1. 歌詞の概要
「Smart Patrol/Mr. DNA」は、Devoが1979年にリリースしたセカンド・アルバム『Duty Now for the Future』に収録された楽曲であり、アルバムの中でも最も実験的でシアトリカルなトラックのひとつである。二部構成で展開される曲で、前半の「Smart Patrol」では監視社会や官僚的システムを風刺し、後半の「Mr. DNA」では人間が自らの遺伝子や本能に支配されている姿を描き出す。
歌詞全体を通じて語られるのは、「人間は外部の権力や内部の遺伝子によって制御され、自由意志を失っている」というDevoの核心的メッセージである。「Smart Patrol」と「Mr. DNA」は対立する概念ではなく、外部と内部、二重の監視システムを象徴している。
2. 歌詞のバックグラウンド
1970年代後半、Devoは「退化論（De-evolution）」という独自の哲学を掲げ、社会と人間の行動を冷笑的に観察していた。『Duty Now for the Future』はその思想をより直接的に表現したアルバムであり、「Smart Patrol/Mr. DNA」はその中核をなす楽曲である。
「Smart Patrol」というフレーズは、社会の中で「秩序を守る」ことを口実に人々を監視・管理する存在を意味し、権力構造や企業文化を風刺している。一方「Mr. DNA」は、人間の欲望や行動が結局は遺伝子レベルでプログラムされていることを示し、進化論的な自由の幻想を否定する。
この二つを組み合わせることで、Devoは「外部の制度（社会）と内部のプログラム（遺伝子）の両方が人間を支配している」という退廃的なビジョンを提示したのである。ライブでは、メンバーがロボットのような動きをしながらこの曲を演奏し、監視される人間とDNAに操られる人間を同時に演じるパフォーマンスが特徴的だった。
3. 歌詞の抜粋と和訳
（歌詞引用元：Devo – Smart Patrol/Mr. DNA Lyrics | Genius）
We’re Smart Patrol, nowhere to go
俺たちはスマート・パトロール、行き場のない存在
Suburban robots monitor reality
郊外のロボットたちが現実を監視している
Mr. DNA, dig it all the way
ミスターDNA、徹底的に掘り下げろ
No luck, no breaks, just DNA
運も偶然もない、ただDNAがあるだけ
歌詞は断片的でありながら、強烈なイメージを次々と提示していく。監視するロボットと、逃れられない遺伝子の束縛が、冷徹に描かれている。
4. 歌詞の考察
「Smart Patrol/Mr. DNA」は、Devoの哲学を端的に表現した楽曲である。前半の「Smart Patrol」では、テクノロジーと管理社会に支配された人間を描き、後半の「Mr. DNA」では、人間が結局は遺伝子のプログラムによって突き動かされる存在であることを示す。
「Suburban robots monitor reality（郊外のロボットが現実を監視する）」というラインは、1970年代後半のアメリカ郊外社会の停滞と管理的秩序を風刺している。一方で「No luck, no breaks, just DNA（運も偶然もなく、ただDNAだけがある）」は、人間の自由意志を徹底的に否定する科学的決定論を表している。
この二つを組み合わせることで、Devoは「外部の権力と内部の本能」という二重の檻を描き、人間の存在そのものを「退化したシステムの一部」として提示している。これは単なる社会風刺を超え、「存在論的な不安」をニューウェイヴの文脈に持ち込んだ実験である。
音楽的にも、曲は複雑なリズムと突発的な展開を持ち、後半では混沌としたエネルギーが爆発する。これはまさに「人間がコントロールを失い、DNAの支配に飲み込まれる」瞬間を音で再現している。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Jocko Homo by Devo
退化論をテーマにした代表曲。哲学的で風刺的な視点が共通する。 - Race of Doom by Devo
管理社会の狂気を描いた実験的ナンバー。 - Warm Leatherette by The Normal
機械化された人間性を冷徹に描いたエレクトロ・パンク。 - Life During Wartime by Talking Heads
監視社会と緊張感を描いたニューウェイヴの代表曲。 - Being Boiled by The Human League
人間存在をテクノロジーの観点から批評する初期シンセポップ。
6. 「Smart Patrol/Mr. DNA」の象徴性
「Smart Patrol/Mr. DNA」は、Devoの音楽と思想を最も凝縮した楽曲のひとつである。管理社会を風刺する外部視点と、人間が遺伝子に支配されるという内部視点を同時に扱うことで、人間存在そのものの自由を否定する冷徹なビジョンを提示している。
これはパンク的な反抗ではなく、もっと絶望的でアイロニカルな批判であり、まさにDevoの哲学「De-evolution」を音楽として体現した作品である。複雑な構成と不安定なエネルギーは、リスナーに「世界は制御不能であり、人間は操られている」という感覚を突きつけ、1970年代末のニューウェイヴの方向性を決定づけた。
結果として「Smart Patrol/Mr. DNA」は、Devoのキャリアにおける哲学的中核であり、同時にニューウェイヴ史の中でも特異な位置を占める前衛的アンセムなのである。
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