発売日: 2022年4月22日
ジャンル: ポストパンク、インディーロック
Fontaines D.C.の3作目「Skinty Fia」は、前作「A Hero’s Death」の内省的なサウンドをさらに深化させ、移民や文化的アイデンティティ、郷愁といったテーマを掘り下げた作品である。アイルランド語で「鹿の呪い」を意味するタイトル「Skinty Fia」には、移住先で感じる喪失感や異邦人としての葛藤が込められており、現代のアイリッシュ移民としての複雑な心情が反映されている。グリアン・チャットテンの歌声はますます陰影を帯び、アルバム全体がダークでメランコリックなトーンで貫かれている。
「Skinty Fia」は、現代の混沌とした世界で自らのアイデンティティを問い直し、見失ったルーツへの渇望を描いたアルバムだ。Fontaines D.C.は、ポストパンクらしい冷ややかなサウンドの中に、重厚で暗いリズムとリフを用いながら、郷愁と孤独を感じさせるメロディを加えている。荒々しさの中に繊細な感情が漂い、アイルランドのルーツに根差しつつも、国を離れた者たちの視点が鮮明に映し出されている。
トラックごとの解説
1. In ár gCroíthe go deo
アルバムの幕開けを飾る「In ár gCroíthe go deo」は、「永遠に私たちの心の中に」というアイルランド語のタイトルが示すように、故郷への愛と喪失感を象徴している。チャントのようなボーカルと重厚なリズムが、祈りのように繰り返される壮大な一曲だ。
2. Big Shot
「Big Shot」は、社会への不信やアイデンティティの葛藤が歌われる。緊張感のあるギターと抑制されたリズムが特徴的で、チャットテンのボーカルが静かに迫りくるように響く。
3. How Cold Love Is
ノスタルジックなサウンドが特徴の「How Cold Love Is」は、孤独と失われた愛をテーマにした一曲。憂いのあるギターリフと静かなビートが、冷たさと儚さを象徴している。
4. Jackie Down the Line
キャッチーなリフとメロディが印象的な「Jackie Down the Line」は、アルバムの中でも特に耳に残るトラック。人間関係の複雑さと、他者への無理解がテーマで、ポップでありながらも深い余韻を残す。
5. Bloomsday
「Bloomsday」は、ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』にちなんだタイトルで、アイルランド文学へのオマージュが込められている。ダークでミステリアスなメロディが、リスナーを幻想的な世界へと引き込む。
6. Roman Holiday
「Roman Holiday」は、リズムカルでポップな一面が見られる楽曲で、異郷の地での孤独感や疎外感が歌われている。リフレインのフックが強く、聴き手を引き込む力を持っている。
7. The Couple Across the Way
アコーディオンを用いたシンプルなアレンジの「The Couple Across the Way」は、隣人夫婦の姿を通して孤独や疎外感が描かれる。チャットテンの寂しげなボーカルが、曲全体に静かな哀愁を漂わせている。
8. Skinty Fia
アルバムタイトル曲「Skinty Fia」は、暗くて力強いサウンドが特徴で、異国に生きる者の怒りや不安がテーマに。ベースラインが重く響き、エネルギッシュな演奏が心に残る。
9. I Love You
「I Love You」は、アイルランドへの愛憎が歌われるパワフルなトラック。怒りと愛情が混ざり合った複雑な感情が表現され、チャットテンのボーカルが感情をむき出しにする。
10. Nabokov
アルバムを締めくくる「Nabokov」は、現実と夢が交差するような幻想的なサウンドが特徴。どこか荒涼とした雰囲気を持ち、Fontaines D.C.の独自の詩的な世界観を感じさせる。
アルバム総評
「Skinty Fia」は、Fontaines D.C.がアイデンティティと故郷に対する複雑な感情をさらに深く追求し、アイルランドから離れた者たちの孤独や郷愁を描いた作品だ。重厚でダークなサウンドが、移民としての疎外感や異邦人の孤独をリアルに伝えており、チャットテンのボーカルも一層深みを増している。現代のアイリッシュロックの最前線に立つ彼らの音楽は、アイルランドという場所に対する愛情と葛藤をリアルに表現し、リスナーに共感と感動を与える。「Skinty Fia」は、ただのポストパンクではなく、アイデンティティとルーツへの問いかけが詰まった、豊かで奥行きのある一枚だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
A Hero’s Death by Fontaines D.C.
彼らの2作目で、今作の持つダークで内省的なトーンが形成されていった重要なアルバム。アイデンティティの探求が中心テーマ。
Unknown Pleasures by Joy Division
暗く重厚なサウンドとメランコリックなテーマが共通。疎外感と孤独が「Skinty Fia」と共鳴する名盤。
Strangeways, Here We Come by The Smiths
ザ・スミスのメランコリックな雰囲気とポストパンクのスタイルが、Fontaines D.C.の音楽とよく合う一枚。
The Shadow of Their Suns by Woodkid
孤独や疎外感をテーマにした重厚なサウンドスケープが魅力。壮大なアレンジが「Skinty Fia」に近い世界観を描く。
The Holy Bible by Manic Street Preachers
ダークで批評的なリリックと激しいサウンドが、社会やアイデンティティへの批判を通して「Skinty Fia」に通じる。
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