Something to Believe by Weyes Blood(2019)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「Something to Believe」は、Weyes Blood(本名:Natalie Mering)が2019年にリリースしたアルバム『Titanic Rising』に収録された楽曲であり、現代という不安定な時代における“信じる対象”の欠如と、それを求める心の叫びを、壮大でありながらも繊細な歌声と音楽で描いた感情的バラードである。

タイトルにある「Something to Believe(信じられる何か)」は、宗教的信仰や人間関係、社会制度、あるいは自己そのものなど、時代の変化とともに失われつつある“支え”を意味しており、歌詞はその喪失と渇望を、個人的な物語と普遍的な問いの形で描いている

一見すると、これは恋愛の歌のようにも感じられる。語り手は誰かに向かって助けを求めるように語りかけるが、その根底にあるのは、他者とのつながり以上に、自分の中の空白を埋めたいという深い孤独と葛藤である。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Something to Believe」は、アルバム『Titanic Rising』の中でもとりわけ内省的かつ霊的なトーンを持った楽曲であり、Weyes Blood自身も「自分が最も傷つきやすかった時期に書いた曲のひとつ」と語っている。

このアルバム全体が、「海面上昇や社会的混乱の中で、どうやって個人は希望を保ち、愛を信じ、生きていけるか」というテーマを扱っており、「Something to Believe」はまさにその中心的な問いを最もストレートに表現した1曲だ。

彼女が影響を受けたKaren CarpenterやHarry Nilssonのような1970年代のバラードスタイルを継承しながらも、現代的な虚無感や不安を滲ませるその作風は、“時代の中で迷う魂の賛美歌”のような趣を持つ。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に、「Something to Believe」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を併記する。

Give me something I can see
私に、目に見える“何か”をちょうだい

Something bigger and louder than the voices in me
私の中に渦巻く声よりも大きくて、力強い何かを

Give me something to believe
信じられるものが欲しいの

I just lay down and cry
私はただ、横になって泣いた

The waters don’t really go by me
水は、私のそばを流れてくれない

出典:Genius – Weyes Blood “Something to Believe”

4. 歌詞の考察

「Something to Believe」は、Weyes Bloodの楽曲の中でも特に**“心の空洞”を主題とした深い告白**として受け止められるべき一曲である。冒頭の「Give me something I can see」という一節は、抽象的な希望や観念ではなく、実体として感じられる確かなものへの渇望を示している。

そのうえで、「Something bigger and louder than the voices in me(自分の中の声よりも大きくて力強いもの)」というラインは、自己の中にある不安や疑念の声がどれほど強いか、そしてそれを抑え込めるほどの“信じられるもの”を探していることを切実に表している。

これは単なる信仰の歌ではない。現代という正解のない時代を生きる私たちが、自分自身をどう信じればよいのか、社会をどう信じればよいのかという根本的な問いに立ち向かう歌なのである。

また「The waters don’t really go by me(水は私のそばを流れてくれない)」というフレーズには、人生という流れに自分が取り残されている感覚が滲んでいる。自然さえも自分の存在に気づいてくれない、というような**“宇宙的な孤独”**がこの一行に凝縮されている。

音楽的にも、ピアノとストリングス、そしてWeyes Bloodのやわらかでありながら芯のある歌声が重なり合い、彼女の内なる祈りのような感情がリスナーの心にも静かに波及していく

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • All Flowers in Time Bend Towards the Sun by Jeff Buckley & Elizabeth Fraser
    夢と霊性が交錯する、唯一無二の未完成バラード。

  • Hope Is a Dangerous Thing for a Woman Like Me to Have – But I Have It by Lana Del Rey
    女性の脆さと強さ、時代への違和感を静かに語る祈りのような楽曲。
  • River by Joni Mitchell
    人生と感情の流れをピアノとともに描き出す名曲。

  • Oh My God by Kevin Morby
    信仰と不信、愛と孤独をめぐる現代の黙示録的アルバムからの象徴曲。

  • Open by Rhye
    内省と希望、感情のゆらぎを丁寧にすくい上げるソウル・ミニマリズム。

6. “信じるものが見えない時代に、祈るように歌う”——Weyes Bloodの魂の探求

「Something to Believe」は、Weyes Bloodが一貫して追い求めてきたテーマ——不安定な世界のなかで、人はどう希望を持ち、どう愛を信じるか——を、最も正面から描いた楽曲である。

この曲が語りかけてくるのは、「希望を失ったとき、それでもあなたは何を信じますか?」という問い。宗教ではなく、社会でもなく、人間関係でもなく、ただ“自分の中にある信じたいという意志”をすくい上げるように、彼女はそっと語りかける。

そして、そこには決して答えはない。でもその「答えのなさ」こそが現代を生きるリアルであり、その中で「何かを信じたい」と願うこと自体が、すでに小さな光であることを、この曲は優しく教えてくれる

信じることに疲れた夜。孤独の中にいる朝。「Something to Believe」は、あなたの代わりに祈ってくれる。言葉にならない思いを、音にしてくれる。だからこの曲は、単なるラブソングではなく、**“魂のためのバラード”**なのだ。

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