発売日: 2010年6月8日
ジャンル: ポップ・ロック、ブルー・アイド・ソウル、ファンク、アダルト・コンテンポラリー
概要
『Shout It Out』は、Hansonが2010年にリリースした5作目のスタジオ・アルバムであり、彼らのキャリアにおいて最も“明るく、自由で、ソウルフル”な作品である。
前作『The Walk』で重厚なメッセージ性と社会的テーマを打ち出した彼らは、本作において一転、ポジティブでエネルギッシュなポップ・サウンドに回帰する。
その中には、60〜70年代ソウルやモータウンへの憧憬、スティーヴィー・ワンダー的なグルーヴ、ホーン・セクションを取り入れたダンサブルなアレンジなどが散りばめられており、彼らの音楽的原点と遊び心が鮮やかに表現されている。
セルフ・プロデュースによって制作されたこともあり、自由な発想と緻密な構築が同居し、“自分たちが今、本当にやりたい音楽”をそのまま詰め込んだ印象だ。
商業主義や自己啓発的な重さから解放されたこのアルバムは、まさにHansonの“純粋なポップ・スピリット”の結晶といえる。
全曲レビュー
Waiting for This
オープニングを飾るアップテンポなロック・ポップで、スタジアム的な高揚感とソウルフルなシャウトが炸裂する。
「ずっとこの瞬間を待っていた」というリリックは、アルバム全体の喜びと祝祭感を象徴する。
Thinking ‘Bout Somethin’
本作の代表曲にして、YouTubeで公開されたトリビュートMV(The Blues Brothers風のダンス)が話題となった軽快なモータウン風ポップ。
スウィングするピアノ、グルーヴィなホーン、軽やかなハーモニーが心地よく、何度でも聴きたくなる中毒性がある。
Kiss Me When You Come Home
愛の帰還をテーマにした、温かなソウル・バラード。
テイラーの甘い歌声と、陽だまりのようなメロディが、聴く者の心を柔らかく包み込む。
Carry You There
アコースティック・ギターとピアノによるミドルテンポの名バラード。
“君がつらいときは僕が運ぶよ”という優しいメッセージが、誠実に、しかし重くなりすぎず伝わってくる。
Give a Little
ダンス可能な軽快ファンク・ナンバー。
手拍子、ファルセット、ホーンが絡むアレンジが最高に楽しく、ライブでの盛り上がりも鉄板。
「少しの愛を分けてよ」という、シンプルなフレーズが力強く響く。
Make It Out Alive
やや翳りを帯びたポップ・ロックで、失敗や不安を描きながらも“生き延びる”意志を歌う。
アルバムの中で数少ない“内省”の要素を担っており、構成上のバランスを保っている。
And I Waited
疾走感のあるロック・チューン。
失った恋を振り返る歌詞と、前向きなコード進行の対比が、Hansonらしい感情表現の巧みさを物語る。
Use Me Up
ザックがメイン・ヴォーカルを担当するスロー・バラード。
切実で脆い感情を吐露するような歌詞とメロディが、深い余韻を残す。
「たとえ壊れてもいい、君のために生きたい」というテーマは、非常に情熱的だ。
These Walls
過去の傷や不安を描いた抒情的なピアノ・バラード。
壊れた関係、再生への希望が静かに歌われる。アルバム中盤の“静けさ”を担う重要曲。
Musical Ride
音楽そのものの喜びを歌うグルーヴィなナンバー。
「音楽に乗って走るんだ」というサビが、アルバムのテーマ“Shout It Out”と見事に合致する。
Voice in the Chorus
ラストを飾るにふさわしい、コミュニティと連帯をテーマにした高揚感のある曲。
「僕たちは同じ歌を歌うコーラスの声」というフレーズは、Hansonの変わらぬ“家族的音楽観”を象徴している。
総評
『Shout It Out』は、Hansonが20代後半に到達し、“自分たちらしさ”を最大限に発揮した傑作である。
特定のメッセージに縛られず、純粋に「音楽を楽しむ」「愛を伝える」「踊らせる」というポップ・ミュージックの原点に回帰した本作は、明るさ、軽やかさ、誠実さを兼ね備えたバンドの成熟を感じさせる。
特筆すべきは、60〜70年代のソウルやファンクに対する敬意が、単なる模倣ではなく“自分たちのスタイル”として昇華されている点である。
「Thinking ‘Bout Somethin’」や「Give a Little」に代表されるように、身体が自然と動き出すようなリズム感と、心に残るメロディが共存している。
また、ヴォーカルの表現力、ハーモニーの美しさ、アレンジの緻密さといった技術面も高水準で、セルフ・プロデュースとは思えぬ完成度を誇る。
『Shout It Out』は、青春の終わりでもなく、大人の暗さでもない。
それは、“大人になった子ども”たちが、自分たちの喜びと誇りを大声で歌い上げる、晴れやかな祝福のようなアルバムなのだ。
おすすめアルバム(5枚)
- Fitz and The Tantrums『Pickin’ Up the Pieces』
同じくモータウンリバイバルの要素を取り入れた現代的ソウル・ポップ。 - Jamie Lidell『Jim』
白人ソウルシンガーによる温かみのあるR&Bポップ。『Shout It Out』のムードと非常に親和性が高い。 - Allen Stone『Allen Stone』
ブルー・アイド・ソウルを現代に蘇らせた逸材。ファンクとメッセージ性のバランスが絶妙。 - Joss Stone『Introducing Joss Stone』
オールドソウルの文脈を現代的ポップに落とし込むセンスが、Hansonの本作と共鳴する。 -
Maroon 5『Songs About Jane』
ファンクとポップ、バンド感と親密さのバランスがHansonと重なる、00年代の名盤。
10. ビジュアルとアートワーク
『Shout It Out』のジャケットは、カラフルな塗装に身を包んだ三兄弟がポップ・アート風に描かれた、遊び心あふれるビジュアル。
まるで“青春をもう一度やり直す”かのような軽やかさと、自主レーベルらしいDIY精神が感じられるアートワークである。
ミュージック・ビデオもまた、ダンスやイラスト、パステルカラーなど、視覚的にも音楽と同様に明るくポップな世界観が貫かれており、音と映像の統一感が心地よい。
このビジュアル・コンセプトは、アルバム全体の“Shout=声を上げる”というテーマを、軽快かつ親しみやすく視覚化している。
コメント