発売日: 2008年6月16日
ジャンル: オルタナティヴ・ロック、ハードロック、メロディック・ロック
概要
『Silent Cry』は、Feederが2008年にリリースした6作目のスタジオ・アルバムであり、彼らが再びギター中心のラウドなロック・サウンドへと回帰した意欲作である。
前作『Pushing the Senses』ではポップ性と内省的なテーマの深化を進めたが、今作ではそうした繊細さを保ちつつも、バンド本来のエネルギーとダイナミズムを前面に押し出している。
アルバムタイトル『Silent Cry（無言の叫び）』が象徴するように、本作の根底には“言葉にならない感情”や“表に出せない痛み”といったテーマが流れており、それが音となって爆発することで、聴く者の心を直接的に揺さぶる。
2000年代後半のUKロックシーンでは、よりエレクトロ志向のバンドが注目され始めていたが、Feederはこの時代に逆行するかのように、生々しく荒々しいギター・ロックで勝負を挑んだ。
その姿勢こそが、彼らが変化に流されるのではなく、自らの核を見つめ直した証でもあるのだ。
全曲レビュー
1. We Are the People
オープニングにふさわしい、壮大かつパワフルなナンバー。
社会への連帯や希望を歌い上げるアンセムであり、タイトルの“私たちこそ人々だ”というフレーズに、現代へのメッセージが込められている。
2. Miss You
スピード感のあるリフと切ないメロディが共存した楽曲。
「君がいないこと」がテーマだが、絶望よりも懐かしさや温もりが漂う一曲。
3. Tracing Lines
バラード調のスローナンバー。
「軌跡をなぞる」という詩的なイメージを軸に、失われた関係や過去の記憶を辿っていくような叙情的なトラック。
4. Silent Cry
タイトル曲にして、本作の精神的核となる楽曲。
抑えたトーンから次第に盛り上がる構成は、感情の爆発寸前の静けさを完璧に捉えており、グラント・ニコラスのボーカルが胸に迫る。
5. Fires
シンプルなコード進行ながら、熱量のある演奏が魅力。
“火”というモチーフが示すように、怒りや情熱、破壊衝動が音になって燃え上がる。
6. Heads Held High
希望と誇りをテーマにしたロック・アンセム。
逆境に屈しない姿勢が力強く描かれており、ライヴでの盛り上がりを想定したダイナミックな構成。
7. Into the Blue
内向的な視点で描かれた叙情的な楽曲。
“青の中へ”という表現が、逃避や癒し、あるいは感情の沈静を象徴している。
8. 4th Street
ややグランジ的な質感を持つトラック。
具体的な地名がタイトルに使われていることから、個人的な記憶や風景に根ざした物語性が感じられる。
9. Save Us
救いを求める、切実なトーンの曲。
コーラスの繰り返しが印象的で、祈りにも似た感情が乗せられている。
10. It’s Feeling Alright
比較的明るいテンポとポジティヴなメッセージが特徴。
アルバム後半における“癒し”の位置を担っており、沈み込んだトーンから一息つかせる構成。
11. Guided by a Voice
宗教的、または内的な“声”に導かれる様を描いたスピリチュアルな曲。
ミドルテンポながら、じわじわと高まるエモーションが聴きどころ。
12. Sonorous
インストゥルメンタル要素が強く、タイトル通り“響き”に重きを置いた曲。
余白と反響が美しく、アルバム全体のクライマックス的な役割を果たす。
13. Yeah Yeah
ボーナストラック的位置にある軽快なロックチューン。
リラックスしたムードが特徴で、締めくくりに小気味よい余韻を残す。
総評
『Silent Cry』は、Feederがあえて“ロックの衝動”へと立ち返った作品であり、喪失や痛みを経てなお、自らのサウンドを力強く鳴らす意志が感じられるアルバムである。
特に「We Are the People」や「Silent Cry」など、社会的・個人的なメッセージが入り混じる楽曲は、グラント・ニコラスの表現力の深化を示しており、バンドとしての成熟と葛藤の両方が同時に鳴り響いている。
この時期、UKの音楽シーンでは、インディー・ロックやダンスミュージックが勢力を強めていたが、Feederはそれに迎合することなく、ギター・ロックの純度を追求した。
その姿勢は賛否を呼んだが、長年のファンにとっては“変わらない信頼”として受け取られ、多くの支持を集めることとなる。
サウンド面では、厚みのあるギターサウンドとエモーショナルなメロディのバランスが取れており、荒々しさと繊細さが交差する感情のスペクトラムが広がっている。
この作品は、言葉にできない叫びを“音”で伝えるというFeederの本質を改めて示したアルバムであり、その“無言の声”に耳を澄ませる価値は今もなお失われていない。
おすすめアルバム
- Placebo『Battle for the Sun』
内面の葛藤と再生を描いたロックアルバム。メロディの陰影が似ている。 - Muse『Black Holes and Revelations』
スケール感と叙情性のバランスという点で共鳴する。 - Ash『Twilight of the Innocents』
ギター中心のUKロックにおける同時代の快作。 -
Biffy Clyro『Puzzle』
激しさと内省が共存する音楽性。コンセプト的にも近い。 -
Lostprophets『Liberation Transmission』
同郷ウェールズ出身。アンセミックなロックと感情の噴出が共通点。
制作の裏側（Behind the Scenes）
『Silent Cry』のレコーディングは、ロンドンのスタジオを中心に行われ、グラント・ニコラス自身が多くのプロデュース業務を兼任した。
また、ライヴ感の強い演奏を重視し、あえて一部の楽曲ではアナログ機材や一発録り的な手法を採用するなど、緻密さよりも“感情の生々しさ”を優先したスタンスが貫かれている。
アルバム全体のミキシングには、クリス・シェルドン（Foo FightersやRadioheadを手掛けたエンジニア）が参加し、骨太でありながらも繊細な音像を実現。
ビジュアル面でも“空白と深さ”をテーマにしたアートワークが印象的で、音楽と視覚の両面から、感情の“沈黙”を表現している。
この作品は、制作段階から“叫ばない叫び”というコンセプトが貫かれていたのである。
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