人生における“魂の交差点”として、今後も語り継がれるであろう重要作である。
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