
1. 歌詞の概要
「Sorry Seems to Be the Hardest Word」は1976年にリリースされたアルバム『Blue Moves』に収録されたエルトン・ジョンの代表的バラードである。タイトルが示す通り、テーマは「謝罪の難しさ」。愛が終わりを迎え、関係が崩壊していく中で、もっとも必要なはずの「ごめん」という言葉がどうしても口にできない苦悩を描いている。
歌詞の主人公は、自らの非を感じながらも謝ることができず、その結果として関係が冷え切り、愛が消えていく過程を静かに見つめている。「愛が終わるとき、残るのは何か?」という根源的な問いが繰り返され、切実でありながらも抑制されたトーンで表現されている。エルトンの歌声は淡々としていながらも、そこに潜む感情の深さが聴き手の心を揺さぶる。
2. 歌詞のバックグラウンド
作詞は長年のパートナーであるバーニー・トーピンによるもので、彼の個人的な恋愛経験が大きく反映されているといわれる。当時トーピンは私生活での人間関係に揺れており、その中で「関係が壊れていくときに謝罪できない」という人間の弱さをテーマに歌詞を書き上げた。
1976年のエルトンは、世界的な大スターとしての頂点に立ちながらも、個人的には孤独や不安を抱えていた時期であった。アルバム『Blue Moves』は彼のキャリアの中でも最も内省的で陰影に満ちた作品のひとつであり、その中心に置かれたのがこの曲である。
リリース後、この曲は全米シングルチャート6位、全英チャート11位を記録。派手なヒットソングとは異なる静かな佇まいを持ちながらも、時代を超えて歌い継がれるクラシックとなった。後年、ブルーやレイ・チャールズとの共演など、数多くのカバー・バージョンが生まれたことも、この曲の普遍性を物語っている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Genius
“What do I say when it’s all over?
And sorry seems to be the hardest word”
「すべてが終わったとき、僕は何を言えばいい?
『ごめん』という言葉が、どうしても一番言いにくいのだ」
“It’s sad, so sad
It’s a sad, sad situation”
「悲しい、なんて悲しいんだ
本当に悲しい状況だ」
“It’s getting more and more absurd
And sorry seems to be the hardest word”
「どんどん不条理になっていく
それでも『ごめん』という言葉が一番難しい」
“What do I do to make you love me?
What have I got to do to be heard?”
「君に愛されるには僕は何をすればいい?
僕の声を聞いてもらうために、僕は何をすればいい?」
4. 歌詞の考察
この曲の核心は「愛が壊れていくとき、人はなぜ謝れないのか」という普遍的なテーマにある。関係を続けたいのに、自尊心や恐れが邪魔をして「Sorry」という一言が出てこない。その葛藤こそが愛の終焉を決定づけてしまう。
歌詞には「悲しさ」や「不条理」という言葉が繰り返し登場するが、そこには「どうしてこんな簡単なことができないのか」という自己への苛立ちと諦念が込められている。エルトンの歌声は激情に走ることなく、むしろ淡々と歌い上げる。その抑制こそが逆に深い感情を表し、聴く者に切なさを強く感じさせる。
また、この曲は愛の終わりを個人の経験に留めず、より普遍的な「人間関係の脆さ」へと昇華している。家族や友人、社会の中での対立においても、「謝罪の難しさ」は多くの人にとって共感できるテーマである。その普遍性こそが、この曲を時代を超えて歌い継がれる理由だといえる。
(歌詞引用元:Genius Lyrics / © Original Writers)
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Don’t Let the Sun Go Down on Me by Elton John
同じく内面的な弱さをテーマにした壮大なバラード。 - Candle in the Wind by Elton John
喪失と追悼をテーマにした叙情的な名曲。 - Hello by Lionel Richie
別れと後悔を描いた80年代の代表的バラード。 - Yesterday by The Beatles
失われた愛と後悔を簡潔に歌い上げた普遍的名曲。 - She’s Out of My Life by Michael Jackson
愛の終わりにおける後悔を切実に表現した楽曲。
6. 人間的弱さを描いた普遍のバラード
「Sorry Seems to Be the Hardest Word」は、華やかなポップスターとしてのエルトン・ジョンではなく、ひとりの人間としての脆さをさらけ出した作品である。そこにはスターの仮面を脱ぎ捨てたリアルな感情があり、それこそが聴き手の共感を呼び起こす。
この曲が今も多くの人に愛される理由は、謝罪という人間関係における普遍的なテーマを真摯に描き出したからにほかならない。感情の抑制と深み、そしてメロディの美しさが融合した「Sorry Seems to Be the Hardest Word」は、エルトン・ジョンのキャリアの中でも最も人間的で普遍的なバラードとして位置づけられているのである。
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